15・隅田川テラス

 実はこの日、美味しいものを食べること以外にかなり重要なミッションがあった。

 洗濯だ。

 すでに島を出て5日目ともなると、さすがに洗い物が溜まる。
 島の民宿のように洗濯機を使わせてもらえないかわりに、ホテルにはクリーニングサービスというものがある。

 しかしなにしろ銀座のホテル。クリーニング代だけで余裕で一晩食事ができてしまうから、それを利用するのはメインイベント用の一張羅だけに留めた。

 まぁ探せば銀座にもコインランドリーくらいはあるだろう。

 ……というのは、銀座の地価を正しく把握していない田舎者の考えだった。
 そりゃそうだ、銀座の土地を使ってコインランドリー営業だなんて、1日100万人分くらい稼動しなきゃやっていられない。

 そこで旅行出発前に付近のコインランドリーを探してみたところ、築地まで来ると普通に何軒かあることを知った。

 何を隠そうこの朝は、洗濯物をたくさん入れた袋を持ったまま弁富すしさんを尋ねていたのだ。

 お寿司屋さんで至福のひとときを終えた後、一路勝鬨橋方面へ行き、前夜お邪魔したやまだやさんの前を通り過ぎてもう少し行ったところにあるのが……

 コインランドリーマミー築地店。
 オープン時刻にお邪魔したために、店内では管理人さんらしきご婦人が床掃除をしていて、妙に来店を感謝されてしまった。

 ズラリと並ぶ洗濯マシーンでは、量的に洗濯に30分、乾燥に30分。
 あいにく乾燥まで1台でできるマシンではないので、30分後にはここにいなければならない。

 その30分を使い、すぐ近くを流れる隅田川のほとりを散歩してみた。

 隅田川テラスと呼ばれているところ。
 隅田川沿いの川岸がきれいに整備されていて、ゆったり流れる川面を眺めつつ、のんびり散歩をしたりジョギングしたりすることができるところだ。

 こういうところでジョギングしたら、さぞかし心地いいだろうなぁ…。

 土手の上には、わずかながらも秋がまだ残っていた。

 そして川面には、ときおり水上バスが行き交う。


写真は後刻対岸のテラスから撮影したもの

 〜♪
 小春日和の隅田川
 上り下りの水上バス
 櫂の雫はないけれど
 眺めはやはり 隅田川。

 両岸にはビルが建ち並び、昔と違ってエンジンで動いてはいても、やっぱり川面に浮かぶ船は絵になる。

 そんな隅田川テラスで、こういう鳥を見つけた。

 オナガ。
 うちの奥さんによれば、このあたりだと珍しくもなんともない鳥らしいけど、沖縄ではまず見られない。
 ことさら野鳥の名前に詳しいわけではないものの、「見慣れない鳥」というサーチ能力はあるから、他所の土地に行くとそういうモノに出会えて楽しい。

 鳥といえば、勝鬨橋の橋詰近くにたくさん集っている鳥さんがちがいた。

 ご存知、ユリカモメ。
 ややドキドキしているようながら、これくらい近寄ることができる。
 夏の間島でしょっちゅう観るアジサシよりは大きく、本家カモメよりは小柄な鳥だ。
 じっくり観る機会なんてそうそうないから、この際お近づきになってみると……

 思いのほか可愛かった。

 この隅田川テラス、この界隈で2晩続けて飲んだので、連日夜の姿も楽しむことができた。
 夜は夜でなかなか趣がある。

 昼間はユリカモメたちが屯していたあたりからの眺め。
 極上の酒と肴を楽しんだ後に見る夜景は、まるでクリスマスのイルミネーションのよう。
 普段夜景といえば、対岸の伊江島か瀬底、本部がせいぜいという暮らしなので、これだけでも100万ドル級に思えてしまう。

 勝鬨橋もなかなかやる。

 なんとなくファミリーマートに似ていなくもないものの、コンビニの明るすぎる照明に比べればよほど趣きがあるといえよう。

 その勝鬨橋の欄干から下流側を眺めると…

 これから仕事が始まるのであろう築地市場越しに、東京タワー。

 スカイツリーに主役の座を明け渡し、昔日を懐かしみながらヒッソリとたたずんでいるのかと思いきや、今もなおこれから宇宙に発進しようかという勢いで輝き続けていた。

 星空か夜景かと言われれば、そりゃあ星空のほうがいい。
 けれどたまにはこういう街の夜景ってものもいいもんですな。

 さてさて、まだこの日の午前中だった。
 洗濯時間の30分も、乾燥の30分も、あっという間に終了した。
 着るものがなくなりかけていた我々は、これにて再びエネルギー充填。
 これで帰るまで充分保つだろう。

 さすがに洗濯物を抱えたままこの先散歩を続けられないから、いったんホテルに帰還した。

 そのあと我々は再び戻ってきて、初めて勝鬨橋を渡る。

 目指すはなんじゃ?

 もんじゃ!!