3・困ったときのロッキー頼み
自分のカカトの病状を知って愕然とした僕は、しょうがないので己の肉体に「安静」を与えるべく、大会までの一週間を休養にあてることにした。 受験勉強じゃないんだから、今さら直前の一週間で能力がアップするなんてことがあるはずはない。 かてて加えて、カカト痛。 それやこれやの不安を抱えていると、さらにあちこちの神経が過敏になる。 一方、うちの奥さんは。 おまけに、「まず格好から入る!」と宣言した彼女は、マラソン本を参考に、なにやらエレキングを操っている宇宙人が着ていたようなウェアや、専門店でスタッフのアドバイスを受けながら選んだシューズまで購入しているではないか。 うーむ………。 まぁしかし、市民マラソンというモノは本来楽しく走るものなのである。 そう開き直ったのも束の間。 なかでも開催地石垣島に在住の友人知人諸先輩の方々は、わざわざ当日沿道から声援を送ってくれるという。 みんなが待ってくれている所にすらたどり着けなかったらどうしよう?? 27.5キロとなると、ヘタするとたどり着けないかも……。 なんかかっこ悪いなぁー。 知人が誰もいないどこか辺境のマラソン大会だったら、恥も外聞もなく即座にリタイアできるというのに、こうなるとさすがに少々の見栄を張らねばなるまい。 そんな弱い心を払拭する方法は一つしかない!! 練習中も、ラスト一周といった気合の入れ所では必ず、わざわざポッケのウォークマンを取り出し、ピポパッと選曲して聴いていたロッキーのテーマ。 という意味では、1作目の「ロッキー」でもよかった。しかし四十過ぎのロートルとしては、ここはやっぱりファイナルでしょう。 というわけで、出発前夜は景気づけに「ロッキー・ザ・ファイナル」を鑑賞したのだった。 寝ている彼女をよそに、ドドンと盛り上がりながらラストを迎え、いやあ、俺はやるぞやってやるぞ!!と体中に気合が漲ったところで……… ボクシングって、12ラウンド戦ってもせいぜい1時間じゃん。 再び前途に暗雲が立ち込めるのであった。 |