4・がんばれ!DASH 8

 この日2月20日は列島各地が大荒れになっていたようで、札幌空港行きの飛行機が下手をすれば羽田に降ります、なんて甚だしく無茶な案内があるかと思えば、小松空港行きでは欠航が決定している便もあった。

 そんななか、ORCの小さなプロペラ機は、本当に飛び立つことができるんだろうか。

 いろんな不安が渦巻く中、ついに搭乗の時間に。

 立派なターミナルビルから階段を下りて外に出ると、そこは改装工事中の建設現場。
 まるで表側が撮影セットの張りぼてだったかのような錯覚すらいだかせる改装現場をくぐってから、バスに乗り込む。

 静かに発進したバスは、どこまで行くんだと思い始めた頃、ようやく到着。
 雨が降りしきる中、我々が命を預けるDHC−8−200(Dash 8)が鎮座ましましている。

 こんな季節に五島まで行く人なんてそうそういないだろうと思いきや、案外ビジネスマンの往来が多いらしく、リーズナブルなビジネスホテルも飛行機も、直前だと冬でも満室、満席になっていることが多いのだ。

 それを知っていたのも、旅行計画2度目の恩恵でもある。

 この便も機内は満席。
 そんな大勢の乗客を乗せ、プロペラ2つでこの嵐の中をちゃんと飛べるのだろうか。

 乗り込むオタマサも、いつになく心もとなさげに見えなくもない。

 機内は見た目どおり狭く、左右に2席ずつ並んでいる座席の間に通路が1本。

 最後尾から撮ってこの座席数。
 そして客室乗務員は、上の写真に写っているおねーさんただ一人だ。

 40分前後の飛行時間中、このおねーさんが、飴や記念のポストカード、そしてORC手作りの、ステキな長崎観光ガイドパンフを配ってくれたりする。

 そんなORC93便に、ついに飛び立つ時来たる。

 もともと飛行機に乗るのが嫌いなワタシではあったけれど、ことプロペラ機に関してはそれほどキライではなかった。
 空を飛ぶ理屈がわかりやすいというかなんというか、いざとなったら自分でも操縦できそうなアナログ感も素敵だし、なんといってもプロペラが回転するエンジン音がいい。

 たとえていうなら、映画「紅の豚」のような感じね。

 ただしそれは、穏やかな気象条件のもとでの話。

 文字どおり吹けば飛ぶような小さな飛行機がこの日挑むのは、台風時以外じゃ年にそうそうない列島大荒れの気象条件である。

 そんな悪条件に、このDash 8は耐えきれるのだろうか。

 後日調べたところ。

 ORCが所有するこの型の飛行機は、来たる東京オリンピックの年までに構造寿命を迎えるため、すべからく現役を退くことになっているという。

 つまり五島行きが2020年以降になっていたら、この型の飛行機に乗る機会は二度と無かったわけだ。

 そういう意味ではある種ラッキーではあったんだけど………

 え?そろそろ構造寿命???

 ああ、事前に知ってなくてよかった……。

 世の中には、知らずにいた方がシアワセなこともままある。

 さてさて、雄々しくも雨の中福岡空港を飛び立ったDash8、離陸してしばらくのアナウンスでは、まだ五島福江空港に着陸するかどうかは未定のままだった。
 やがて機長の挨拶&アナウンスの頃になると、どうやら五島福江空港着陸を前提に話しているような雰囲気が。

 ただし、五島周辺の地上風が卓越しているため、揺れは覚悟しなければならないという話ではある。

 そして着陸に向けて下降を始めたDash8は、機長の予告どおり揺れ始めた。

 それもあなた、尋常じゃない揺れですぜ。

 これまでだって揺れのひとつやふたつどころか大いに揺れることも経験したことはある。けれどたいていの場合それらは上下に揺さぶられるのが常だった。
 ところが今回の場合、

 こりゃ完全に風で横に流されてる!!

 ってことを体感できてしまった。
 実感として「着陸無理!!」てな感じなのに、他の乗客はみな落ち着いている。
 どうやら五島への行き来が日常である方々が多いらしく、この程度は当たり前のことなのかもしれない。

 シロウト的には墜落寸前に思えたDash8ではあったけど、「揺れが予想されますが、飛行には問題ありません」という機長の言葉どおり、ORC93便は無事に五島福江空港にタッチダウン。

 無事に五島に到着することができた!!

 滑走路上ですらかなりの強風にもかかわらず、退任間近のDash8よ、よく頑張った!!

 これにて五島列島初上陸!!

 あ、そういえば。

 九州本土の長崎県には、訪れたことはおろか経由したことすらない我々。
 この五島福江空港での第1歩は、五島初上陸であるとともに、長崎県初上陸にもなったのである。

 本土の長崎に行ったことがないのに五島に来た人って、フツーにいるんだろうか……。

 預けていた荷物を受け取り到着ロビーに出てみると、満席だった乗客のうち、その場にいるのは我々のほかには明らかに観光客のご夫婦一組のみ。
 みなさんレンタカー業者や現地のビジネスパートナーが迎えに来ていたりするので、あっという間に空港を去っていくのだ。

 飛行機の到着時間に合わせて路線バスが運行しているから、それに乗って市街まで行こうと思っていたのだけど、さすがにこれほど遅れるとバスが待っているはずはなし。
 空港の案内カウンターでタクシーを呼んでもらうことにした。

 タクシーを待っている間到着ロビー内を見渡すと、迎えにくる人たち向けに、五島便の到着時刻を知らせるボードがあった。

 結局我々の前の便は、205分遅れで到着したらしい。

 それに比べれば、50分遅れ&大揺れなど、何ほどのことも無いってことか……。