ハワイ紀行

〜またの名を暴飲暴食日記〜

12月7日(火)パート2

マカイ・マーケットへ

 すでに時刻は11時半。ワイキキに戻ればお昼時である。昨日見たマカイ・マーケットで是非食ってみたかったので、そこを目指すことにした。それにしても、昨日マカイ・マーケットで是非食おう、と決めたものがあったはずだけど、なんだったっけか。ま、行けば思い出すだろう。

 ダイヤモンドヘッドから、マカイ・マーケットが入っているアラモアナ・ショッピングセンターへも、オリオリ・トロリー一本で行ける。けっして乗り心地がいい乗り物ではないものの、混んでることはめったにないし、オープンエアだから何度乗っても気持ちいい。

言いたいことはとりあえず言おう

 ちょうどお昼時に到着したので、フロア内は混んでいた。5人で座るには厳しい状態だ。でも少し歩くと8席分まとまって開いているところがあった。よし、あそこにしよう、と思って歩いていくと、紙一重の差で一組のアメリカンカップルが席に着いてしまった。8−2=6ではあるが、そのカップルは真ん中に座るものだから、我々5名がまとまって座れない。

 自己主張の国である。こういうときは言いたことを言わねばならない。そこで私は、そのカップルに席を詰めてもらうよう頼んだ。いや、こう書いてしまうといかにもスラスラと英語をしゃべっているようだ。実際はもちろん文章になっていない。日本語に直せば、

 「失礼します。どうか動いてもらえないか、1つ。私たちは座りたい。5人。もしあなたが動いたら、我々はできる」

 という感じだったろう。まったく愛想もくそもない怪訝そうな視線を返されたが、とりあえず意味は通じたのだろう、彼らは隣へ移動してくれた。こんなでたらめでも通じるので、とにかく言ってみるもんだ。持っていき忘れていたドリンクを渡してやっても、彼らはまったく言葉を発しはしなかったが。

 この場合私は文化的マナー的に失礼なことをしてしまったのだろうか。そのあたりが少々気がかりではあったけど、まあいいか。

さて、ここで私は何を食おうと決めていたか?

 席を確保してから、めいめい好きなところで適当に買ってくることにした。席に近いところにタイ料理の店があって、メニューにはサテー(エスニックな焼き鳥のようなもの)の文字が光っていた。タイ料理には執着はないが、以前マレーシアで食ったサテーがとってもうまかったということもあり、それ以来私の中でサテーというのは黄金メニューの一つになっているのだ。

 ちょっと覗いてみると、コンロの上でそのサテーが、

 「おいしいよぉ、おいしいよぉ」

 と、ささやきながら身をくねらせているではないか。もうたまらずその店の列に並び、サテーコンボというものを頼んだ。ついでにタピオカもトレーに載せた。先日池袋で飲んだときに出たデザートのタピオカがおいしかったのだ。そのタピオカのせいで8ドル少々とやや高くついたが、昨日昼飯を食ったショボい店に比べれば随分安い。

 席に戻るとみなそれぞれ適当に買ってきていた。うちの奥さんはハーゲンダッツのアイス(半額券を西日本営業部長からもらっていた)を食っている。これまで私とほぼ同量を食い続けてきているから、さすがに胃を休憩させなくてはならないらしい。食い続けて悔い続けるなんてシャレにならない。

 父はヘルシーメニューということでサラダを頼んでいたが、皿の上に盛られた葉野菜類は、見てくれをまったく省みない味も素っ気もないもので、これはまるでウサギのエサだ、と言いながら、母と半分ずつムシャムシャ食っている。父ちゃんはちゃっかりラーメンを買っていた。

 さて私のサテーコンボ、マレーシアで食ったサテーの味とは少し違ったが、それなりにうまかった。下に敷いてある太いビーフン(?)と野菜にたれをかけて、それと共にガシガシかき込むと腹一杯になってしまった。そしてデザートのタピオカにとりかかると、これがまた、甘いのなんの。池袋で食った味を想定していた者としてはとても食えたものではない。濃厚すぎる甘さに、ランチの余韻をすべて吹き飛ばされてしまった。

 結局2口ほどしか食べられなかったが、口直しにドリンクが必要になった。そこで、適当な店でスプライトを買おうとすると、Lサイズかレギュラーサイズか訊ねられた。店員が手にしているLサイズはちょっと大きいな、と思ったから迷わずレギュラーサイズ、と答えたところ、店員が私に手渡したのは、その大きなヤツだった。日本のLサイズの倍はあろうか、という量が、アメリカではレギュラーなのだ。

