5・ 福江をさるく・1〜商店街アーケード編〜
空港ターミナルからタクシーに乗ると、10分ちょいほどで福江市街に入る。 その道中、運ちゃんにお話を伺ったところ、この嵐でフェリーをはじめとする海上交通は軒並み欠航しているという。 船で来ることにしていたら、えらい目に遭うところだった……。 運ちゃんによると、風だけだったら飛行機は台風でもない限りたいてい大丈夫なんだけど、滑走路近くにある鬼岳にかぶさるように雲がかたまってしまうと、有視界での飛行ができなくなるため、着陸できなくなるのだとか。 福岡空港でアナウンスされていた「天候調査中」というのは、ようするにこの鬼岳のまわりに雲があるかどうか、ということに左右されていたらしい。 そりゃたしかに、現地まで来てみないとわかりませんわな…。 幸い雲が厚くかぶさっていなかったおかげで、我々は無事に到着できたのだった。 そうこうするうちにホテルに着いた。 我々がこの日から5泊お世話になるのはこちら。
福江市街にある、ホテルダウンタウン。 福江市街には昔ながらの古風な宿もあれば、ちょっと勘違いしたんですか?的な豪華なホテルもあるなか、素泊まり前提で昼に夜に街をウロウロするには、この小ぶりなビジネスホテルスタイルが最適。 シングルルームでもベッドがセミダブルで、それを二人で使用するという方法も選ぶことができ、早めに予約すると比較的安く済む。 シングルルームとはいっても、アパホテルの部屋に比べれば随分広いし、室内の動線という意味では今の我が家とほとんど変わらないから、5泊するのになんの苦もない。
むしろ、すっかり我々にとって居心地のよい「巣」となってくれた。 ビジネスホテルとはいっても、5泊もすればレセプションのおねーさんたちとはすっかり顔見知りになるから、そこいらの旅館に泊まっているのと変わらぬアットホームな雰囲気にもなる。 前日のうちに予約すれば朝食も食べることができ、和風洋風おまけに朝のカレーの3種類から選べるシステムだ。 朝からカレーというのは同志を得た思いで(朝食は6時30分からOK)、各メニューの写真がエレベーター内で紹介されているものだから、エレベーターに乗るたびにカレー願望が湧き立ってしまった。 これが朝思い立ったときにいつでも食べられるというものであれば、間違いなく1度は食べていたことだろう。 でも、前日午後7時までに予約が必要と言われると、翌朝の胃袋がどのような状態かまったく自信が持てなかったため、ついに諦めてしまった。 今回の数少ない未練のひとつである。
さて、ホテルに着いたのは午後3時前。 このあたり、頑なにチェックイン時刻を守る泊の船員会館も、少しは見習っていただきたい。 旅装を解き、さっそく街に出てみることに。 到着日のこの日と翌日は、福江市街を中心にプラプラ散策する予定にしていた。 長崎の言葉で、歩くとか散策するという意味で「さるく」というらしい。 さっそく、福江をさるく。 合併して五島市になる前は福江市だったこのあたりは、合併前も合併後も下五島の中心地で、五島で一番の「都会」である。 そしてそれは江戸時代の五島藩時代も同様で、このあたりは城下町として栄えていたのだという。 そんな福江市街は、ざっとこんな感じ。
四方八方歩き回っても、さほどの距離ではなさそうだ。 まずは地理感覚をつかむべく、下調べしてある各飲み屋さんの場所をチェックしがてら、テケテケ歩いてみることにした。
ホテルから出てすぐのところに、この市街地の中心を占めるといっていい商店街のアーケード通りがある。 先ほど乗ったタクシーの運ちゃんいわく、郊外に大きなショッピングモールができて以来、すっかり寂びれてしまったのだとか。 観光立地的には、やりようによっては那覇の国際通りのようにできそうなものなのに、もったいないなぁ……。 でも我々がいたこの時期は、毎年恒例の五島椿まつりの期間中で、アーケードには箱型提灯(?)がズラリと並び、ほんの少しにぎやかにはなっていた。
ちなみに夜は↓こうなる(同じ場所ではありません)。
この商店街には観光客向けの土産物屋などの店舗も入ってはいるものの、もっぱら地元住民向けの店が多く、そういう意味ではいわゆるフツーの商店街である。 でもそこにはスーパーもあり、現地スーパー探訪を趣味とする我々にとっては、それもまた「観光地」。 で、5泊する間に行きつけになったのがこちらのお店。
まるはちストアー食彩館。
鮮魚コーナーに目を奪われるのはもちろんながら、すり身製品の品揃えの豊富さに、オタマサは目を見開いてコーフンしていた。 そういうモノが目白押しのスーパーが面白くないわけない。 さすがに調理を必要とするものは現地で楽しめないけれど、その場でいただけるものを、立ち寄るたびにチョコチョコ購入してみた。 そのひとつがこちら。
