6・とある街の店にて

 養殖場の仕事は、夜が明ける前から始まるかわりに、まだ日が暮れる前には作業が終わる。
 あらかた撮影を終え、翌日の段取りを確認した我々も、再びえび屋−Mさんの車に乗せてもらって市街地のホテルに戻った。

 そこで少々時間をいただいてから、灯ともしごろになって次なるミッションへ。

 再びシアワセの車えび料理撮影である。

 ただし、ここはお店の名を明かせない。
 というのも、そうやって宣伝されることにより、大勢人が押し寄せるようになってしまうと、元々この店を好んでお越しいただいているお客様に迷惑がかかるから、というお店の方針。

 そんなわけで店名は明かせないものの、ここでもまた至福のひとときを過ごした我々。

 

 奥様も同席してくださったこの夜は、

 車えびのお刺身
 車えびのにぎり寿司
 車えびの頭の素揚げ
 車えびのマヨネーズ炒め
 脱皮車えびの素揚げ
 車えびのお味噌汁

 ああ、ヨダレの洪水で溺死しそう……。
 このうえさらに、えび屋−Mさんは

 「ここのいのししが美味いんだよぉ!!」

 さらに進撃を開始する勢いだった………。

 と、魅惑の料理をいくら紹介されたって、そんな高価なもの、フツーに食べられるわけないじゃんッ!!

 そうお怒りの方もいらっしゃるかもしれない。
 が、えび屋−Mさんがこうして市内の飲食店に車えびを提供しているのは、食材としての車えびの実力を、広くあまねく、地元の方々や観光客に知ってもらいたい、という趣旨に基づいている。

 そのためその価格は、不可能を通り越しているほどにお求め安く設定されているのだ。

 いやホント、こんな豪華なもの、那覇あたりじゃとてもじゃないけどこのお値段で食べられないですぜ。
 銀座あたりじゃ車が買えるかもしれない……。

 そんな至福のご馳走に 仕事を忘れ 撮影意欲をメラメラと燃やしつつ、生ビールをゴクゴク飲みまくる我々。

 銀塩写真時代は、どんなに完璧な準備とセットで撮影したとしても、現像が上がってくるまでは不安で仕方がなかったものだった。
 実際、完璧に撮った!!と思っていたものが、現像から上がってきたらぜ〜んぶ真っ黒(もしくは真っ白)なんてこともあった。

 フィルムの頃に写真を撮っておられなかった方には、想像もつかない緊張感なんだろうなぁ。

 デジカメだと、その場で確認できるからなんとも便利だ。
 そのうえメディアとバッテリーさえ充分にあれば、フィルム枚数という制限がないからいくらでも撮れる。

 この仕事がフィルムの時代だったら、現像が上がってくるまで、僕はきっと寝られない日々を過ごしたことだろう。数々の車えび料理も、とても喉を通らなかったかもしれない。
 それを思えば、この日の快食と快眠は、すべてデジカメの存在のおかげといっていいのかもしれない。 

 ちなみにホテルはヴェッセル石垣島。
 過去2度のマラソン参加の際に利用したホテルだ。

 すでに我々にとっては、那覇の船員会館なみに定宿になったこのホテル。価格のわりに部屋もベッドもやたらと広く、使い勝手のいい浴室。
 おまけにビュッフェスタイルの朝食もついている。

 が。
 一夜明けたその朝食で、いつものようにモグモグ食べているうちの奥さんとは違い、僕はジュースしか口にできなかったのだった。

 どうやら前夜、さっそく食べ過ぎてしまったらしい。<ホントに仕事していたのか??

 この日のミッションに支障をきたしたりすることのないよう、ここはひとつ胃腸を休めるに越したことはない。

 ……といいつつ、本当はこの日のさらなる車えび料理のために、胃袋を空けておきたい、という意味であるのは言うまでもない。