19・高層の視角
今回の旅行中、唯一太田胃散に頼った一夜が明けると、快適な目覚め。 さすが太田胃酸、ありがとう、いい薬です。 この朝も早起きして、すでに触れたとおり弁富すし再訪を果たした。 そのあと、玉子焼きの大定で玉子焼きをひとつ購入。 その後はこれまたすでにご紹介したとおり、場内の卸売り店で購入したマグロのお刺身をベンチに腰掛けていただいた。 その際一緒にいただいたおでんを売っている佃權さんはここ。 築地場外市場に2店舗ほどあるうちの、門跡橋のほうのお店だ。 寒い季節限定というおでん、いろいろネタがあるなかでも鰯のつみれが最高に美味かった。 その場でいただくなら迷わずおでんをオススメする次第だ。 我々がこの日おでんを買いに来た時は、傍らに妖精のようなおばあちゃんが2人並んでいた。 何をしているんだろうと思っていたら、テイクアウトのおでん待ちだったのだ。 地元の人々にもちゃんと愛されているのだ。 細かく買い食いしてお腹を満たし、鰹節だとか江戸前の海苔といった日持ちのするお土産をこの日のうちに購入したあと、築地市場をあとにした我々は、一路汐留を目指した。 築地界隈や月島・佃島に染まってしまった我々が、今さら汐留のような異世界で何をしようというのか。 ビジネスマンで溢れている平日の昼時に、築地の買い物袋なんぞをぶら下げていったい何をしようというのか。 我々がノコノコ目指していたのはこのビルだ。 カレッタ汐留。 全面ガラス張りの壁の中を、SF映画のようにエレベーターが高速で上下している建物である。 この46階に、無料の展望コーナーがあるというのだ。 お台場を見渡せる…というそのお台場がどういう方向になるのかは微妙だったものの、そっち方面が見渡せるなら、ひょっとすると……と期待していた。 1階なんだか地下なんだか2階なんだかさっぱりわからない迷路のような地上階フロアを上下しつつ、ようやくエレベーターに到着。 このあたりで働いている方々にとっては当たり前の存在だろうけど、こんな高層ビルなどひとつもない沖縄に住んでいる人間にとって46階なんていったらあなた、ラピュタなみの天空の城ですぜ。 しかもエレベーターは全面丸見えのガラスの壁を登っていくものだから、やや高所恐怖症の気がある僕のオマタは思わず「ヒュン……」となってしまった。 やや眩暈を感じつつもついに到着。 すると、本当にあった。 そしてその展望ゾーンが向いている方向は、はたして僕の期待どおりだろうか? さっそく大きな窓から覗いてみると…… やっぱりあった、眼下に浜離宮!! そしてその隣にはもちろん…… 築地市場!! 浜離宮と築地市場って、ホントにお隣さんなのである。 前日までずっと青く輝いていた東京の空なのに、今日は朝から風が強く、上空には筋状の雲が広がっていた。 そんな眺めを見ながら、オタマサがなにかに感心していた。 「新聞社の屋上って、ホントにヘリポートになってるんだねぇ…」 築地市場のそばの朝日新聞を見ていたらしい……。 ちなみにこのヒト、3日前はここで大の字になっていたのだ。 余裕で上から視認できる距離だったとは思いもよらなかった。 カレッタ汐留の展望ゾーンは、期待どおりの眺めだった。 というか、浜離宮を歩いているときは背後の高層ビルなど邪魔で仕方がなかったくせに、なんだかんだ言いながらこうしてちゃっかり遊ばせてもらったのであった。ハッハッハ。 さて、この日は銀座滞在最後の夜。 例によって遠回りして銀座通りのクリスマスイルミネーションを楽しみつつ、またしてもやってきました築地場外市場。 しかしまだ宵の口も宵の口の6時過ぎだというのに、完全に市場は終了モードになっていた。 ところが驚いたことに各寿司屋さんは、店頭で呼び込みまでする気合の入れようで営業していた。 僕が得ていた事前情報では、夜にやっている寿司屋はほとんどないという話だったのに、そこかしこでがんばっているではないか。 もっとも、そんな呼び込みをすればするほど、我々はそういう店には入らないんだけど……。 一方場内はどうなっているのかチェックしに行くと…… 海幸橋門のゲートは閉じられていた(正門は車が行き交えるようになっている)。 警備室のそばにヒトが通行ができる場所があったので、警備員のニィニィに入場許可を得に行くと、 「……開いている店は1軒くらいしかないですよ?」 と、親切に状況まで教えてくれた。 ホントに真っ暗!! そんななか、「開いている1軒」の店があった。 築地場内市場において異彩を放つイタリアンの店、トミーナ。 昼間はターレーが行き交う場内も、この時間はこのとおり。 深夜から始まる新たな1日の戦いに向け、じっと息を潜めているようにも見えた。 そうやってみんなが静かに明日を待っているこの築地で、我々の銀座滞在最後の夜が始まる……。 |