エビカニ倶楽部

ナマコマルガザミ

甲幅 15mm

 マルガザミと同じく、このナマコマルガザミも他の生き物を暮らしの拠り所にしている。

 マルガザミが名前だけでは何についているのかわからないのに対し、このナマコマルガザミはなんともわかりやすいお名前だ。

 (水納島の場合)ナマコについていることのほうが圧倒的に多いにもかかわらずウミウシカクレエビなんて名前になっているエビとは違い、これまでのところナマコマルガザミがナマコ以外の生き物についているのは観たことがない(気づいていないだけかもしれないけど…)。

 体色や背中の模様は個体ごとにそれぞれで、基本的にナマコの色柄に合わせた体色になっているのだけれど、時には↓こういうこともある。

 ナマコの体表とカニの色味にこれほどコントラストがあれば、どれほどのクラシカルアイでも存在に気づけそうだ。

 ただしナマコマルガザミの場合は、ナマコの体表は庭みたいなもので、本宅はナマコの体内なのだそうだ。

 ナマコの体内と体表を行き来しているのだ。

 ではその出入り口はというと…

 ナマコのケツメド!!

 甲羅の幅は大きくても15mmほど、そして甲羅の輪郭にはトゲトゲしたところがほとんどない体つきは、ナマコの肛門を出入り口にするにはうってつけのようだ。

 イメージ的には、出入りするのは校門であって肛門ってのはちょっと…というところかもしれないけれど、このようにナマコの体内から出入りできることで、とっても便利なことがある。

 ご存知のように時として砂底に潜る習性があるナマコのこと、その体表のみが暮らしの場だと、↓こういう場合にたちまち切羽詰まってしまうことになる。

 ナマコが肛門周辺のみを残し、体のほとんどを砂中に没してしまうと、その体表で暮らしているウミウシカクレエビにはもはや逃れるすべは無し。こんなところにベラなどが来てしまったら、たちまちパクリとやられることだろう。

 しかし肛門から出入り自由なナマコマルガザミはというと、こういう場合でも慌てず騒がず…

 …ではごきげんよう、と隠れてしまえるのだ。

 ナマコの身になると、想像するだけで思わずムズムズしてしまうけれど。

 このように体内にいるナマコマルガザミを観察するのはむつかしいものの、出入り自由な分ナマコの体表で過ごしている時間もたくさんあって、砂底にいるジャノメナマコやニセクロナマコ、ヒダアシオオナマコの腹側にピトッ…とくっついていることも多い。

 なのでナマコをひっくり返すと、その姿が露わになる。

 ただしナマコの下の暗がりで平和に過ごしていたナマコマルガザミは、

 「わぁー、困った、見つかったー!」

 とばかりに、各脚にギューッと力を入れて、ナマコの体表を目一杯引き寄せる。

 もちろんハサミ脚は、しっかりナマコの皮を挟んでいる。

 ナマコがリラックスしているときの体表はやわらかく、カニはその皮をつまんで引き寄せる形になるとはいえ、いくらなんでもタオルケットをかぶるようにナマコの皮の下に隠れるというところまではいかない。

 それなりに平たい体つきとはいってもペッタンコというわけではなく、横から見ればそれなりに体高があるナマコマルガザミ。

 ナマコの体表からこんなに出っ張っていたら、簡単にベラなどに食べられてしまいそう…。

 でもすべての脚でキッチリしっかりナマコの体表を掴んで引き上げることによって、いわばカニの体がナマコの体表にめり込む形になり、カニが出っ張っている部分が無くなる。

 こうなってしまえば、魚にあっけなく食べられてしまうということはなさそうだ。

 ナマコの皮引き寄せの術は、ナマコマルガザミ渾身の防御作戦なのである。

 一方カニに体表を挟まれ引っ張られているナマコはといえば、イテテテ…という様子もなく、これくらい小さなカニに何をされようとも、文字どおり痛くも痒くもないらしい。

 だから同じ棘皮動物のコブヒトデあたりは、生きたまま腕をフリソデエビに喰われ続けたりするのだろうなぁ…。

 肛門と体内を出入りするカニを受け入れるなら、ナマコくらいの脳ミソがちょうどいいのかもしれない?