エビカニ倶楽部

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ヒメサンゴガニ倶楽部

(ヒメサンゴガニ属の仲間たち)

甲幅 10mm前後

 サンゴガニの稿でも触れているように、私が卒業論文に取り掛かった80年代後半当時では、その前提として、ヒメサンゴガニの仲間はミドリイシ類に、サンゴガニの仲間はハナヤサイサンゴ類に住むという研究結果があった。

 そしてこれも同稿で述べているように、その後実際にフィールドで観察してみると、必ずしもそういいきれないということがわかってきた。

 卒業してから10年経ってから世に出た名著「海の甲殻類」を見てみると、ヒメサンゴガニについてもサンゴガニに関しても…

 ミドリイシ類やハナヤサイサンゴ類の枝の間で見られる

 とあった。ああ、やっぱりね……。

 アカデミック変態社会の所見は私がフィールド観察で思っていたとおりとなっており、かつての定説(?)は完全に覆されていた。

 ところが図鑑ではそう述べられてはいるものの、掲載されているそれぞれの写真を見ると、ヒメサンゴガニ=ミドリイシ、サンゴガニ=ハナヤサイの関係から逸脱しているものがひとつもなかったりする。

 早い話、どうしてもこのサンゴじゃなきゃワタシ死んじゃう!というほどではないにせよ、やはり「好み」といってもいいくらいの関係は存在するということなのだろう。

 住処のサンゴに関するモンダイはさておき、私の卒論時と比べると、ヒメサンゴガニの仲間たちは大変なことになっていた。

 私がザ・ヒメサンゴガニと認識しているのは、冒頭にズラリと並べた写真のうちでは8番のカニさんだけで、おそらくザ・ヒメサンゴのメスであろうと思われる。

 図鑑によるとヒメサンゴガニは雌雄でカラーリングが随分異なっているということになっていて、そこに掲載されている色味に似通っているものはみなヒメサンゴガニのオスです…としてくれれば何もモンダイはなかった。

 けれどヒメサンゴガニが掲載されている隣のページには、「ヒメサンゴガニ属のなかま」として6タイプのカニさんたちがズラリと並んでおり、これがまたザ・ヒメサンゴガニのオスとそっくりだったり、クロエリサンゴガニとどう違うの?と言いたくなるものがいたりと、ややこしいことこのうえない。

 この一連の仲間たちとクロエリサンゴガニを区別する方法(?)についてはクロエリサンゴガニの稿をご参照いただくとして、ではいったいどれがザ・ヒメサンゴガニのオスなのかがよくわからない。

 冒頭のラインナップでは1番のカニさんがそれっぽく、これがおそらくザ・ヒメサンゴガニのオスなのだろうと思われる。

 では2番はどうなのだろう。

 2番も3番もカラーバリエーションの範囲で済ませても良さげなんだけど、それをいうならクロエリサンゴガニだって似たようなものということになる…。

 4番のカニさんについては、横から撮った別個体の写真がある。

 これを観るかぎりでは、ザ・ヒメサンゴガニとはまったく別の種類なのだろう。

 それは5番についても言える。

 6番になると、コイツはホントにヒメサンゴガニ属なのだろうか…というほどに際立って他と異なるカラーリングだ。

 今のところ何を観ても似たような色味のものが「ヒメサンゴガニ属の1種」として紹介されていないから、ここでは勝手に「ヒメサンゴガニ倶楽部」に入れてしまったけれど、はたして?

 7番は、足元の黒点模様を見るかぎりではヒメサンゴガニ属ということは間違いなさそうで、ひょっとするとこれもまたザ・ヒメサンゴガニのメスなのかも…という気がしなくもない。

 結局のところ、ザ・ヒメサンゴガニすらどれだかわからない、(個人的)カオス状態になっているヒメサンゴガニ倶楽部なのである。

 ちなみにここに挙げたカニさんたちはすべて、ミドリイシ類のサンゴの枝間にいたものたちだ。

 かつて覆された定説(?)も、場合によってはマッチするのかも。

 追記

 その後サンゴガニ類について(個人的)新知見はないものかとネット上でサーチしていたところ、ヒメサンゴガニの仲間について検討されているDFファイル仕様の記載論文を発見した。

 いつの間にかサンゴガニ科は半段階上のサンゴガニ上科、ヒメサンゴガニの仲間たちはヒメサンゴガニ科となっていたところからしてすでに個人的新知見だったのだけど、これまでヒメサンゴガニ属の1種とされていたものたちのいくつかにそれぞれ和名がつけられていた。

 ただし標本写真と各部位の計測データの羅列だけではどのカニのことなのかシロウトにはわかりづらく、この稿で紹介しているヒメサンゴガニ倶楽部員なのかどうかがわからないものばかり。

 ただひとつ4番のカニさんだけ、標本写真だけでもひと目でそれとわかった(たぶん…)。

 それについてはひとつの種類として分離独立し、別の稿にて紹介するとして、この調子だとここで紹介している「ヒメサンゴガニ属の1種」たちはいずれそれぞれ立派な和名がつけられることになる(もしくはすでについている)のは間違いなく、ヒメサンゴガニ倶楽部解散の日も近いかもしれない。