エビカニ倶楽部

イソバナカクレエビのそっくりさん

体長 15mm

 同じ節足動物の昆虫と同じくらい多様なエビカニたちのこと、昔に比べれば海中での記録が遥かに容易になっている今の世の中では、既知の種類と似ているように見えて実は違う、という種類が次から次に登場してくる。

 冒頭の写真のエビは、普段あまり訪れる機会が無いドロップオフ地形があるポイントの深いところで出会ったもの。

 もう10年も前のことだから(2012年)詳細はあまり覚えていないものの、大きな(といっても15mmほどだけど)イソバナカクレエビだなぁ…と思いながら撮ったような気がする。

 でもあらためてよく見ると、イソバナカクレエビが拠り所にするものとはいささか異なる生き物についているし、見た目もイソバナカクレエビに比べるとやけに脚が長い。

 あいにく当時は既存の図鑑でビンゴ!なエビには出会えず、正体不明のまま長い間記憶の底に眠ったままになっていた。

 今回あらためて正体を探るべく、手持ちの図鑑を見直してみたところ、発見当時は世に出ていなかった「サンゴ礁のエビハンドブック」の74ページ上段、もしくは98ページ下段に載っているエビに似ていることに気がついた。

 そのどちらかがピッタリビンゴ!かどうかは不明ながら、仮にビンゴ!だとしても、やはり正体不明であることに変わりはなかった。

 正体不明すぎて、図鑑では「ホンカクレエビ属の1種」とか「カクレエビ亜科の不明種」と、かなり大雑把に記載するしかないらしい。

 図鑑という性格上仕方ないにしても、それだとなんだか味気ないから、ここでは「イソバナカクレエビのそっくりさん」という、主観以外のナニモノでもない呼称にすることとした。

 それでも長すぎるから、このエビのことは以後「そっくりさん」と記す。

 で、このそっくりさん、最初の出会いなど完全に記憶の底に沈んでしまっていたものの、一昨年、昨年に撮った写真を振り返ってみると、知らぬ間に再会を果たしていた。

 昨年(2021年)会ったそっくりさんは、これまたわりと深めの海底に生えている、枝がたくさんあるウミカラマツ系のサンゴにいた。

 卵を抱えたメスだろうか。

 その前年には、もっと若い頃と思われる小さな子が、ムチカラマツについていた。

 こんなに透明で小さなエビなど、イソバナカクレエビの若い個体とどう違うの?ってところながら、真横から観た両者の姿、特に頭部を比較してみよう。

 イソバナカクレエビの額角(矢印の先)が高さがあって寸詰まりなのに対し、そっくりさんの額角は、細く長くピシッと前に突き出ているのだ。

 この若いエビたちがまったく別の種類のエビであるということはこれでわかるものの、だからといってこの若いエビが冒頭の写真のエビと同じ種類である、ということまでハッキリしたわけではない。

 そしていずれにせよ、「正体不明のカクレエビ亜科のエビ」ということ以外、何もわからない。

 正体不明といえば…。

 その昔フィルムで撮っていた頃は、なおさら正体不明率が高く、撮っても撮っても「カクレエビの1種」で終ってしまうことが多かった。

 ひょっとすると、フィルムで撮っていた頃の写真の中にも、このエビがいるかもしれない。

 さっそく探してみたところ……いた。

 お腹には卵が、そして頭部には次卵が見えるから、オトナのメスだ。

 けっこう深めのカラマツ系サンゴについていたもののようながら、当然ながら(?)記憶が無いけど、どうやらこの時がホントのファーストコンタクトだったようだ。

 同じ頃、水深40m超の暗い海底に生えていたスナギンチャク系イソギンチャクの群体でも、正体不明のカクレエビ系を見つけている。

 その数日後に再訪してみたところ早くも姿を消しており、その後四半世紀近く経った今でも再会を果たしていないこのカクレエビ系、実はこのそっくりさんのより深いところバージョンのカラーリングってことはないですかね?

 でも横から撮った写真を見てみると、ハサミ脚が画面から切れてしまうほど、思いのほか長い。

 こりゃそっくりさんとは違うエビか…。

 まったく別のエビってことになると……じゃあいったい誰?

 いろいろご存知の方、テルミープリーズ!

 さっそく追記

 本稿をアップしてから現状をいろいろ調べてみたところ、最後に紹介したエビは「ブラックコーラルシュリンプ」という通称で、今やエビカニ変態社会ではすっかり認知されていた。

 なので別枠にて改めて紹介しておきます。