30・さらば五島、福江島
いいコンコロもち状態で石松を出たあと、お土産の買い物をすべく商店街に向かっていると、なにやら通りがにぎやかなことになっていた。
商店街の一筋が車両通行止めになっていて、道路上に設けられた特設ステージで、のど自慢大会や郷土芸能などいろいろと催し物をするようだ。 このイベントは、五島椿まつりの一環のようだ。 五島椿まつりは開催期間の長いお祭りなのだけれど、福江島各地で催される行事は基本的に週末メインで予定されているため、平日はこれといってお祭り感があるわけではない(武家屋敷通りふるさと館では痛い目に遭ったけど)。 この日はお祭り期間最後の土曜日で、イベントともなるとさすがに人通りは平日の比ではなかった。 こんなにたくさん地元の方々が来るんじゃん、商店街!! 近くのスペースでは飲食店の屋台が出ていたり、かつてのショッピングセンターらしき空きビルを全面的に借りきっているらしき建物の中では、文化祭のようなブースがあちこちにできていて、製作体験コーナーから飲食コーナーなどなど、大勢の家族連れでにぎわっていた。 普段の買い物は郊外に行く率は高まってはいても、やっぱりここ福江商店街は、このあたりの人々にとって昔ながらの馴染みの土地なのだろう。 こうして何かあれば人が集まるのだから、商店街にもまだまだやりようはある気がする。 少なくとも観光客として滞在する分には、ホテルは街中にあるし、飲み屋さんは周囲にたくさんあるし、市場もスーパーもあるから、便利なことこのうえない商店街である。 ホテルと飲み屋さんだけが残った、なんてことにならないよう、商店街の今後のがんばりに期待しよう。 預けておいた荷物をフロントで受け取り、空港までのタクシーを呼んでもらうと、ほとんど間を置かずタクシー到着。 5泊6日お世話になった、ホテルダウンタウンに別れを告げる。
タクシーの運ちゃんは話好きの釣り好きで、椿まつり期間中には釣り大会も催されるという話をお聞きした。
運ちゃん自身も普段の休みの日には、船釣り屋さんを利用して沖に出ることもあるそうだ。 水納島に居ながら、潜りに行こうとすると本島からのボートだらけで場所が無い、という目に遭うことたびたびの我々には、身につまされる話でもあった。 タクシーは市街地を抜け、鬼岳由来の溶岩台地の坂道を登り、10分ほどで空港に着いた。 結局玉之浦では一輪も観ることがなかったタマノウラツバキが、やや盛りを過ぎつつも空港の周りを彩っている。
五島福江空港では、とっとと荷物を預けて身軽になり、空港見物するなり読書するなりしようと思っていたところ、機内預け荷物の受付開始はわりと直前で、カウンターにはお留守番的に職員のにぃにぃがポツンと1人いるだけ。
でかい荷物をゴロゴロさせてウロウロするわけにもいかないから、荷物をここに置いたままそのへんをウロウロしてもいいですか、とにぃにぃに訊ねると、 「私が見ておきますからどうぞ!」 大きな空港じゃあり得ない、杓子定規じゃないところが素晴らしい。
お言葉に甘えてウロウロしてみると、ターミナルの屋上は展望台になっていた。
ザビエルの頭あらため、活火山鬼岳のスコリア丘の姿が。 一昨日はあそこから空港を眺めていたのだ。 暖かくなれば鬼岳のこの部分はイキイキとした草の色に変わり、子供の日前後にはバラモン凧上げ大会が開かれたり、週末は家族連れの行楽でにぎわったりと、市民の憩いの場になるらしい。 我々にとってはあわや八甲田山だったのに…。 この山ひとつとってもそうなのだから、我々が今回目にしたもの口にしたものどれをとっても、きっとまた別の素晴らしい姿があるに違いない。 そうこうしているうちに、やがて我らがDASH8が降り立った。
行きには心細くも頼りなげに見えたこの飛行機も、今では信頼と実績に基づいた頼もしげな勇姿に見える。 滑走路に降りる階段までのボーディングブリッジが、いかにも五島らしかった。
教会の中を歩いているような……。
福江島に5泊しているというと、地元の方にはたいそう驚かれた。 やっぱ、も少し行っておくべきだったかしら……。
しかし福江島がストロングなボルケーノパラダイスであることを知った今、あれも見たいこれも見たいあそこに行きたいここに行きたいという場所がさらに増えてしまった。 鬼岳の山頂も今度こそ制覇したい。 七ッ岳縦走も面白そうだ。 福江市街以外の場所にも泊まってみたい。 荒川温泉でゆっくりしてみたい。 福江島周辺離島も訪れたい。 上五島にも足を延ばしてみたい。 その前に、上五島がロケ地になっているという男はつらいよ第35作「寅次郎恋愛塾」も観ておきたい。 とにかく海が凪ぎまくっているときに滞在してみたい。 ドピーカンの青空の下で海水浴場を眺めてみたい。 五島牛乳ソフトクリームも食べなきゃ。 おおそうだ、今度こそニク勝のコロッケに巡りあいたい。
うーむ……ますます希望が増えてしまった。
|