甲長 10mm
どういうわけだかエビやカニの仲間たちには、スベスベマンジュウガニやスベスベオトヒメエビのように、「スベスベ」という形容詞が和名についているものがいる。
スベスベ感を特筆したくなるほど、他は毛だらけだったりゴツゴツしているってことなのだろうか。
そんな「スベスベ」のヤドカリ代表が、このスベスベサンゴヤドカリだ。
たしかに片方だけ大きなハサミなどは、まさにスベスベに見える。
この大きなハサミ脚は、貝殻の中に体を引っ込ませているときに、オカヤドカリたちのハサミ脚のようにフタの役目をするそうな。
フタが毛だらけだったり突起がたくさんあったりしたら、外敵につつかれたりした場合被害を被るだろうところ、ツルツルスベスベなら外敵もきっとなすすべがなくなるのだろう。
スベスベサンゴヤドカリは80年代半後半に刊行された甲殻類の図鑑にはもうその名で掲載されているほどに古くから知られており、なおかつ浅いところで昼間から活発に活動しているようなのだけど、あいにく普段のボートダイビングで出会う機会はまずない。
彼らの暮らしの場が浅すぎるのだ。
タイドプールでもフツーに観察できるほどだそうで、潮間帯あたりが大好きとなると、タンクを背負って潜るような水深では、滅多なことでは遭遇できそうもない。
ということもあり、古くから知られているヤドカリのわりには全然馴染みが無く、初遭遇時にはこれがスベスベ…だということにまったく思い至らなかった。
そのためせっかくのチャンスにもかかわらず、引っ込んでいる状態のハサミ脚に注目することもなく、体を貝殻から出そうか、どうしようか…と悩んでいる状態の中途半端な写真を撮るだけで終わってしまった。
私のスベスベサンゴヤドカリとの出会いは、これまでのところこの時かぎりで、ビーチで潜っていた時にたまたま遭遇したもの。
利用している貝殻を見ると、タイドプールでたくさん見かける系であることがわかる。
やはりこのスベスベ君も、本来はそういうところで暮らしているのだろう。
水深2mにも満たないところではあるけれど、スベスベサンゴヤドカリにとっては未踏のアドベンチャーワールドだったのかもしれない。
※追記(2023年1月)
今年(2023年)になってから干潮時に海辺を散歩しながら、タイドプールを覗き込んでヤドカリさんサーチをしたところ…
いるわいるわ、そこにいるのはスベスベサンゴヤドカリかシロサンゴヤドカリかというくらいに「だらけ」だった。
それも満潮時にようやく潮が届くくらいの、最後まで水溜まりになっているような浅いところで、岩の窪みの加減で深さはまちまちながら、10cmにも満たない水溜まりでさえフツーに観られた。
たくさんいるおかげで、初遭遇時にはノーマークだった「ハサミでフタをする様子」も…
…念願かなって観ることができたのだった。
これほどたくさんいるってことは、やはりこういうところが本来の暮らしの場で、水深2mのビーチの海底なんて、彼にとってはホントに冒険だったのだろうなぁ…。