エビカニ倶楽部

キモガニ

甲幅 15mm

 キモガニ属の本家ザ・キモガニは、枝間を覗きやすいからといってヘラジカハナヤサイサンゴの枝間をどれだけチェックしても、(ほぼけっして)会うことはできない。

 ザ・キモガニたちは、もっぱらミドリイシ類、それもテーブル状に育つサンゴがお好みのようなのだ。

 ただし隠れ家として枝間にいるわけだから、枝間が空き空きのタイプではなく、狭苦しいところにピト…としていることが多い。

 そのためヘラジカハナヤサイサンゴの枝間にいるアワハダキモガニと比べると、観づらい撮りづらいことといったらない。

 覗き見るとブルーの瞳が見つめ返してくるから、「キモガニ属」のカニさんだということはすぐにわかるものの、これがホントにザ・キモガニなのかどうか、実のところ自信がない。

 前から見たってわからないのに、↓このような塩梅になっているとますます決め手がなくなってしまう。

 実のところ、アワハダキモガニでもないし、ヒメキモガニでもないってことは、ザ・キモガニだよね…という消去法でしかなかったりする。

 でも各脚の関節部分が赤くなくて、なおかつハサミのツメ部分が黒っぽければ、それはザ・キモガニだろう…

 …と見当をつけることができ、となると↓これは間違いなくザ・キモガニ。

 そして、ザ・キモガニであろうと思われる写真を見くらべてみたところ、他のキモガニ系では観られない共通点を発見した。

 眼の脇の泣きボクロ的位置に、赤い小点が点在しているのだ。

 体表の毛と藻とでかなり観づらいものでも、よく観ると…

 やっぱり泣きボクロ。

 どうやらこれはザ・キモガニの目印になりそうだ。

 それをふまえると、テーブル状に育っているミドリイシ類で観られるものは、ほぼこのザ・キモガニと思って間違いなさそう。

 ところで、テーブル状に育つミドリイシといえば、近年気がかりなのが不審死。

 元気に大きく育っていたサンゴが、急に局所的に白くなったかと思うと…

 …その後ほどなくして全体が死んでしまうのだ。

 一見オニヒトデにやられてしまったかのようにも見えるものの、もしオニヒトデの食害なら食べられたばかりくらいに真っ白なのにもかかわらず、そこらじゅうを探してもオニヒトデの姿はまったく見当たらない。

 水納島の場合そうやって不審な死を遂げるサンゴは水深20m以深でよく目立ち、場所によっては根を覆うほどに群生していたサンゴたちのほとんどが死んでしまったところもある。

 原因不明なので不気味に思っていたところ、どうやらこれはサンゴの「ホワイトシンドローム」と呼ばれているものらしい。

 白化のように見えて白化ではなく、何かがどうにかしてサンゴの壊死が始まるというのだ。

 どうやら病気らしいことはわかっても、その原因は依然詳らかにはなっておらず、白化と違って白くなった部分はなにがどうあろうとそのまま確実に死に至るうえに、どんどん周囲に広がっていき、群体全体が確実に死ぬことになる。

 水納島ではそれが目立ってきたのは2020年からのことなんだけど、他の海では早くも2007年くらいから報告されていたようだ。

 知る人ぞ知る新たなるサンゴの危機「ホワイトシンドローム」、実はこれにザ・キモガニが関わる興味深い話がある。

 あくまでも水槽内の実験ながら、健常なサンゴの枝間にいるキモガニは、ホワイトシンドロームに侵されたサンゴにほぼ100パーセントの確率で移動するそうで、それはおそらく病魔に侵されているサンゴのほうが食事の方法上効率がいいのだろう、と理解されている。

 実際にフィールドにおいても、ホワイトシンドローム進行中のサンゴで、通常あり得ない数のキモガニがついている例が多数観察されているそうだ。

 またそれと関連して、キモガニが居つくことによって、ホワイトシンドロームの進行が遅くなる傾向にあるということも報告されている。

 因果関係を間違えてしまうとまるでキモガニがサンゴを追い詰めているかのように誤解してしまいそうなところ、ジジツはキモガニの食性がなにげにサンゴの死を先延ばしにしていると考えれる、ということになるらしい。

 だからといってホワイトシンドロームに侵されたサンゴが死を免れることはなく、結局群体全体が死んでしまうことに変わりはないとなると、ひそかに拡大傾向中のこのテーブル状ミドリイシのホワイトシンドロームは、食住を全面的に依存しているキモガニたちにとっても存亡の危機にほかならない。