29・鮨居酒屋石松

 明けて2月25日。

 5泊6日の五島滞在、いればいるほどもっと長くいたかった…と願わずにはいられないけれど、少しばかり未練が残るくらいがちょうどいい。

 といってもこの日は午後3時半の飛行機だから、お昼はまだ福江でいただくチャンスがある。

 となると午前中は丸々空いているので、気ままにプラプラすることにした。

 5泊お世話になったホテルダウンタウンをチェックアウト。

 キーを返しにフロントに行くと、我々がこの日も宿泊予定と勘違いし、「行ってらっしゃいませ」と言いながらキーを預かってくれようとしてしまい、照れ笑いするフロントのおねーさん。

 大きな荷物はチェックアウト後も預かってくれるので、身軽な格好で街へと繰り出す。 

 気ままにプラプラといいつつ、最初に来てしまったのはやはりここ。

 ワタシにとっての福江島のトレビの泉。

 福江島 火山もいいけど お堀もね。

 朝まだ早い時間ではあっても、土曜だから通勤通学の人々の姿はないかな…と思いきや、通学する生徒たちの姿がチラホラ見えた。

 こちら側から五島高校へ通学するとなると当然………

 生徒たちはこの蹴出門を通っていく。
 石田城城跡の門は、今もなお現役の通用門なのだ。

 この蹴出門を通っているのは、もちろん生徒たちや我々観光客だけではなく、付近の人々もまた普段の生活でフツーに通っている。

 そしてこの方もまた、40年以上も前にこの門を通っていたのだった。

 門から出てきて橋の上にいる2人がいったい誰かというと……

 若き日の宮本信子と、この背中はもちろん寅さん。

 宮本信子に傘を渡してこの場で別れ、小雨降る空を見上げて踵を返し、雨に打たれて再び門を通っていく寅さんなのであった。


以上3点、松竹映画「男はつらいよ純情編」より

 なんだか妙に和む場所なので滞在中通いつめたこのお堀、山田洋次のおめがねにもかなう場所だったのだなぁ。

 ここまで散々引用してきた「男はつらいよ純情編」、実をいうと過去に観た記憶はまったくなく、キャプチャー画像はすべて帰宅後その存在を知った公式サイトにある予告映像からなので、本編の内容はあらすじ以外知らない。

 このほかにもふんだんに出てくるかもしれない福江島の40年前の景色を楽しむためにも、せめてこの巻だけでもDVDをゲットしようっと。

 なにはともあれこのお堀、今度こそ本当に見納めだ。
 もしまた福江を訪れる機会があったら、真っ先に立ち寄りそうな気がする……。

 その後自分たち用のお土産を物色すべく、少し外れたところにあるエレナという大きめのスーパーに寄ったあと、武家屋敷通りを歩いてみた。

 右も左もわからなかった前回探訪時とは違い、今ならこの石垣塀とこぼれ石を見ても……

 その出所の見当がつくようになっている我々である。

 初探訪時のようになんでもかんでも撮っておこうとしていないから、落ち着いてのんびり歩くことができた。
 「再訪」も大事かもしれない。

 その後、前夜「先輩」から教えてもらったキビナゴ漁専用の船の装備を確かめるべく福江港に。

 新しい埋立地のほうに渡り、漁船を見てみる。

 おお、集魚灯だらけだ。

 これでキビナゴを集めるわけか…。

 前夜先輩からは、ご本人の名前はおろか、船の名前すら聞きそびれてしまったから、どの船が先輩のものかもわからないけれど、集魚灯はおおむねこんな感じで、こんなに無防備で大丈夫なの?ってくらいの放置プレイで船に取り付けられている。

 今夜もまた、先輩をはじめとするキビナゴ漁師さんたちは、海へと繰り出すことだろう。
 風もおさまり天気も上々とくれば、きっと明日の魚市場は大漁だろうなぁ!!