 そんなこんながありながらも、腹もくちたしそろそろ出ますか、という頃、私の頭に稲妻が走った。

 そうだ!!私はここでハワイ料理を食おうと決めていたんじゃないか!!なんていう店だったっけ……そうだ、ポイ・ボウル!!どこにあったっけ、どこに……。とフロアを見渡すと、なんとなんと、サテーコンボを買ったタイ料理屋の隣にあるじゃないか!!くそ〜あのサテーめ、あんなところでささやきかけやがってぇ。そうやっておのれのアホさを棚上げし、今胃袋で踊っているサテーを罵しっていたら、「ウプッ」とゲップが出てきた。サテーが機嫌を損ねたに違いない。

アロハを買おう!

 店を出たあと、また夕食に出かける時間だけをうち合わせ、両親と別れた。彼らはプラプラビーチを散歩しながら、ゆっくりホテルに戻るらしい。我々は、このショッピングセンターでアロハを買うことにした。父ちゃんは用はないはずなのだが、うちの両親と一緒に散歩するわけにもいかないし、かといってまだ一人であちこち散策するほどには地理的情報が頭に入っていない。というわけで、我々に付き合うことになった。

 昨日、あれほど高い!と言っていたアロハをなぜ今日になって買うことにしたかというと、ほかでもない。夕食代が少なくとも昨日と今日の二日分、希望的観測だが明後日の分も浮きそうだからだ。ここはアロハごときにヒヨッている場合ではない。さっそく昨日下見していた店に行った。

 昨日シャツを物色していたとき、どのシャツにも値札の横に「Local's Only」という札があった。ウムム、観光客は買ってはいかんのか?観光客が買えないような物をこんな場所で売るなよな、と少々憮然としかけたが、なんのことはない。Local's Onlyとはこの店の名前だったのだ。勝手に腹を立ててスマなんだ。

 ここはヴィンテージもののレプリカを売っているところで、柄的にはきっとよいものなのだろう。店員には昨日の段階で、ここのアロハでディナーに出ても失礼ではない、ということを確認してあったので、あとはどれを買うかである。

 自慢じゃないが私は服のセンスがない。センスはないが決めるのは早い。だから店員のアドバイスを参考にあっという間に決まってしまった(実はきれいなオネーサン店員に、「ワタシはこれなんかがいいと思いますけどぉ」と言われたヤツにしただけなのだが……)。

 私のが先に決まったから、うちの奥さんは似た感じのワンピース、という具体的な目安ができた。それで店員さんが引っぱり出したのは、似た雰囲気どころか色も柄もそっくり同じものだった。いやあ、いくらなんでもハネムーンでもないのにペアルックはないんじゃないの、と言うと、店員さんは、全然おかしくないですよ、と言う。でも世間がおかしくなくても我々がおかしいので、もう少し違いがあるヤツに決めた。

 それにしても、各サイズ揃ってはいるけれど、うちの奥さんが買ったXSサイズのワンピースとアメリカンが着るようなLサイズとがどうして同じ値段なんだ。LサイズでXSサイズが2着ぐらい作れるじゃないか。これはアロハに限らず、ウェットスーツでもなんでも身につけるものを買うときの、小さい人のイキドオリである。

やっぱりハワイアンはのんびりだった

 部屋に戻ると、驚いたことにベッドメーキングが済んでいなかった。もう午後2時半である。すでに戻っていたうちの両親の部屋に行くと、彼らの部屋は帰ってきたときには済んでいた、という。隣の隣が済んでいて、なぜにこの部屋は元のままなんだ?おいおい、忘れられてるんじゃないか?と思って廊下に出ると、掃除グッズを積んだカートが近くの部屋の前に止まっていた。

 しばらくして部屋に来たメイドさんに訊ねてみると、チェックアウトした部屋からやるから、ということだった。きっとこのホテルは3万室くらいあるのだろう。

 父ちゃんはいつの間にかビールを何本か買ってきていて、このあとはラナイで一杯やりながらゆっくりしている、とのことだった。非常に魅力ある響きだ。けれどうちの奥さんはやはりワイキキ水族館に行きたいというので、ベッドメーキングが終わる前に出かけることにした。

