甲幅 20mm
沖縄でガザミというと、一般的にそれはノコギリガザミやタイワンガザミなど食用の大きなカニをさすことが多い。
でもカニ界でいうガザミは、ワタリガニ科(ガザミ科)に属する多くのカニたちにつけられている名前で、大はノコギリガザミから小はこのマルガザミまで、その守備範囲はたいそう広い。
一番最後の脚(第4歩脚)の先がヒレ状に薄く平たくなっているため、種類はわからずともワタリガニの仲間であることがすぐにわかるという便利な特徴を持ってもいる。
そんなワタリガニ科に属するマルガザミは、刺胞動物に寄り添って暮らすタイプのカニだ。
水納島ではハナブサイソギンチャクに寄り添って暮らしているケースが最も多く、もっぱら根っこ(?)の周辺に隠れ潜んでいる。
もっとも、↑この写真のようにあからさまに「マルガザミでござい!」とばかりに姿をさらしてくれていることは稀で、多くの場合イソギンチャクの触手の陰になる暗がりにいる(PCでご覧の場合は、↓この写真をクリックすると大きな画像になります)。
横からストロボをあてているからかろうじてマルガザミの半身にも光が当たっているけれど、触手の陰にいるから自然光では暗がりになる。
だからといって強いLEDライトを横から照射すると、光が嫌いなマルガザミはすぐさま光を避けようとする。
また、観やすい場所に移動してもらおうと指示棒でいじくったりすると、せっかくくつろいでいたマルガザミは途端に警戒し、隠れよう隠れようとするからまったく逆効果になることが多い。
ハナブサイソギンチャクにはこのカニのほかにもいろいろなエビカニが暮らしていることが多く、そういうものを探し求めている変態社会ダイバーの一部には、自分の目当ての生き物にしか目がいかないのか、サーチする際のイソギンチャクの負担を考えないヒトもいる。
刺激を受けすぎることを嫌がるハナブサイソギンチャクはピューッと砂中に没してしまうため、ずっと同じ場所に居続けているはずのハナブサイソギンチャクの姿が消えている、ということも近頃はよくある。
ハナブサイソギンチャクにかぎらず、他の生き物をサーチする際は、なるべく宿主に負担をかけないようにしてあげたい。
ご存知のようにハナブサイソギンチャクは強毒の持ち主なので、外敵といえば無作法ダイバーくらいのものなのだろう。
甲羅に覆われているカニ自身はイソギンチャクの毒についてはノープロブレムだから、根っこの周りのほか、イソギンチャクの口付近にいたり…
ときには触手に乗っかっていることもある。
ことほどさように、マルガザミに会いたければハナブサイソギンチャクをサーチするのが手っ取り早い。
でも基本的に刺胞動物ならなんでも宿主OKのようで、このハナブサイソギンチャクのほか、スナイソギンチャクに寄り添っていたり…
ハナギンチャクだったり…
ウミエラの下…
…にいたこともあった(マルガザミも宿主に応じてある程度体の色を変えているっぽい)。
様々な刺胞動物をマルガザミフォーミングしてしまえるマルガザミの、これまでの人生最小居住スペースは↓こちら。
砂底に生えているサボテングサについていた小さなイソギンチャクの仲間に、チョコンと佇むマルガザミ。
このサイズに成長するまで、ずっとここで暮らしていたのだろうか。
それとも本来の宿主が砂底に没してしまい、途方に暮れての一時避難先なのだろうか。
たとえ小さくともイソギンチャクだからまだわかるのだけど、個人的人生唯一無二の例外として、↓こんなところにマルガザミがいたこともあった。
なんとオオイカリナマコの表面。
見つけた瞬間はナマコマルガザミかと思ったけど、どう見てもザ・マルガザミだ。
こういう偶然から、ナマコマルガザミへの種分化が始まったのかも…。
ともかくもこのようにマルガザミに出会う機会はわりと多いので、姿を見かけたからといって目の色を変えてパシパシ撮りまくるってことはさすがになくなり、心の余裕がある分落ち着いてじっくり眺めることができるようになる。
たたずまいがかわいいからついつい前から撮ってしまうのだけど、マルガザミは背中の模様も美しい。
あいにく背中の模様は、イソギンチャクの根っこ付近にいるとなかなか見られない。
根っこにいる場合でもなかにはお利口さんもいて、観察しやすい位置から逃げ隠れすることなく、のんびりしている様子を見せてくれることもある。
観ていると、早朝の公園に集まるおじぃたちが太極拳をしているかのように、マルガザミは優雅に緩やかに、円を描くようにハサミ脚を動かし続けていることに気がついた。
それはひょっとすると警戒しているからこそ、なのかもしれないけれど、その太極拳(?)中のポーズがまた面白い。
今は亡き千葉真一の呼吸法が聞こえてきそうなほど。
そんな太極拳の最中に突然非常ベルを鳴らして「避難訓練です!」てなことになったら、早朝の公園のおじぃたちも太極拳どころではあるまい。
こういうところに強烈なライトをあてるというのは、つまりそういうことなので気をつけてあげましょう(ストロボ光は一瞬だからか、あまり気にならないみたい)。
そのように海中で注目していても気づけないこともある。
ハナブサイソギンチャクの下にマルガザミがいるところを撮った↓この写真を、PCモニターで眺めていたときのこと。
これくらいのサイズで見ていたらまったく気がつかないところながら、PC画面サイズで写真全体を見れば、マルガザミのハサミ脚に…
なんとエビちゃんが!
どうやらこのハナブサイソギンチャクに暮らしているオドリカクレエビのチビらしい。
こんなの、狙っていたって撮れないシーンだというのに、知らない間に写っていたりするのだなぁ…。
ハサミ脚にエビが載っているなんてのは滅多にないにしても、じっくり観ていると何かと楽しいマルガザミ。
ときにはお腹が↓こうなっている子もいる。
オレンジ色の部分を、脚でホジホジしているところ。
カニさんたちには「フクロムシ」というエイリアン的寄生虫が腹部に着くことがあり、それが卵のように見えることもよくあるのだけれど、これは正真正銘…
…卵のようだ。
これを撮ったのはそろそろ梅雨も明けようかという6月下旬のことで、やはり水温が高くなってくるとマルガザミも繁殖を…
…と思いきや、真冬の1月でも、卵を抱えているマルガザミ・ママがいた。
卵と油断させておいて、実はこれがフクロムシだったりして?
いやいや、やっぱり卵だ。
1月にも6月にも卵を抱えているマルガザミ、年がら年中繁殖期なんだろうか。
どうりで個体数が多いはずだ…。