 そうやってまたお魚さんに思いをはせていたら、腹が減ってきた。

 五島最後の食事は、やっぱり鮮魚でキメよう。

 というわけで訪れたのはこちら。

 鮨 居酒屋石松。

 福江市街の港側のほうにある。
 定休日ではないことはわかっていたし、この日すでに店の前を通りかかって、臨時休業の貼り紙も貼られていないことも確認していたものの 何時からオープンとは玄関先に書かれていない。
 仕方がないのでまだ準備中と出ていた11時過ぎに引き戸を開けて訊ねてみると、あと10分か15分で開けます!と大将。

 なので外堀公園で、水が引いた後の干潟で餌を啄んでいる野鳥を撮って時間を潰す。

 そんな開店待ち時間の成果はこちら。

  ツグミはこのところ冬の水納島でも観られるようになっている鳥ながら、こちらで見かけるツグミのほうが、なんだかきれいに見える。

 しばしツグミと戯れてから再び石松に戻ってくると、しっかり準備が完了されていた。

 久しぶりの昼ビールに気をよくしつつ(久しぶりなのはワタシだけだけど)、まずはお任せでおつくり系をお願いしたところ、

 ブリ、タイ、そしてやっぱりクロを両サイドに配し、真ん中にはアジ、そして最後の最後に再会を果たせたキビナゴ。

 これまで五島で味わったお魚さんたちに別れを告げるにふさわしい顔ぶれだ。

 このあと那覇着後に車を運転するのは早くても10時間後だから、と自分にイイワケして生ビール1杯限定で臨んでいたワタシ、なぜ那覇空港到着後は那覇泊にしておかなかったのかと悔し涙に暮れていた。

 でもその夜のうちに本部町内まで戻っておいたからこそ、翌日は時化のため水納島行きは朝早い臨時便1便のみで欠航だったにもかかわらず、無事島に戻ることができたのだった。

 禍福は糾える縄の如しとはよくいったモノである。

 さて、石松さんは「鮨 居酒屋」と銘打っているお店なので、お寿司もランチの定番メニューだ。 

 お刺身がこんなに美味しいのだから、上にぎりあたりも非常に気になるところながら、ひときわ目を引いたのが「五島椿アジ寿司」。

 椿アジなんて聞いたことがない。
 でもメニューの写真が美味しそうだったから、お願いしてみることにした。

 登場したのはこちら。

 形状的に、バッテラのアジ版のような雰囲気。
 そしてこんなに色艶のいいアジなど、本部町内のスーパーでは絶対に手に入らない。
 ずっとバイプレーヤーとしてこの5泊6日活躍し続けてくれた五島産アジも、最後は主役になっての見納め食べ納めだ。

 名前を他で聞いたことがない椿アジについて大将に訊ねてみると、なんと大将考案の登録商標とのこと。

 五島にはすでにブランド化している「鬼鯖寿司」という高級食品があるのだけれど、なにげにそのサバは五島産ではないらしい(あくまでも大将談)。

 その点この五島椿アジ寿司のアジは、正真正銘五島産!!と大将は胸を張っておられた。

 もっとも、ブランド化成功にはまだ道のりは遠いとのことだったけど。

 その商品価値としてのブランド化はともかく、まずは実食。

 これが……

 美味いッ!!

 もともとアジは大好きな魚。
 それがまたこうして装いも新たに品よく姿を変えただけで、なんと素敵な味になることか。

 いやはや、生ビールが進むぜ!!

 

 ……オタマサは。

 お茶でいただくお寿司も美味い。

 ところで、カウンターの奥に居るカップルは、翌日の五島つばきマラソンに参加するため、佐世保からお越しになったそうだ。
 県内移動ではあるけれど、やはりその感覚は、本島から西表島に行くのと同じような、れっきとした「旅行」なのだろう。

 五島椿まつりの最後をしめくくる五島つばきマラソンは、実は長崎県唯一のフルマラソン大会だそうだから、多くの長崎県民も「旅行」をして参加しているに違いない。

 ちなみにこのマラソン大会、スタート・ゴール地点となる会場は、あの遣唐使ふるさと館だという。

 あの広い広い敷地も、けっして無駄ではなかったのだ。

 まだまだ次々にオーダーしたいところではあったけれど、このあとのスーパーその他でのお土産購入タイムを考えると、このままここに長っ尻になるわけにはいかなかった。

 というわけで最後にシメの一品を。

 五島うどん、現地での食べ納め。

 鮨がメインの居酒屋さんではありながらも、店の入り口に「店自慢 五島うどん」と大々的にアピールされているくらいだから、食べ納めにはピッタリなのだ。

 ああ、このあご出汁ともお別れしなければならないなんて……。

 一滴も残さず、完食いたしました。

 最後に大将と女将さんに、一緒に写ってもらった。

 ランチタイムだというのに、美味しくて楽しくて、居酒屋タイムなみに長居してしまった我々。
 おかげで楽しい話をたくさん聞かせていただいた。

 大将、女将さん、ありがとう!