山椒は小粒でピリリと辛い

 朝と同じようにでっかい木々の公園を通る。木の下に立って写真を撮りたい、というので近づいてみると、遠くから見て感じるよりもさらにでかい。タダでさえ小さな奥さんが木のそばまで行くと、羽ばたいて飛んでいく虫かと思えるほどだった(写真左の木の根本に小さく写っているのがうちの奥さん。見えないくらいでしょ?)。あたりを見ると、あちこちに点在する木々の下には、読書をする人、家族で語らっている人など、様々な人々が、風に揺れる木漏れ日を浴びていた。

 ほどなくワイキキ水族館に着いた。入館料は7ドル。広大な上野動物園がたった500円であったことを思うとけっこう高い。しかしアメリカ国内で最も古い歴史を持つ由緒正しき水族館なのである。少しくらいはガマンしよう。

 襟を正して料金を支払うと、細長い棒のような電話のような装置を渡された。各水槽の前でその水槽の番号を押し、その棒を耳に当てると、その水槽の説明が聞けるのである。我々が受け取ったのはもちろん日本語用で、試しに最初の水槽でやってみたら、女性の声でその説明が始まった。おざなりなものではなく、ちゃんとした説明だったが、百も承知のことをマイナス百くらいから説明しているので我々には物足りなかった。この工夫を生かして、レベル別の説明装置も開発してもらいたいものだ。究極のマニア用、とかあったらそれはそれで恐ろしそうだが……。

 館内をゆっくり回ってみたところ、やはり小ぶりとはいえアメリカの水族館らしく、水族館の本来の役目、すなわちエデュケーション施設としての役割をきちんと果たしている、ということを実感した。日本には説明装置なんてものを配っているの水族館なんて無いでしょう?そのほかにも、サンゴの仕組みを知るための工夫を凝らした模型とか、サンゴの放卵、成長、など水槽を見ているだけではわからないようなことを、スイッチを押せばVTRで好きなときに好きなだけ見られるようになっている、とか、サンゴやその他の生物に関する10分程度の映画(立派な映写室なので、中でゆっくり休憩できた。番組は何種類かあった)とか、大きな太平洋の地図の前に魚の写真があって、その写真に触れるとその魚の分布域に相当するランプが地図上で点灯したり、とか。日本の水族館みたいに、客寄せパンダ的な目を見張るような生き物はこれっぽっちもいないけれど、やっぱりこういうのが水族館のあるべき姿だと思うのだ。こういうところだったら、きっとにわかエコロジストたちも目くじらを立てたりしないだろう。

 見たかったハワイの固有種アキレス・タンは、ここにもいなかった。ちょっと残念だったが、そのかわり、ディープウォーターの水槽にいた、イエローアンティアスという魚がとても気に入った。25センチほどの大きなハナダイの仲間で、体高があってとても貫禄がある。動きは活発じゃないから、目の前でワッと手を広げてみると(スマンのぅ)、すべてのヒレをパッと広げた。カッコイイ。今度是非海の中でお会いしたいものです、と挨拶しておいたので、いつの日かきっと会えることだろう。

 この水族館ではマヒマヒの研究をしていて、回遊水槽でマヒマヒが泳いでいる、ということをガイドブックで読んでいたので、楽しみにしていた。しかしぐるぐる回っていたのはツバメコノシロ似の魚だけで、シイラは一匹もいなかった。きっと研究が済んでフィレオフィッシュになってしまったのだ。今日は朝からシイラとは縁がない。

太平洋を臨むベンチにて

 水族館を出たあと、ホテルへ戻る前に、カピオラニ公園の海辺を歩くことにした。午後4時の日差しは程良く、なんだかいい心地だ。ベンチがあったので座り、しばらくボーっと海を眺めることにした。

 今さら海?と思われるかもしれないが、水納島で見る海は太平洋ではない。すこし行けばすぐ中国があるのだ。でもここなら、水平線のそのまたずーっと向こうに行っても、ちっちゃな島々が点在するだけの文字通りの大海原が広がっている。そんな海を眺めつつベンチで過ごすひとときというのは贅沢このうえない。こういうところでビールでもグビグビやるとさぞかしうまいだろうが、ここは公共の場所である。ハワイでは許されない。

 このような海辺の公園やビーチからすぐの街を見て、沖縄もこうすればいいのに、と思っている方がけっこういるかもしれない。けれど、それはできない相談だ。ゴミをなくす、ということは真似できても、そんな海辺の街並みというのは台風が許してくれないのだ。
 南洋の島々の楽園のような街づくり、というのは台風が10年に一回来るか来ないか、という程度だから可能なのであって、台風銀座の沖縄ではまず果たせない夢、というものなのだ。

