棲管の長さ 15mm前後
その昔伊豆は大瀬崎で潜っていた頃、オニカサゴなど海底でジッとするタイプの魚の顔あたりに、なにやらアヤシゲな細い管状のものがたくさんついていることがちょくちょくあった。
92年3月撮影@西伊豆大瀬崎
いくらたくさん皮弁がある魚とはいえ、こんな管状のものまで自ら生やしているとは思えない。
…てことは、寄生虫なんだろうか?
その管状のものから何かが出ているシーンは観られなかったけど、その管自体が付け根を基点にピコ…ピコ…と動く様子は観てとれた。
正体がわからなかったものだから、ピコピコ動くのでとりあえず「ピコピコ虫」と名付けることにした(正体不明クリーチャーにこの名をよくつける癖がある)。
その後水納島に越してきてから、どう見てもかつてオニカサゴの顔についていたものと同じに見えるピコピコ虫の管から、節足動物らしき体を出している生き物に出会ってしまった。
これがピコピコ虫の正体だったのか!
もっとも、伊豆で目にしたように他の魚についていることはなく、水納島で観られるものは砂底で自活(?)しているものばかりだから、ホントに同じ生き物なのかどうかは不明ではある。
それでもとにかく、この管の中に節足動物の仲間が暮らしているというジジツは、私にとって久しぶりの衝撃的ジジツだった。
この管、砂底では無造作に横になっていることもあるけれど、たいていの場合基部でなにかがどうにかしてピッ…と斜めに立っている。
↑これを見て「生き物」と気づくヒトがまず少数派で、さらにそれに注目するヒトとなるとかなりのマイノリティと思われる。
でも私の場合、伊豆で数年不思議に思っていたものだから、ついつい興味深く見つめてしまう。
すると…
その管からクリーチャーが出てきた次第。
この管は、海藻やヒドロ虫系の他の生き物をベースに、何本もの管がニョキニョキしていることもあれば…
…1本の管にミニミニサイズの管がたくさんついていることもある。
もちろんこの小さなミニミニパイプからも…
カタツムリの殻のように生まれた時からこの管付きなわけではなく、自分で作っているらしい。
このように棲管を何かに固着させ、管から顔を覗かせて暮らしている生き物なのだろう…
…と思いきや、自由行動をしているものもちょくちょく見かける。
冒頭の写真はその自由行動中のもので、管から身を乗り出し、意外に思えるほどアクティブに砂底を這い進むのだ。
写真にも動画にも残せなかったけれど、このクリーチャーが泳いでいるのも観たことがある。見かける回数は多いわりになかなか正体が判明しないまま時を過ごしていたところ、この生き物はカマキリヨコエビ科のホソツツムシ属の仲間であることをようやく知った。
広いグループでいうなら、ワレカラの仲間になるらしい。
でもカマキリヨコエビだなんて、カマキリというよりはどちらかというとナナフシみたいなんですけど?
そう、管の中から現れた姿を初めて見たその日からずっと、泳ぐにしろ這い進むにしろ、管から身を乗り出してワッセワッセと動かしている細長い部位を、私は手脚だと思い続けていたのだ。
ところがさらに観察を続けるうちに、2対の手脚と思っていた部分には細かい毛がたくさん生えていることを知った。
ドロノミの仲間の触角にそっくりだ。
さらに身を乗り出しているこのホソツツムシの仲間を観てみると…
胸(?)のあたりから白い腕が出ている。
その腕を拡大してみると…
鎌だ!
なるほど、こりゃたしかにナナフシじゃなくて「カマキリ」ヨコエビだわ。
泳いだり這い進んだりするときは触角を使いつつ、いざという時にはこの鎌を使うのだろうか。
ちなみに上の写真で小さな鎌脚を出しているのは、実はバトルをしているところ。
たまに見かけるこのバトル、小さいながらも先ほどの写真のように互いに相手を掴み合うなかなか激しいもので、引っくり返った状態で掴み合っていることもある。
戦いがエスカレートすると、ほぼ全身をさらけ出すことも。
ワレカラ同様、その末端付近に脚がある。
バトルをしている際には、まず例外なくすぐ近くに、「~♪ケンカを止めて…」と歌う河合奈保子のようにもう1匹いる。
これはやはりメスをめぐるオスのバトル、ということなのだろうか。
そして勝者はその後?
バトルは観たことがあっても、彼らの恋模様はいまだ知らない世界。
また春になったら、ホソツツムシサーチをしてみようっと。