3・福岡空港

 ほぼ同時刻発のJTA便があったおかげで、窮地を脱した我々。

 JALグループの飛行機に乗るのは実に久しぶりのことで、微妙に異なるANAとの違いに戸惑った(同型機だった帰りのANA機は、シートの作りがまったく違った……)。

 シートには戸惑いつつも、機内誌をパラパラ見ていると、なんだかやけに興味を引く記事ばかり。

 …と不思議に思いかけたところ、乗っているのはJTA機で、機内誌は沖縄ローカルネタ満載の「コーラルウェイ」なのだから、不思議でもなんでもないことに気づく。

 さて、こうして無事に那覇を飛び立つことができたのはよかったのだけど、福岡空港での乗り継ぎ便は再びANA管轄の便。

 それが全日空直々の運行便であればなんの問題もなかったのに、あいにくコードシェア便で実際の運用はANAではなく、長崎県の各島々を空で結ぶORC、すなわちオリエンタルエアブリッジ便。

 となると那覇空港でJALに預けた荷物をいったんここ福岡で受け取り、その後改めてANAカウンターで荷物を預ける手続きをしなければならない。

 ご存知のとおりある程度大きな空港になると、ANAとJALのカウンターの位置はかなり離れた場所にある。

 そのためいったん荷物を受け取って外に出たあと、ANAのカウンターまでガラガラゴロゴロキュルッキュルッ(最後の音は、スーツケースの使用が久しぶりでコロコロがうまく動かないため)と荷物を引きずって移動しなければならず、たいそう難儀した。

 しかしそんなことは、このあとに控えていた晴天の霹靂…というか、荒天の皺寄せとでも言うべき事態に比べれば、なんてことはなかったのだ。

 というのも、改めてANAのカウンターで荷物を預ける手続きを済ませたところ、侍JAPANのユニフォームコスプレのカウンターのおねーさん略して侍おねーさんが、何やら言いにくそうに教えてくれたのである。

 そう、五島付近が悪天候のため、我々が乗る予定の一つ前の便は、出発はするものの場合によっては戻ってくることになるかもしれない、という案内のもとで離陸待機中ということを。

 侍おねーさんによると、我々が搭乗予定の便にはまだその案内は来ていないものの、現在のところまったく予断を許さない状況なのだとか。

 たしかに前線を伴う低気圧が午前中に通過するような天気図の流れであることは、出発前からかろうじて知ってはいた。
 とはいえまさかそこまで大変な事態になっていたとは。

 はたして我々の便はどうなるのだろうか。

 という不安要素を抱えつつも、博多空港で過ごす時間はたっぷりある。

 これまでの人生で、福岡空港や福岡の土地が経由地になったことはあっても、目的地にしたことがない。

 また経由した際も、ただそこで乗り継いだり、空港から出て次の目的地へ陸路をたどったりしただけなので、福岡空港で長く時間を取ったことがなかった。

 ところが今回は五島への乗り継ぎ便の関係で、3時間半くらい福岡空港に滞在することになっている。

 当然ながら飲食店を事前にリサーチしてあった。

 これが僻地の空港であればいざ知らず、福岡空港ともなれば那覇空港など及びもつかないほどの飲食店選り取り見取りで、3時間半もあればハシゴすらできそうだ。

 そんななか、まずはビール、そして腹一杯になるわけにはいかないから軽食を、ということで選んだのがこちら。

 3階フロアのレストラン街の一角にあるロイヤルコーヒーショップにて。
 その店名とは裏腹に、生ビール&一口餃子が食べられるお店ということで、まずは軽く一杯飲むべく生ビールと餃子のセットを頼んだ次第。

 聞けば一口餃子というものはこのあたりの名物らしく、なるほどたしかにひとつひとつは、大阪の点天餃子よりは大きいけれど、王将の餃子に比べれば遥かに小粒。

 通常サイズの餃子もワタシは一口で食べるんですけど……と言いたいところではあるけれど、オタマサの感想としては「一口餃子というよりは、ふた口餃子」だったようだ。

 また、餃子のタレがカボスでもたらしているのかな的に上品チックだったのが不思議的味。
 後日知ったところによると、こちらではタレに柚子胡椒を足していただくそうな。
 なるほどそういう風味だったわけだ。

 ともかく朝餃子は、キリン一番搾りを美味しくいただく肴としては申し分ない。

 ちなみにこのお店、早い時間から開店してはいるものの、他のお店と同様モーニングメニューを用意しているため、10時以前には餃子やビールをオーダーできないことになっているのでご注意を。

 ビールを飲みつつ、滑走路を眺める。
 3階のレストラン街のお店は滑走路ビューの店舗が多い。このお店も同様で、窓側の席に案内してもらった我々は、南極仕様のドラえもんを間近に見ることができた。

 おお、飛行機のドアがどこでもドアになっている!!