 さて、そろそろ夕食の予約をしなければならない。アポイントメントの国では、飯を食うのにもいちいち予約が必要なのだから面倒である。こんな時、例のオリオリ・フォンが役に立つ。昨日タクシーを呼ぶときに使ったこの携帯電話は、レストランの予約を頼むのにも使えるのである。JTBの事務所につながる短縮ダイヤルを押し、希望の店の予約を頼めばそれでおしまい。実に簡単だ。もちろん無料。

 予約の肩代わりだけでなく、その店のドレスコードの具合とか、料理の質とか値段とかこちらの都合に応じていろいろ相談できるのでとっても使いでがある。おまけに携帯電話だから、こんなベンチにいても気が向いたときに予約することができるのだ。昨日もこれを使えばよかった、ということにこの時気がついた。

チャオ・ミェン

 今晩は父ちゃんのおごりということもあるので、マスオさん的立場の私は無遠慮には選びづらい。それでも、値段的には昨日クラスのところ、距離的に泊まっているホテルからある程度以内のところ、そしてさっき買ったばかりのアロハのワンピース以外はジーパンしかないうちの奥さんのためにドレスコードがうるさくないところ、という条件のもと考えた結果、今晩はチャオ・ミェンというところに決定した。

 このチャオ・ミェンという店は、ガイドブックの紹介文によると、

 「オリジナリティーあふれるイタリアン・チャイニーズレストラン」

 とある。とっても胃袋を刺激する魅力あふれる語感じゃないか。でもよく考えてみたら、単に節操のない組み合わせなだけじゃないのか?そもそもイタリアン・チャイニーズなんて料理を想像できないよなぁ。

 予約を済ませてホテルに戻ると、すでに父ちゃんはシャワーを浴びていて、ほろ酔い気分で昼寝をしていた。そのとき突然、浴室から、

 「なんだこりゃ?」

 といううちの奥さんの声が聞こえた。浴室が大洪水になっていたのだ。

 「父さん、浴室に水まいたでしょ!」とうちの奥さんが訊くと、

 「おっ、帰ったの?ムニャ…風呂入ろうと思ったら、汚ねぇんだよぉぅ、ムニャムニャ……」

 と言い、またシアワセの夢の中へ帰っていった。
 掃除が終わったあとにシャワーに入ろうとしたら、全然きれいになっていなかったのだろう。なにしろメイドさんは3万室も掃除しているのだから。父ちゃんには、相当しつこく湯や水を流してはいけない、と言ってあったのだが、ついきれい付きの血が騒いでしまったに違いない。あとで訊くと、排水口があるから大丈夫だろう、と思ってそのまま放っておいたそうだ。

 大洪水はなんとか復旧し、予定どおり6時前にはみな準備ができたので、両親に声をかけ、揃ってホテルを出た。店はパシフィックビーチホテルのすぐ隣にあるハイアット・リージェンシーホテルの3階にある。先頃クロワッサンの西日本営業部長夫妻が泊まったホテルだ。ロビーに入るとすぐ隣なのにここまで格が違うのか、というくらい立派なホテルだったのでビックリした。

 ところでこの紀行には随分「クロワッサンの西日本営業部長」が出てくるので、ひょっとすると何も知らない方は「クロワッサンアイランドって大きな会社なんだぁ」なんて思っているかもしれないが、ほかにも大阪高槻営業所や、鳥羽出張所、東京営業所、石垣宿泊所、などいくらでもあるのだ。

 複雑なホテル内をマゴマゴしながら案内板に沿って進み、ようやくその店にたどり着いた。受付のお姉さんに予約している旨を完璧なる英語で告げると、脇にいたおばさんスタッフが笑顔で「Very good!!」と言った。よく言えました、ということだ。でも受付のお姉さんは受付簿にチェックしながら「植田さんですね?」と完璧なる日本語で応えてくれたのであった。

 スタッフに案内されたのは、外が見える窓側からはほど遠い奥の席だった。父ちゃんと父のせいである。喫煙者は角へ追いやられるのだ。ここまで虐げられても、彼ら喫煙者はかたくなにたばこをやめようとはしない。

イタリアン・チャイニーズとは?

