12・救世主現る!!

 絶望の淵に立たされながらも、わずかに残された力で体を前に進めていたところ、前方に我が目を疑う光景が見えた。

 マラソンウェアに身を包んだランナーが、確かな足取りで逆方向に走ってきたのである。
 高速道路を逆走する90歳のオジイか??と一瞬思ったが、そんなことがあるはずはない。
 しかもよく見ると、どうも見覚えのある顔ではないか。

 あッ!!

 マサカっちゃん??
 え?エーッ!?

 驚きつつ手を振ると、彼も僕を探していたらしく、おおっ!!とばかりに手を振るやスタスタスタと近づいてきて、すぐさま進行方向に向きをかえるや一言。

 「さぁ、行きましょう!!」

 この一言がどれほど僕の窮地を救ってくれたことか……。

 すでにゴールを果たした彼は(記録、3時間22分!!) 、Yさんご夫妻の車に乗ってコース途中までやってきて、そろそろ疲労困憊しているであろう我々を勇気づけるべく、再びコース上に舞い戻ってきてくれたのである。


撮影:Yさん

 なんと熱い男なのだ、マサカッちゃん。
 これまでに何度も触れてきたとおり、沿道から知り合いに声を掛けらえれるとイヤでも力が出る。
 それが、掛け声と共に伴走してくれるともなれば、エネルギー切れを起こしていてもなお、体の隅の隅で縮こまっている細胞に残されたエネルギーを、予備タンクがかき集め始めた。

 まだ走れる!!

 そして沿道には、どんどこ応援団員が横断幕を持って待機してくれていた。


撮影:Yさん

 さっきまで死ぬ寸前のような顔をしていたはずなのに、笑いながら腕を上げてピースまでしてしまえるとは……。
 まことにもって沿道の声はありがたい。

 ちなみに熱い男マサカッちゃんは、この少し前にうちの奥さんをも勇気づけていたのである。


撮影:Yさん

 一度42.195キロを走り終え、なおかつこんなに走ってもなお有り余る元気……。
 彼にとっては、ゴール後に我々のペースで走るくらい、クールダウンの運動にすらならないほどのものなのだろう。
 アスリートってすごいッ!!

 僕たちを勇気付けてくれたマサカッちゃんは、「じゃ、がんばってください!!」と一言残し、颯爽と沿道の応援団たちのもとに帰っていった。

 ありがとう!!
 その後は快調に走り続け………というわけにはいかず、やはりその後も走っては歩き、走っては歩き、を繰り返さざるをえなかったものの、彼のおかげですっかり勇気づけられた僕は、ある重大なことに気がついていた。

 気合が入れば、予備タンクが始動する!!

 そうなのだ。
 さきほどまでは、もうダメだ、絶対走れない……と諦めかけていたというのに、極端に言うなら首根っこを掴まれて引きずり出されるかのように無理矢理走らされたおかげで、自分がまだ走れることに気がついたのである。

 たとえ休み休みであっても、走ることができるなら………

 間に合う!!

 やがて37.7キロ地点あたりになると、町になってきて、沿道ではたくさんの人たちが声援を送ってくれていた。
 数多い選手たちの中でも僕くらい遅いレベルになると、そこかしこで歩いている人がたくさんいる。
 ところが面白いことに、沿道の声援が大きいところに差し掛かると、今にもしゃがみこみそうに見えた人たちまでが走り始める。

 沿道から声援を送る方々は、そこがコース上のどのあたりかということはもちろんご存知で、なおかつ残り時間もわかる。だから、

 「まだ間に合うよー!!」

 そんなうれしい声も送ってくれるのだ。
 僕もそうやって沿道の声に励まされつつ、なおも走っては歩き、走っては歩きを繰り返す。
 
38キロ地点で、残り時間あと55分。
 うちの奥さんはもうゴール近くを走っている頃だろうか。
 僕もなんとか間に合わせたい!!

 歩みは遅くとも、着実に前に進んでいた………。

 急げヤマトよ、イスカンダルへ!!
 人類は君の還りを、君の還りだけを待っている!!

 地球人類滅亡まで………………あと55分!!