20mm
ルリスズメダイ、スミレナガハナダイ、サザナミヤッコなどなど、魚の名前にはその体色に由来しているものが多い。
それにひきかえエビ、特にカクレエビ亜科の仲間などは種類が多いためか、名は体ではなく態を表すようになっていて、ウミシダカクレエビ、イソバナカクレエビ、そしてこのウミウシカクレエビのように、宿主の名前が冠せられているケースも多い。
それがイソギンチャクエビのように、どのイソギンチャクについていてもイソギンチャクはイソギンチャクだよね、ということならモンダイはないのだけれど、ウミウシカクレエビの場合は少々厄介だ。
なにしろナマコに隠れたウミウシカクレエビという、実にややこしい状況になってしまうから。
水納島で観られるウミウシカクレエビは、ウミウシに着いている割合1に対してナマコが999くらい、いやいや、ヤラセでもしないかぎり、1に対し9999ですらないはず(そもそも私は水納島では観たことがない)。
それじゃあナマコカクレエビじゃないか。
他所の海では、ウミウシについていることのほうが圧倒的に多いのだろうか?
ミカドウミウシサイズならいざ知らず、フツーサイズのウミウシについていても、「共生」のメリットが無さそうなんですけど…。
それに比べればナマコのサイズは、隠れ家としては申し分ない。
これくらい隠れ家が大きければ、この先大きく育つこともできるだろう。
ただ、宿主の色に応じて体色を変化させることができるものが多いエビたちのこと、このウミウシカクレエビも例に漏れず、冒頭にラインナップした写真のように、宿主の色に応じて随分カラーバリエーションがある。
ニセクロナマコに深い紫色をしたウミウシカクレエビがいるのを初めて見たときには、まさか同じ種類とは思えず、たいそう驚いたものだった。
別の種類か…と思ったその時、そばに↓こういうタイプのものもいてくれたおかげで…
あ…ウミウシカクレエビのカラーバリエーションなのね、と理解した次第。
カラーバリエーションもさることながら、まさかの住処ということもある。
大きくなるヒダアシオオナマコやバイカナマコ、それにムチイボナマコなどを宿主に選ぶのはよくわかるのだけれど、よりによって…という感じでこういうこともある。
狭すぎない?
または……
細すぎない?
写真のオオイカリナマコで暮らしているこのペアは随分長い間同じ場所で観ることができたうえに、ナマコをどうにかせずとも最初から表に出ていることのほうが多く、ゲストに案内する際にはとってもありがたかった。
とはいえ観やすくて喜ぶのはダイバーだけで、ウミウシカクレエビはこれで身を守れるんだろうか?
また、ナマコの中には砂中に潜り込んで惰眠を貪るものも多く、そういうナマコを宿に選んでしまったものは、こういうことになる。
ナマコマルガザミはナマコの肛門の中に逃げ込めるからいいものの、ウミウシカクレエビは全然隠れていない…
ナマコの表面にいるウミウシカクレエビは、ただただピト…とついているだけじゃなくて、じっくり観ていると違うポーズをとってくれることもある。
まだ若く1cmほどの小さなウミウシカクレエビを観ていると…。
このチビチビ、か弱げにオドオドと暮らしているのかと思いきや、見ていると超余裕のポーズを披露してくれた。
ファインダー越しになんか縮んだように見えたのであれ?と思ったら、なんと腰を曲げていたのだ。
さらに曲げていく。
なにこれ?
体をまっすぐにしたままでは届かないところを脚で掻きたかったのだろうか。
その後すぐにノーマルポーズに戻ったから、詳細は不明だ。
ジッとしているだけでは暇でつまらないから、たまには違うポーズでも…ってことだったりして。
「蝦」と「暇」は、なにげに偏が違うだけだからなぁ……。
クラシカルアイではもはや肉眼でポーズを識別することなど無理だから、ファインダーで覗き見る以外に手はないのだけど、クラシカルアイでは無縁だった若い頃でも、写真ならではの発見は多々あった。
その昔フィルムで撮っていた頃は、ポジフィルムを精彩に渡って観ようと思えば目を皿のようにしてルーペを覗き込まなければならなかったから、手ごろなお値段のルーペでは限界があった。
ところがデジカメ時代になって、撮った写真をPCのモニターででっかく見ることができるようになると、それまで見えていなかったジジツを知ることができるようになったのだ。
ウミウシカクレエビの場合は…
お腹の下にビッシリと並ぶ卵を確認できたほか…
ウルトラマンの愛称の由来でもある顎角の縁がギザギザになっていることや…
ハサミの周辺には毛がビッシリ生えているといったことなど……
…デジカメで撮るようになるまでまったく知らなかった。
海の中での発見も楽しいけれど、写真による(個人的)新発見もたいそう楽しいエビカニたちなのである。