 でも………。
 どこでもドアなんてものが世に出てきたら、航空会社などたちまち無用の長物になってしまうってことをちゃんと理解しているのか、日本航空……。

 ところでこの福岡空港は、日本有数の発着数の多さを誇る空港でもあるらしい。

 そんな発着数の多い空港はたいてい滑走路が複数本あるのに、この福岡空港はたった1本しかないために、降りるにも飛び立つにも、各飛行機は分刻みの順番待ち状態だという。

 窓外の状況も、順番を待つ飛行機だらけになっていた。

 こんだけギチギチの予定じゃあ、トラブルが発生した飛行機の代替機をやりくりするのも大変だろうなぁ。

 さて、この店で軽く済ませたのにはわけがある。

 広い広い福岡空港(現在2019年完成に向けて大改装中)には、2階に広大なフードコートが誕生しているのだ。

 そこにとても気になる店が入っていたのである。

 ここ。

 博多とんこつあごだしカレーをウリにしている、博多カレー研究所。

 両生・爬虫類研究所だとか、熱帯魚研究所といったら、興味のない人々にとっては胡散臭いことこのうえないに違いない。 
 カレーには興味以上のモノを持っていると自負するワタシも、これがもし場末の飲み屋街の一画にあったとしたら、立ち寄りがたいものを感じていたかもしれない。

 しかしここはなんといっても福岡国際空港。
 いかがわしい店が出店できるはずがない。

 というわけで、オーダーしてみました、あごだしカレー♪

 具は別メニューのトッピング制で、とんかつとかゴボ天とかかき揚げなどがあるなか、一番人気という焼きネギを入れてもらった。

 トッピング制だからカレー自体は潔いまでにカレーの湖状態で、このカレーだけで勝負できる!というお店の自信をうかがい知ることができる。

 さああごだしカレーを実食!!

 ん?

 んんん??

 いや、けっしてまずいわけではないですよ。
 でも、研究所が生み出すとっておきの「あごだし」カレーという期待値がやたらと高過ぎたせいか、不敬にも「これだったら新宿カレーのレトルトのほうが美味しいんじゃね?」という感想を抱いてしまった。

 先に食べた餃子のせいなのだろうか。

 完食し終えた後、カレーを受け取る際にお盆に添付されていた、小さなチラシに目が行った。
 見てみると

 「美味しい召し上がり方」

 え?

 作法や手順があったの???

 完全に時すでに遅し的状況ながら、気になるので読んでみた。

 使用している米にこだわりがあるそうで、まずご飯を味わってみるというステップ1は意外ではあったけれど、さんざん手順を踏まえておいて、最終的には「好きなように食え」ということに落ち着いているようだ。

 ああビックリした。
 とんでもないマチガイをしでかしていたかと思ったじゃないか。

 一方オタマサは、夜のためにもここで腹一杯になるわけにはいかないから、消化にいいものを、ということで……

 福岡にこのうどんありと古くから知られている、因幡うどん。

 福岡博多といったらとんこつラーメンでしょうというところなんだろうけど、花まるうどんがフツーに客を呼べる空港内に、とんこつラーメンの名店があるとは思えなかったので辞退。

 そうはいってもこれから五島うどんをしこたま食べようというときに、わざわざうどんをチョイスですか。

 でもまぁ、本人が美味い美味いと食べているのでまぁいいか。

 コシとは無縁の、煮炊きに徹した食感のうどんのようらしい。
 夜に備えて軽く…といいつつ、ふたたび生ビールを飲むオタマサであった。

 さて、腹もくちたしそろそろ時間だし、保安検査場を抜けて10番搭乗口に行き、シートに座って読書でもしておくか。

 10番搭乗口はコンコース最奥の突き当たり。
 席に座ってボーディング状況を確認してみると……

 なんと、我々が乗る予定ひとつ前の便が、まだ出ていない。

 9時頃のつもりでいたのに12時前に変更となれば、さすがに何か食わねば腹が持たないだろうから、空港内で飲食しているはず。

 するとそんな乗客のために、こんな案内が手書きで用意されていた。

 商品券とかお食事券などではなく、現ナマを改札機通過時に手渡すだなんて……全日空もなかなか味なことをやる。

 うーむ、最初からこの遅延を予想できていれば、我々の飲み食いもタダになるところだったのか………。

 …などと有り得ないことを考えている場合ではなかった。

 3時間もの遅延の果てに飛び立った1便がちゃんと五島に着くのかどうかもわからないうちに、我々が乗る便の案内が始まったのだ。

 遅れようとどうしようと、ちゃんと五島に着いてくれるのならめっけものだ。

 と安心していたら、その30分後には…

 長崎空港に着陸することになるかも!?

 なんでさっきの便は福岡に引き返すかも、だったのに、次の便は長崎なんだよ。

 1便前の全日空直営機とORCでは、積み込んでいる燃料の量が違うのか???

 遅れるのはしょうがない。
 福岡に戻ってきたら戻って来たで、再び乗るのに際し経費はかからないはずだから、とりあえずしょうがない。

 でも、長崎に降りちゃった場合はどうなるんだろう??

 さすがに長崎空港周辺はまったく未知数だし、長崎から五島へ行く手段はあるにしても、その場合費用はどうなるんだろう?

 というか、仮に五島空港に着陸すると決まったとして、飛行機は無事に着陸できるんだろうか…という根源的な疑問も。

 様々な不安が渦巻く中、 刻々と出発時刻が迫ってくる……。