11・ミッション・インポッシブル

 休憩をさせてもらったあと、昨日、アワワアワワと言っているうちに終わってしまった、カゴ入れ作業や餌撒き撮影のリベンジを。

 どのように作業が進むか、ということがわかっていれば、どうやって撮るか、という予定も立てられるというものだ。

 といいつつ、昨日の「ロケハン」の成果があったかどうかは微妙ではある。
 でもまぁ、この日の午後の方が天気がいいから明るいし、きっといい結果を生んだに違いない……と信じよう。

 そんな日中の陸撮が無事終わったあと、ついにこの日のメインイベントが待っていた。
 ……って、イベントってわけじゃないですけど、僕的に最大級の山場が、池の中のエビちゃんたちの撮影だ。

 養殖池の中に潜る!!

 そして水中撮影をする!!

 ここにこそ、わざわざえび屋−Mさんが僕に白羽の矢を立ててくださった唯一最大の理由があるといっていい。

 今さら「撮れませんでした」なんて結果はありえない。
 だからこそのプレッシャーだったんだけど……

 初日、養殖場に着いて真っ先に池を見たとき、まず思った感想は……

 何も見えないんじゃね??

 かつての久米島バイト時代でも、何度か池に潜ったことがあった。
 当時は沖縄の海で潜ったことしかなく、透明度が悪いといってもせいぜい砂辺のポイント程度のものだった僕にとって、養殖池の中は当時の人生最大級の透明度の悪さだった。
 レギュをしっかりくわえているのに、息をするのも忘れるくらいに「見えない」状態に驚いたものだ。

 その記憶を振り返ると、それでも現在の渡久地港くらいには見えていた気がする。少なくとも渡久地港内では、目の前を通過していくギンガメアジのチビターレの群れは見える。

 ところが今回の池は、ワケが違った。
 久米島でお世話になっていた4月、5月とは違い、まだ池の中にエビちゃんたちがわんさかいる状態だから、その分水の濁り具合いも異なるようだ。

 実際に毎日潜っておられるスタッフの方が書いている業務日誌には、各池ごとの透視度の欄もあって、そこには…

 5センチ。

 実に潔く書かれてあった。
 池の中のエビを撮るんです、とスタッフの方にいうと、みなさん口を揃えて言う。

 「………見えないですよ」

 たしかに見た目といい、5センチという透視度といい、問題はすでにエビの写真を撮れるかどうかという部分をアッサリ通り越しているよなぁ、きっと。

 まさにこれは、ミッション・インポッシブル!!

 エビちゃんたちは、夜行性とはいえ時間帯によって活動状態が異なるそうで、何時くらいが撮影にバッチリか、というのが未知数。
 そのためまだ明るいうちから準備して、日が暮れきる前から潜り始めることにしていた。

 その前に、まずはカメラの水没チェックと、その前に自らの水没チェック。


撮影:オタマサ

 池の水温はここのところ上昇していて、26、7度ある、とうかがっていたとおり、温かい温かい。
 3月下旬になってもなお水温が20度しかない水納島の海に比べれば、温泉に浸かっているかのような按配だ。

 久米島の池に潜った当時は4月で、水温はたしか20度を切っていたような覚えがある。
 それがめっぽう寒くて、背中に大穴が開いたウェットスーツだったから、冗談でなく死ぬかと思った。

 それに比べてこの石垣の水温。
 同じ沖縄県でも、本島地域と八重山地域ではまったく条件が異なる。
 エビちゃんにとっても水温の違いは大きいそうで、車えびの旨み甘み成分グリシンにとっては、この八重山の水温がバッチシという。

 ちなみに八重山地方の海水温も、やはり本島地方のそれよりも幾分高い。
 21度と23度の差で生じるショックと、27度と29度の差で味わうそれとでは、同じ2度の差でも全然違う。
 春休みからGWにかけての八重山地方の海水温は、同じ時期に本島地方で潜るガイドダイバーからすれば、羨望のマナザシを向けたくなるほどの温度格差なのだ。

 最も不安視していた水温のモンダイはすっかり解消されたので、まずはどの程度見えるか、ちょこっと底まで行ってみた(池の深さは楽に背が立つ程度)。

 み……………見えないッ!!

 見えない見えないとはいっても、まぁこれくらいは……と寄せていた淡い期待は木っ端微塵に打ち砕かれた。
 これじゃあ撮影どころか、エビの姿を察知することすらできそうにない。

 絶望の淵に立ちながらも、やってみる前から「無理!」というわけにもいかない。
 迷わず行けよ、行けばわかるさ!

 ……で、いきなり迷ったのが肝心のレンズ。

 透明度5センチの水中。
 しかもナイト。
 被写体はエビ。
 サイズは15センチ超。

 そういう場合、どういうレンズでアタックするのがベストだろうか。

 いろんなレンズを装着したハウジングを何台も持って入れるならともかく(でも水中で手放した途端にどこにあるかわかんなくなるだろう)、当方が所持しているのはただ1台。
 それでレンズが合わないからといって、いちいち水から上がって体を拭いて、ポートを代えてレンズも換えて、ってやっていたら埒が明かない。

 ここは最初からベストの選択をしなくては。

 エビの顔をアップで撮るのが主目的ではないし、被写体のサイズからして28ミリレンズあたりが理想かなぁ……と思ってはいた。

 が。

 どうせ濁っているんだったら、被写体にこれでもかと近寄っても全体が撮れるレンズ、すなわち超広角のフィッシュアイでいいんじゃなかろうか。

 えび屋−Mさんの写真使用目的は、ウェブサイト上の画像である。
 モニターで見る分なら、トリミングしてエビちゃん単体をアップにしても使用に充分耐えるだろうし。

 というわけで、ナイトダイビングだというのにフィッシュアイを選んだ。
 はたして吉と出るか凶と出るか??