2・カカト痛い記
僕までマラソン参加を表明してしまったのは10月中旬のことだった。 余裕だ!! …と思っていたのだ、最初は。 一方、練習期間には余裕を感じていたものの、ひとつ重要な問題があった。 2年前の海洋博トリムマラソンの 20キロコース(実際は19.2キロ)に出た際、めでたく完走したものの、後半は膝や足首がやたらと痛かった。当時に比べどういうわけか(そういうわけだけど)増加している体重に加えてフルマラソンともなれば、事態は痛いで済まなくなるに違いない。 まずは体重を減らさねばならない。 が。 2.5キロってあなた、42.195キロのたった17分の1ですぜ……。 ひとあし早く練習を始めていたうちの奥さんも、最初の一回目で同じようなことを言っていたけど、それにしてもこのしんどさは……。 35歳を越えると現状維持すら容易ではなくなる体の力。 40を越えている今、シーズン中の怠惰な生活が、体力を一気に減少方向に押し下げてしまっていたのだ。 とはいえ一般に知られているとおり、ダッシュや瞬発力を必要とする無酸素運動に比べ、有酸素運動は齢をとってからでもできる運動である。ジョギングなどはその最たるものだ。 体が軽くなればさらに走れる!! しかし!! 金属疲労している肉体の各パーツは、トレーニングをするにつれてアップしていく心肺機能と反比例して老朽化していく。 もともと僕には、毎オフジョギングをすると必ずカカトが痛くなるというクセがあった。なんだか知らないけど、走りはじめだけカカトあたりが痛くなるのだ。 不思議的ではあったものの、やがてシーズンになるとなんともなくなるくらいだから、大したことはないだろうと高をくくっていた。デコボコ道を走っているから、何かの拍子にカカトを痛打しているのだろう、くらいに。 ところが今オフの日々の練習では、その痛みが徐々に尋常ではなくなっていった。一時は走っていられないくらいに。 痛さ的にはとても痛いときでも激痛というほどではなく、どちらかというと疼痛だった。 その微妙な痛さを無意識にかばうため、変な走り方になってしまうのである。 うーむ、これは問題だ。 そして大会一週間前のこと。 腱?? てっきりカカトの骨自体に問題があるのかと思いきや、そこに繋がる腱、そして足全体の筋肉に問題があったとは。 その後ネットで自分の症状に該当するものをいろいろ探してみると、どうやらこのカカト痛の直接的な原因は、足底腱膜炎であるらしいことがわかってきた。 なんだ足底腱膜って。 足の裏の土踏まずのところをビンと伸ばすと出てくるスジのことだ。 朝起きてすぐの歩行時にカカトが痛い。 ……まるっきりビンゴ。 あちこちに劣化によるひび割れができていて、無理に引っ張ると プチッ っと切れてしまうわけだ。 面白いことに、すべて切れきってしまえば痛みはなくなるといい、たとえ切れきってしまっても生活に支障はまったくないらしい。 おまえは盲腸かッ!! …と足底腱膜にツッコミを入れてもしょうがない。 風邪のひき始めは潜れば治る、的ノリで、このカカト痛も走れば治ると信じてきたのに、それはまったく180度どころか540度くらい反対の逆効果なのだった。 そんなわけで、大会一週間前から練習をストップ。筋トレとウォーキングだけにしたんだけど……… それやこれやのことがうちの奥さんのマラソン蔵書に載っているという。 「だからこの本読めってずっと前から言ってたでしょう!」 ……たしかに。 その「長」の部分のおすそ分けをくれたっていいくらいなのに、なにしろ彼女は2年前の海洋博トリムマラソンの20キロコースで僕に負けたのがよほど悔しかったらしく、今回こそは…と気合が入りまくっているのだ。敵に塩は与えてくれない。 サザエを獲るときにこそ発揮してもらいたいその気合で、夕方になると、まるで砂漠で地面の熱さを凌ぐために変なポーズをするトカゲのような運動をずっと続けていた。 人間の体って、絶妙なバランスのうえに出来上がってるんですなぁ…。 ああしかし、時すでに遅し。 ……マラソンに出るなんて言うんじゃなかった。 |