 さて、いったいイタリアン・チャイニーズとはどんな料理なのだろう。テーブルは例の回転する中華のテーブルだ。うむ、テーブルは中華風か。期待に胸を膨らませてさっそくメニューを見てみると、なんてことはない、中華料理とイタリア料理が混在しているだけじゃないか。コースも中華メインコース、イタリアンメインコースと色分けされている。

 つまり一つの料理がイタリアン・チャイニーズなのではなかったのだ。そうか、そのため「・」が入っているのだ!

 しばらくしてビールが来た。昨日は舞い上がっていたためかすっかり忘れてしまっていたが、この旅行はそれぞれの親の還暦祝いである。めいめいのグラスを持ち、還暦おめでとうございます、と言いつつ祝杯をあげた。本人たちはすでに年に触れられるのがイヤそうではあったけどね。

 やがて次々にコース料理が運ばれてきた。男3名はイタリアンメインで、女性たちは中華メインである。てっきりそれぞれの前に料理が運ばれてくるのかと思いきや、料理は回転テーブルの上に次々に載せられていく。おお、料理はイタリアンでも出し方は中華か!!これが、「あふれるオリジナリティー」か!結局、誰が何を頼んだ、ということに関係なく、回転テーブル上の料理を適当に食っていく、という中華料理方式になったのであった。

やはりワインでしょう

 ようやくペースをつかんだ我々は、当然のようにビールのあとワインを頼んだ。飲むのは我々二人だけだが、ボトル一本は軽く空いてしまうのだから問題はない。

 還暦組は、ほんとに味がわかんのかょ、とみんな聞く。もちろん味なんかわからない。こういうところは雰囲気でいいのである。

 ワインメニューにはズラッと30種類くらい並んでいた。値段を見ると、天文学的数字が並んでいる。マスオさんとしては選ぶのに少々気が引けたので、うちの奥さんに任せることにした。

 やがて頼んだワインがやってきた。こういうものは頼んだ人にテイスティングをさせる。うちの奥さんは少量注がれたグラスを偉そうに揺らし、口にした。そしてウェイターに向かって、

 「Good!

 だって。似合わねぇ〜。

 頼んだワインはいったいいくらだったのか問うと、39ドルということだった。ずらりと並ぶリストの中ではまあ、これくらいかなぁと思える部類に入る値段ではある。けれど、やっぱりちょっと気が引けるからワインだけは我々につけてもらおう、ともちかけた。それなのにうちの奥さんは、「大丈夫、大丈夫」と言ってはばからない。人の財布に関してもノリノリなのであった。

 しかし今晩のスポンサーである父ちゃんにすれば、別にその額が惜しいわけでないけれど、一晩で4000円を軽く開けてしまう、という食事がなかなか理解できないらしい。ワインというのは高くつくものだ、ということを初めて知った父ちゃんは、部屋に戻ったあともしきりに不思議がっていた。
 でも父ちゃんの息子、すなわち弟君は、新婚旅行で来たハワイで血迷って2万円のワインを頼んだ、という伝説の持ち主である。それを聞いたら父ちゃんはひっくり返るに違いない。

 銘柄は覚えていないけれど、たしかにおいしいワインだった。な〜んて、そんなこと私にわかるわけないじゃないか。でもフルボトルはしっかり空いた。

 なんだかんだといいながらも5人もいれば出てくる料理も豊富で、しかもどれもおいしかったので食事には満足し、満腹になって部屋に戻った。繰り返すが満腹なのである。なのに、

 「夜の海が見えるラナイで酒を飲むのも悪くないよぉ」

 という悪魔のささやきが二人の耳にこだまする。父ちゃんは戻るなりパタンキューとなったが、我々二人はさっそく一階にあるABCストアに酒を買いに行った。二人とも悪魔の誘惑には弱いのだ。

 見慣れたバーボンを買おうとすると、初めて身分証の提示を要求された。噂に聞いていたのであわてることはなかったが、きっとうちの奥さんが買おうとしたら、身分証を見せても信じてもらえなかったかもしれない。そういうときは「ルック!!」といって目尻を指させ、と言ってあったけど……。

 部屋に戻り、しばしラナイにて夜風を受けながらバーボンを飲んだ。真っ暗な中泳いでいる人たちがいる。通りでなんだかよくわからない楽器を奏でている人がいる。みんな思い思いに楽しく過ごしているのである。いやぁ、贅沢ですなぁ!!などと二人で語っているうちに、ワイキキの夜は更けていくのであった。

12月8日(水)へ