(Lysmata debelius)
体長 50mm
2013年に刊行された「サンゴ礁のエビハンドブック」がエビラバーにとってのバイブルのようになって以来、そこに記されている呼称がエビカニ変態社会での通称になる…という傾向がある。
そのため、かつてこのエビの通称としてダイバーにも広く知られていた「ホワイトソックス」という名は、もっぱらアクアリスト方面のエビ好きさんたちの間でのみ通り名として残になっているらしく、「エビ ホワイトソックス」という名で画像検索をしたら、画面に並ぶ写真は水槽写真ばかりになる。
ではフィールドで撮影されたこのエビの画像を見たければどう入力すればいいのかというと、リスマータ・デベリウスという、学名カタカナ表記でOK。
各地で撮影された赤白クリスマスカラーのエビたちが、画面を彩ることだろう。
でもデベリウスと言ったら、西欧変態社会にこのヒトありと知られる筋金入りの変態オッサンの名前だし、ホワイトソックスのほうが見た目どおりでわかりやすいし短くて便利なので、ここでは旧来どおりホワイトソックスと呼ぶことにする(シロボシアカモエビという和名がついたかに見えた時期もあったものの、今のところ「無かったこと」にされているようだ)。
海水魚ショップではかなり安定的に販売されているところを見ても、南洋方面のいるところにはたくさんいるっぽいホワイトソックスながら、かつての日本ではスーパーレアなエビだった。
初めて日本で見つかってからしばらく経った99年に出た図鑑では「日本では慶良間諸島から記録された」としか書かれておらず、その翌年に出た図鑑には「日本では、沖縄の慶良間や西表島などで見られる」とあるのみ。
前世紀終盤のその当時、「エビエビカニカニ…」と血眼になっていた私にとって、まさに夢マボロシのエビだったのはいうまでもない。
ところがその頃、例によって某海洋写真家氏が、
「ホワイトソックスが禁断の根におりましたでぇ…」
と、さりげなさを装いつつも相当自慢げに報告してくれた。
95年のことである。
禁断の根というのは砂底にある根のことで、ゲストをご案内するにはいささか深すぎるため滅多に訪れることはなく、6畳ほどの根は生き物パラダイス状態で(当時)、虜になって立ち去れなくなったら危険だ…という意味で我々が「禁断」の根と呼んでいるところだ。
そこに、夢マボロシのホワイトソックスがいたというのである!
もはや居ても立ってもいられない。禁断だろうがKINDONだろうが行くしかない。
そうして久しぶりに訪れた禁断の根は、エビたちのまほろばだった。
人擦れしていないアカシマシラヒゲエビやスザクサラサエビたちがウジャウジャしていて、手を差し延ばせばたちまち寄ってたかってくるほどだ。
たちまち夢心地になりつつも、長居できる場所ではないからさっそくホワイトソックスの姿を探してみると…
いた。
人生初遭遇♪
ただしそこにいる他のエビたちと違ってホワイトソックスは異常に警戒心が強く、くぼみの奥から頭をちらっとのぞかせているだけだ。
そーっと手を差しだし、クリーニングしに出てきてくるのを期待したところ、かえって奥に引っ込んでしまった…。
当時ケラマで発見されて世に出ていた写真は水深15mで撮影されたものというから、それならエビが表に顔を出してくれるまでじっくり長期戦に持ち込めたことだろう。
けれど禁断の根では長居は禁物。この時は結局頭を撮っただけで終わり、後日数回のチャレンジを経て、やっと全身を撮ることができたのが↓これだ。
アケボノハゼだヘルフリッチだと大騒ぎして体内窒素だらけだなんて、ハゼ好きはまったくしょうがないなあ、もっと浅いところにいる海外で撮ればいいのに……とハゼ変態社会の狂乱ブリを嘆いていた私自身も、まったく同じことをしていたのだった。
夢マボロシ級の憧れのエビちゃんと会うことができ、写真も残せてすっかり心が落ち着いた今世紀になってからは、温暖化の影響なのだろうか、沖縄各地でホワイトソックスのその姿が確認されるようになってきたようだ。
水納島でも2005年の春から翌年春くらいまでの間、水深30mにある小さな根にずっと居続けてくれたことがあった(同じ子かどうかは不明)。
その根は他にバイオレットボクサーシュリンプがいたりするなど、魅惑のキャラクターを続々排出してくれるところで、小さな根ながら侮れない場所として重宝している。
水深30mほどだから日中でも照度は低く、アカシマシラヒゲエビならもっと外に出てきていることが多いのに、ホワイトソックスはせいぜい出口付近に姿を見せるだけで、近寄るとシュルシュル…と奥に引っ込むことが多かった。
白い触角や白い脚は、アカシマシラヒゲエビ同様クリーナーの印なのだろうし、冒頭の写真のようにウツボをクリーニングすることはある。
でも小魚に対してはアカシマシラヒゲエビほどの積極性はないようで、さほど仕事熱心そうには見えなかった。
そこでホワイトソックスが観られた間には、何人かのゲストにもご覧いただくことができたのはよかったのだけど、当時は私もだんなもフィルム用の一眼レフハウジングが使用不能状態になっており、デジイチ導入前だったため、コンデジでしか撮ることができなかった。
ま、少なくとも当時は1年ほどの間観ることができたということが今でも明らかなのは、コンデジ写真記録のおかげだ。
その2年後には、水深15mあたりの小さな根にしばらく居ついてくれたことがあった。
その頃導入したばかりのデジイチでだんなが撮ったのが冒頭の写真なんだけど、水深15mにいるホワイトソックスだというのに、その際撮った写真がこれ1枚しか残されていない。
デジタルだからフィルムの枚数制限があったわけではなく、水深15mでエビを撮ろうと思ったらいくらでも撮れそうなものなのに、なぜ?
どうやら、器材こそデジタル化されてハイテク機器になったのはよかったものの、撮った写真を整理する能力はアナログローテクのままだったため、その時必要と思ったもの以外がどこぞに消えてしまったらしい…。
皮肉なことに、私がデジイチを導入してからは、プッツリ消息を絶ったままのホワイトソックス。
そろそろ魅惑のキャラ排出ポイントを重点的にチェックしてみようかな…。