ひとしきり頂上からの眺めを楽しんだ後、そろそろ下山。
全員が短縮ルートを選んだのはいうまでもない。
実際、登るよりも下るほうが脚力が必要になる道だったものの、道に添えられた補助ロープのおかげで、ずっと腕を使っているだけでよかった。C−3POの我々にはとても有難かった。
無事下山し、いったんふくみみ家へ。
ふくみみ家の周りをほんの少し散歩してみたところ、とっても素敵なさえずり声が響き渡った。
聴いたことがない声だ。いったいなんて鳥だろう??
うちの奥さんともども、声がしたような気がする方向を見上げつつ近寄ってみると、違う方向から同じ声が。
あれ?2羽いるのか?
飛ぶ姿は見えなかったものなぁ。
さらに声がする方向へ、また声の方向へ……と行ったり来たりするうちに、ついに判明!!
カエルだった。
排水溝から声がしていたのだ……。
ちょうどそこへ、正規の登山口に停めてあるもう一台の車をとりに行っていたプロフェッショナルガイド・ふくみみおーほりが戻ってきた。
訊ねてみると、この声はヤエヤマアオガエルだという。
さきほど下山した際、登山入り口付近沿道の用水路の水溜りでオタマジャクシをたくさん見たんだけど、それが大人になるとこんな声を奏でるようになるのだ。
なんとも美しい鳴き声。
それがコンクリートでフタをされた排水溝内に共鳴しているものだから、余計に素晴らしい。
鳥と聴き違えるのも無理はないって。いや、ホント。
…といいつつ、それじゃあヤモリの声を聴いて「いやあ、今日は爽やかな鳥の声で目覚めましたよぉ!」という沖縄初心者ゲストと同じか。
その姿を拝んでみようと、排水溝のフタを持ち上げようとしてみたところ、フタはあまりに重くでかかった…。
後日、ふくみみおーほりが写真を送ってくれた。
ヤエヤマアオガエル 写真提供・ふくみみおーほり
モリアオガエルによく似たカエルさんだった。
カエルがいる自然っていいなぁ(水納島にはカエルはいない)。
その後みんなで昼食に。
市街地と違ってもともと人家もまばらだったこのあたりでは、それほど外食産業は発展していないものの、ふくみみ御用達のお店がいくつかあるそうだ。
が、行こうとしたら定休日。
あれ??
と言いながらセカンドベストを目指すと、お昼時ということもあって満員。
あれあれ??
とサードベストを目指すと、これまた準備中。
あれあれあれ??
こと飲食店に関するかぎり、マの悪さに定評がある僕にはよくある展開だ。
てゆーか、ひょっとして俺がいるせいか??
なにぶん外食産業が発展していないこの地域である。
サードベストの次は、いきなりワーストになってしまうらしい。
それも、超有名タレントが経営しているというレストラン。
「話のタネに是非行ってみるべきだよぉ〜」
と、一人ノリノリのヒサコさん。
ところが。
行きがかり上店の前は通ったものの、他のすべての石垣在住者によって、その案は徹底的に却下されたのだった。
「だって、まずいもん!!」
次の次の次の機会くらいに行くことにしよう……。
昼食を求めてさすらうジプシーになりかけていたところ、幸い、さきほど満員だったお店がようやく空き始めた。
その名を新垣食堂という。
いかにも沖縄の食堂という感じのそのお店は、これまたいかにも昔の…という感じの商店が併設されていた。
メニューがまた潔いほどにシンプルだ。
牛汁
牛そば
カレー
の3本勝負。
牛汁以外にはそれぞれ大小の選択肢がある。
普通だったら僕は迷うことなく「大!!」というところだけれど、ところ変われば品変わる。アメリカのマクドナルドで「L」なんて言ったら大変なことになるように、ここでも取り返しがつかなくなるかもしれない。
ふくみみ・おーほりによれば、
「多分、小でお腹一杯になりますよ」
地元の人のアドバイスに従うにこしたことはない。
ところで。
今の沖縄本島地方といえば、どこに行っても「アグーアグー」と騒ぎたて、ホントに供給が間に合ってるのかと疑問に思うほどに大フィーバなのだが、ここ石垣では違った。
「石垣牛」
今やすっかりブランドになったこの牛さんに比べれば、アグーなんぞただの豚でしかないようだ。ポルコ・ロッソも言っている。
「飛ばねぇ豚はただの豚だ」
……当然か。
だからここ新垣食堂にも、ソーキだ三枚肉だなどという豚メニューは一切なく、そばの出汁さえも牛汁そのもの。
しかるにさすが牛の国、大の男が腹一杯になる「小」の値段はたったの 500円!!
たっぷり牛肉が入ってたったの500円!!
尾張名古屋は城でもち、本島地方は豚でもち、石垣島は牛でもつ。
それにしても、これだけの需要を満たすほどに牛さんは足りているのだろうか??
心配御無用。
石垣島内を普通にドライブするだけでそこかしこで牧場や牛舎を目にすることができるくらいだし、マラソンしていたときもあちこちに牛舎があり、牛カジャーしていたものだった。
また、この日の夕刻にふくみみ一家に連れて行ってもらった北部の眺めのいい高台の麓には、広大な斜面一面が牛の牧場だった。
島内にはこういう場所がゴマンとある。
なんでも知っている水納海運機関長キヨシさんによると、このあたりは強い風をモロに受ける場所だからもともとはまったく畑作には適しておらず、誰も利用していなかった土地だったのだけれど、牧草には最適だったとか。
それまで人が寄り付かなかった土地が仕事場になったのは、ある意味牛さんのおかげなのかもしれない。
こんな広々とした放牧場、水納島唯一の牛飼いおじいトクマツさんに見せてあげたいなぁ。
さてさて、我々はまだ新垣食堂にいる。
さすがに昼時を過ぎると空いてきたけど、普通は昼時でも満員になることなどないらしい。
先ほどチラッと見たところ「わ」ナンバーもいくつかあったから、徐々に観光客に知られるところとなっているのだろう。
このままではやがて本部の山原そばになる日も近いかも。
経済的にはよろしくても、地元民の生活に支障がでる、というパターンである。
じゃあ紹介するなよ!
と言われそうだけど、何度も言っているようにこの旅行記は我々夫婦の衰えた記憶メモリー代わりなのだ。書かなかったら、ヘタしたらお店のことを忘れてしまうかもしれないじゃないか。
というわけなので、とってもとっても美味しく安いお店新垣食堂ですが、これを読んだみなさんはけっして昼時に行ってはいけません。
昼時は地元の方優先ってことで。
美味しいそばを食べて満足したあと、ふくみみ家に戻った。
しばらくお茶を飲みながら(我々夫婦はビールを飲みながら…すみません)、ふくみみのりだー手製のデザートをいただきつつしばしゆんたく。
そして。
ここでマサカッちゃん夫妻とお別れだ。
この日夕刻の飛行機で東京に帰るマサカッちゃん夫妻と、彼らを空港に送るべくYさん夫婦もこれにて戻られる。
僕の完走は本当に君のおかげだ!!
ありがとうマサカッちゃん!!
「来年また走りましょう!!」
えッ!?
……あのぉ、どんどこ応援団に加わります。 |