体長 15mm
まだ変態社会が幅を利かすようになる前の世の中では、ウミシダで観られるカクレエビ系として一般に認識されているものといえば、ウミシダヤドリエビかウミシダカクレエビくらいのものだった。
ウミシダヤドリエビではなかったら、それはウミシダカクレエビ、と思い込んでいられるシアワセな(?)時代だったのだ。
生き物の世界のこと、そりゃもちろん未知のエビもまだまだたくさんいるであろうことは百も承知していたけれど、フツーによく観られるものなら、それはすでに知られているもののうちのどれかだろうと勝手に思い込むわけである。
なのでウミシダヤドリエビ認定したエビ(当時はここで紹介しているウミシダシスターズたちもそこに含めていた)ではないのにウミシダでよく観られるとなると、それはすなわちウミシダカクレエビ、としていた。
そのため昔撮ったフィルムのマウントを見ると、ウミシダカクレエビとは似ても似つかないホソウミシダヤドリエビの写真に「ウミシダカクレエビ」などと記してあったりする。
その後変態社会が世の中で市民権を得るとともに、エビカニの図鑑も充実するようになってきた。
そうなってから、初めて気がついた。
ウミシダカクレエビって、昔から名前が知られているエビではあるけど、ほとんど目にしていないエビじゃないか。
というか、冒頭の写真は本当にウミシダカクレエビなんでしょうか??
こんだけハサミ脚が長かったら間違いないと思うんだけど……。
一般的には、ウミシダカクレエビはさほど数が少ないわけでもなく、観察するのが難しいわけでもないような感じで紹介されることが多い。
でもウミシダヤドリエビのように宿主のウミシダカラーに合わせた体色になるわけではなく、それでいてエビ本体が特別美しいわけでもない、という地味な存在だからか、個人的にはなんとなく印象に残らないエビだったりする。
観たいと思い続けていれば出会う機会は多いのかもしれない。しかしあいにくそう思わなかったものだから、偶然出会う以外にチャンスはそれほど多くはない。
そんなある日、カメラを携えているときにたまたまこのエビと再会した。
この機会を逃すと、私のことだから次回のチャンスは2年後くらいになるかもしれない(実際には20年経っても訪れていない…)。
そう思いつめ、水深20mほどの根で、このエビ君がウミシダの合間の撮りやすい位置に来てくれるのをじっと待った。
待つこと十数分、モジャモジャのウミシダの隙間から見え隠れするだけだったエビ君が、撮りやすい位置に来てくれたときは、気持ちが通じたとさえ思った。
…そのわりには、肝心の立派なハサミ脚がちゃんと撮れてないので、体は隠れているけどハサミは撮れている写真と合わせて1匹ってことで…。
ウミシダカクレエビは↑このように、ハサミ脚が左右均等サイズで長いという特徴がある。
そして冒頭の写真を見るとお腹に卵を抱えているからこの子はメスで、その特徴はオスメス共通ということなのだろう。
では、冒頭の写真のエビとそっくりながら、ハサミ脚のサイズが異なる↓このエビはいったい誰?(矢印の先はチビウミシダエビです)
ウミシダヤドリエビにしちゃ宿主とのミスマッチカラーが変だし、かといって既知のウミシダにつくタイプのエビに該当者が見当たらない…
…と思ったら、グランドレベルに降り立つこともあるらしい。
おそらくウミシダのそばだったと思うのだけど、撮影時の記憶が無いからたしかなことは不明だ。
住処としてのウミシダにある程度こだわるエビなのか、たまたまウミシダにいたのか、他に写真が無いからまったくわからないナゾのエビ。
単にウミシダカクレエビの若い頃なんてオチはないですよね?