13・最後はこの曲だ!

 走っては歩き、走っては歩き…を繰り返す場合、ただ無期限に歩き続けているわけにもいかない。
 また、無目標に走り続けるのもしんどい。

 なので、あの電信柱まで走ろう、あの看板から走り始めよう、と細かく手近な目標を作っては達成しつつ、ほんの少し余力があれば、ちょっと多めに走る、ということを繰り返していた。

 そしていよいよ、前自分未到の領域のなかでも想像すらできなかった40キロ地点が近づいてきた。
 
40キロを過ぎれば、残りはたったの2キロチョイだ。
 しかし、そのたったの2キロを「たった」と思えない世界なのだ、フルマラソン最終盤は。

 2キロだなんて欲張ったらダメだ。
 あの電柱まで、次の電柱まで……走っては歩き、走っては歩き
そしてまた走る。
 よーし、あの交差点の電柱まで走ろう!!

 そこは長い長い直線道路で、前を向いて走るとその距離がイヤでも目に入ってしまうので、なるべく目にしないよう、下を向いて走ることにした。

 そしてそろそろプチ目標の電柱だ、ちょっと歩こう……と思ったそのとき!!

 どこかで見たことのある子供が……
 あれ??そのそばにいるのは……

 えび屋−Mさん!?

 そうなのである。
 またしてもえび屋−
Mさんが、お子さんと共に沿道から声援を送ってくださっていたのだ。
 あのぉー、僕そこからひとまず歩こうと思ってたんですけど……

 ……というわけにもいかず、いかにも元気良さそうに通過していったのだった。

 はい、その一連の写真がこちら。


なるべく前を見ないよう、下を見ながら走る。撮影:えび屋−Mさん


声を掛けてもらえると元気が出る。撮影:えび屋−Mさん


ああ、あの電柱から歩こうっと…。撮影:えび屋−Mさん

 無限の先まで続いているかのように見える直線道路。
 でも一歩ずつ、一歩ずつ……。

 ちなみに、当然ながら一足先に、うちの奥さんも通過していた。


撮影:えび屋−Mさん。ちなみに電柱にいる子は彼の娘さん。

 この写真では元気そうに見える彼女も、実は37.5キロ地点を過ぎたあたりから、どうにもこうにも脚に力が入らなくなってきたという。
 僕が
30キロ過ぎで味わいはじめた感覚を、彼女もようやくここにきて味わっていたのである。

 とてもじゃないけど走っていられなくなって、途中はさすがに歩いていたらしいのだが(ここまで来てダメなのかぁ…と泣きそうになっていたらしい)、たまたまここを通過するときは走りモードになっていたのだそうだ。

 後続の僕はそんなことなど知る由もなかった。
 あとでえび屋−
Mさんの撮影データに記載されている日時を伺ったところ、この地点の通過タイムには3分の差があった。
 僕はてっきり、この頃にはもううちの奥さんはとっくにゴールしているものとばかり思っていたのだが、実は少し先にいたのである。

 そんなこととはツユ知らず、ついに40キロ地点を通過!!
 あと
2.195キロで、残り32分!!

 ここまで来たら……ここまで来たら………

 なんとしても目指すぜゴール!!

 ここで僕は、長い間ポケットに眠らせ続けていた秘密兵器を、ついに取り出した。
 ここまで来たらこれしかない!!
 ピポピッと曲目を選択して、
PLAY

 さぁ、みなさんもご一緒に聴きましょう!!この曲です!!

 急げヤマトよ!!
 人類は君の還りを、君の還りだけを待っている!!

 地球人類滅亡まで………………あと32分!!
 曲を聴きながら、次ページへ!!