8・復活の隊長

 ベッドの上でふと目覚めた。
 ときすでに12時半。
 ありゃ。
 マサカッちゃんのゴール予想タイムになってしまっていた…。
 昨年は危ういところを伴走によって救ってくれた彼の、雄々しきゴールシーンを応援しないでどうするのだ。

 …という声も、今となってはどうしようもない。
 しょうがないので、ヘッポコフルマラソン組のゴールに間に合うようにホテルを出ることにした。
 うちの奥さんのゴールはおそらく2時半頃。
 でも隊長は、ひょっとしたら2時頃にゴールするかもしれない。

 2時にはゴール付近にいられるよう、それまでに会場のブースでビールだ牛汁だと飲食を終えておくことにしよう。
 だったら1時半頃に到着しておけばいいか。

 それなりに疲労は溜まってはいたものの、歩けないほどではないので、1時過ぎにホテルを出て、テクテク歩いていくことにした。

 快晴の石垣市内を、陸上競技場目指して歩く。
 昨年はもちろん、今朝も通った道である。
 ちゃんと見覚えのある道を歩いていた。
 途中までは。

 でも、ふと気がつくと、ここはどこ?私は誰??

 すぐそこまで歩けば場所がわかるような気がして、ついついずっと歩き続けていたら、完全に道に迷ってしまった。

 疲労倍増、大汗噴出。
 いったい何のためにホテルに戻ってシャワーを浴びたのだ…。

 今シーズンのプロ野球キャンプ初日、久米島でキャンプを張っている楽天監督星野仙一は、いきなり迷子になってしまったという。自身のトレーニングのため、3キロほどのウォーキングをするために宿舎への道のりの途中で車を降り、しばらく歩いていたら………
 ……ここはどこ?

 途方に暮れているところに、通りかかった3人の少年。
 君たち、楽天が泊まってるホテル知ってる?
 こうして星野監督は、少年たちに連れられて無事保護されたのだった。


少年たちに無事保護された星野監督@ネットのニュース記事

 このニュースを知った日本のほとんどの野球ファンは、またわざとらしいことを…とか、目立とうとしてわざと……などと星野監督をバカにしたことだろう。
 でも!
 僕だけは、彼の気持ちが痛いほどよくわかるのだった。
 ホントに迷子になるんですって!!

 彼の気持ちはわかる僕だったけど、少年へのお礼としてプレゼントした色紙への言葉、どうせ書くなら「夢」じゃなくて「道」にしてほしかったなぁ……。

 さてさて迷子の私。

 残念ながら僕の前には少年たちが現れてはくれなかった。しょうがないので道行く人に尋ねようにも、人がいない。
 途方に暮れつつ歩いていたら、
 おっ?この放送は!?

 競技場に居たときは、大音量過ぎるその放送のせいで、近所の方々はとても迷惑なんではないかと眉をひそめていた僕だったのに、その大音量のおかげで遠方から競技場の位置がわかってしまった。

 あやうく市街地で遭難するところだった……(後刻、完全に素人焼けしてしまった顔が痛くて仕方なかったのだが、それは走っている間というよりも、この迷子の時間帯が原因だったことはここだけの秘密である)

 迷ってしまったために、競技場には2時少し前に到着。
 いかん、ひょっとしたら隊長がゴールしてしまうかも。

 慌ててゴール付近に陣取り、続々と競技場に還ってくるランナーたちのゴールシーンを眺めながら、ヘッポコフルマラソン組の到着を待っていた。

 ……30分経過。
 その間何度も、

 ひょっとしてあれは隊長か?あ…違った。

 お?あれこそ隊長か??………違う。

 シャッターチャンスを逃してはならじと、何度も立ち上がっては、別人であることを確認し続けていたのだけれど、さすがに30分も経つと……

 …すみません、飽きてきたんですけど。
 なんだよもう。ひょっとして完走どころかリタイアしちゃったのかな?

 そう思い始めたそのとき!!

 あれは!?

 おおっ!!
 隊長ぉぉぉぉぉおおおおおおッ!!

 なんとなんと、うちの奥さんと隊長、

 二人揃って笑顔のゴォォォォォオオオオオオール!!
 で、タイムは??

 
翌日の八重山毎日新聞より(一部改稿あり)

 どう見ても同着なのに、昨年の僕同様やはりシビアに1秒差!!
 そしてうちの奥さんは、見事に目標タイムをクリア。さらに、当初の大目標だった、全行程を歩かずに走破!!

 二人とも無事にミッションクリア。

 そしてもちろんこのあとは!!

 乾杯!!
 どうですこの達成感、解放感ともに溢れる表情!!
 前日からスタート直前までの、数々の隊長の表情と見比べてみていただきたい。
 どう見ても、前日までの隊長の目はテンパッてたよなぁ……。
 それに比べれば……

 隊長復活!!

 11月に意を決し、コツコツ地道に練習を重ねて迎えた本番。 
 そして見事に目標達成!!

 「いやー、練習は無駄じゃなかったです!!」

 隊長、ホントにおめでとうございます!!

 口笛のランナー・隊長は、やはりただの酔っ払いではなかったのだ。

 …と思っていたのだが。
 今宵さっそく、ただの酔っ払いになってしまう隊長なのだった。