五島牛乳。
生乳100パーセント使用の、混じりっ気なしの牛乳である。 毎朝のお供になってもらったので、その後たびたび買うことに。 また、こういうモノも。
いつも店頭に堆く積まれている「あごせん」。
五島灘の塩と長崎県産のあご、すなわちトビウオを使って作られたお菓子だ。 その他、素朴な五島産のイチゴや、夜中に喉が渇いた時用の炭酸水などなど、このスーパーには大変お世話になった。 一方、商店街を歩いていて、とても目につくので気になっていたのがこれ。
この100均ショップ以外でもいろんな店舗の店頭に、このような造花がドドンと展示されているのだ。
なぜに造花がこんなに目立つところでたくさん??? この界隈を歩いている間に、下調べしてあった飲み屋さんの場所のほかに、美味しそうなパン屋さんもチェックしておくつもりでいた。 ネットで得ていた事前情報によれば、この商店街に、惣菜系のおいしいパンを売っている素敵な店があるはずなのである。 素泊まりだから、早起きして小腹が空いた時にいつでも食べられるよう、前日のうちにパンを買っておけば一安心というわけだ。 が。 店が見当たらない。
どう考えてもこのあたり、という場所はシャッターが閉じており、周りを見回してもそれらしき店が無い。 後刻、「貸店舗」と貼り紙されたシャッターが閉じている店舗の壁に、 「焼き立てパン」 の小さな文字が、寂しげに遺されているのを見つけた。 美味しいと評判だったのに、ここもやはり……。
この商店街は地元住民向けではあるのだけれど、若い人たちはもっぱら郊外のショッピングモールへと行くらしい。 その他、後日レンタカーを走らせているときに、もともとはこの商店街に店舗を持っていた店が、郊外に移転オープンしていることに気がついた。 車社会になった今の世の中では、駐車スペースがほとんど無い街中の商店街よりは、郊外の方がよほど利便性が高いのだろう。 シャッターが下りっぱなしの店舗は、さらにさらに増えていくのだろう。 その象徴たる様相を見せる場所があった。
五島市中央町公設市場。 建物が本通りと一本隣の通りの両方に面していて、建物内の一本道で通り抜けられるようになっている。 この時は時間が遅かったからもうやっていないのか、と残念がっただけで済ませたのだけれど、後日まだ早い時間に行ってみると開いていたので入ってみた。 すると。 本来であれば店舗がひしめいているはずのフロアには、精肉店と鮮魚店が1店舗ずつあるのみで、他はといえば、まるで夜逃げした直後であるかのごとく、片づけもままならない状態の空き店舗のみ。
さすがにその様子を撮るのはしのびなく、残念ながら画像は無い。 「公設市場」というのであれば、五島市ももう少しなんとかする必要があるんじゃなかろうか……。 この建物がまだ一応現役の公設市場である一方、早くも「公設市場」であることに見切りをつけ、別の用途に使われているのが、旧江川町公設市場。 商店街のはずれにあったその建物は、今は福江元気館という名になっているという。 そこに、昭和37年の大火災で焼失してしまう以前の、城下町の風情を色濃く残していたと思われる福江市街の街並みを再現した模型が展示されているというから、是非観ておきたいと思っていたのだ。 ところが。 地図を頼りにどこをどう歩いても、それらしき建物が見当たらない。 うーん、絶対このあたりのはずなんだけどなぁ……? その時、ハタと気がついた。 ワタシが頼っている地図は、五島市観光協会公式サイトにて入手可能な福江市街ガイドマップ。 正真正銘の「公式」マップとはいえ、それが「最新」とは限らない。 目指す福江元気館は、ひょっとして現在こうなってるんじゃないですか??
奥と手前2つの通りに面していて、細長い土地、そして両サイドの建物の壁面に残る、つい最近まで他の建物と接していたらしき跡……。 ここが旧公設市場だったように見えるのは気のせい? 耐震構造不備&老朽化に伴う取り壊しでもあったんでしょうか。 ああ、観てみたかったなぁ、昔の市街地模型。 ひょっとして別の場所に移設されたとか?? ……って、実はまったく見当はずれの場所で、今もなおしっかり現地にあったりして。 そんなこんなで、商店街自体はややさびれつつある傾向が顕著なんだけど、その一方でこの界隈には、ひと筋横道に入るだけで魅力的な飲み屋がひしめいているのだ。 そういった飲み屋が、地元の方々にも観光客にも、なぜ魅力的なのか、というあたりを考察すれば、この商店街ももっともっと魅力的な通りにしていけるに違いない。
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