10・宿直室

 天国よりもきっと天国に近かったじんべいでの昼食を終え、再び養殖場へ戻ってきた我々は、しばしの休憩時間を頂戴した。

 休憩場所は、今日の宿泊場所でもある、養殖場の宿直室。

 宿直室!!

 石垣へ出発する前に、あらかじめえび屋−Mさんが伝えてくださっていた今回のミッションの内容を見て、誰よりも喜んでいたのは、ほかでもない、うちの奥さんだった。

 だって、普通に生活していて車えびを味わう機会はあっても、養殖場の作業風景を見ることができる機会なんてそうそうあるはずはないし、養殖池には潜れるし(彼女は特に潜る必要はなかったんだけど…)、それになんといっても宿直室で寝泊りできる♪

 彼女が以前勤めていたサンシャイン国際水族館(現・サンシャイン水族館)にも宿直室があったものの、当時の女性職員には宿直当番がなかった(今はどうか知らない)。
 宿直室に寝て何が楽しいってもんでもないだろうけど、泊れないとなると泊りたくなるというのが人情というもの。
 その念願が、ついにここ石垣島でかなうのだ。


いきなりくつろぐオタマサ。

 一方僕はといえば、すでに何度も触れている久米島の養殖場でお世話になっていた当時は、2ヶ月余に渡り、まさにその宿直室で寝泊りさせてもらっていた。

 潜水仕事がある養殖場にはもちろんシャワー室があるし、トイレはあるし、キッチンはあるし冷蔵庫はあるし……と、完全に居住可能空間なのである。

 そんな宿直室には、交代で宿直にあたる社員の方が日替わりで「同宿」ということになる。
 翌朝が早いから、みなさん羽目をはずして何かをするということはなかったけれど、なかにはとっても面白い方がいらっしゃった。

 お酒が大好きなその彼は、宿直の際にも欠かさず久米島の久米仙3合瓶を抱えてくる。
 酒量的にはとても経済的にいいコンコロもちになられるのはよかったものの、蓄積されたアルコールが日々分解されきっていないからか、いいコンコロもち状態から急速に「壊れた状態」になってしまうことが多かった。

 壊れちゃうとなにが始まるかというと、トイレに行くはずなのになぜだか事務所方面を彷徨い、おもむろに事務机の引き出しを開けたかと思ったら………あわや!!!

 間一髪事件が何度あったことだろう。

 …というか、バイト期間こそ僕が同宿していたから未然に防げたけれど、お一人で宿直されていたときはいったいどういうことになっていたんだろう???

 シラフのときはとってもいい人で、大阪出身で琉球大学の理学部生物学科を卒業されているということもあって、年は離れていたわりには話も合った。バイト中はとっても可愛がっていただいた恩人である。

 今はもう久米島の養殖場にはいらっしゃらないというその方を、この日宿直室に居る間とっても懐かしく思い出していたのだった。

 M井さん、お元気ですか??