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1・ワイナリー「パトリア」
父ちゃん劇場のあとは、前日に続き再び現地ツアー。 ワイナリー?? ワインに関してなんの薀蓄もない我々が、シチリアに来てワイナリー見学って、どういうこと?? その疑問はもちろんである。 観たこともないのに「オペラ、オペラ」って言ってる父ちゃんと同じじゃんッ!! ごもっとも。 ゴッドファーザーロケ地めぐりだった前日に続き、タオルミーナ発で何か他にないだろうか…… と探していたところ見つけたのが、このワイナリー見学ツアー! ワイナリー見学そのものよりも、このワイナリーがエトナ山麓にあるというところにまず惹かれた。 そしてそして… 試飲ができるのはもちろんのことながら、エトナ山のオリーブ、地元特産のチーズ、そして黒豚のサラミ、ドライトマトやナスのオイル漬け、もちろんパンも付いているというのだ。 つまり! ワインが飲めて食事までできるわけ。 風光明媚な景色を楽しみつつ、酒飲んでいいコンコロもちになる……… けっこういい感じでしょ??? というわけで、この日ギリシア劇場を見学したあと、メッシーナ門傍の、巨大なベンジャミンが茂る広場へ。 ここで10時にヒロセさん&アントニオと待ち合わせをしていた。 今日もベンツでGO!! タオルミーナから、一路エトナ山を目指す。 そんな町々には必ずひとつやふたつ、広場がある。 ところが午後になった帰り道には、そんなオジサマたちの姿は消えていた。 平日のいいお天気の午前中。 お話しているのである。 ヒマさえあれば働いてばかりいる多くの日本人には、まことにもって奇異に見えることだろう。 でもそこらあたりが、遺伝的に日本人と決定的に異なる部分なのだろう。 このシチリアの田舎の町々の広場にも、屯するオジサマはたくさんいても、けっしてオバサマたちは屯していたりはしない。 イタリア全土における「マンマ」のパワーは、沖縄の女性に相通ずるものがあるに違いない。 そういえば、名作「ニュー・シネマ・パラダイス」の監督、トルナトーレ氏が語っていたシチリアの女性像は、 ただひたすら待つ というものだった。 たしかに件の映画でも、主人公トト(サルバトーレ)のお母さんも、若い頃も老いても、ただひたすら待っていたっけ。 今のシチリアでは、それはあくまでも田舎での話でしょうとヒロセさんはいう。 待つ必要がなくなると、世話をすることもなくなるからか、たしかに後日訪れたパレルモあたりでは、午前中広場にオジサマたちが屯している、という光景は見なかった。 この、午前中広場に意味も無く屯するオジサマたち……というシーンも、失われていくであろう古き良きシチリアなのかもしれない。 そうこうするうちに、アントニオ・タクシーはやがてエトナ山麓に。 富士山だったら、自衛隊の演習場がありそうな辺りを抜けて、タクシー・ベンツはひた走る。 標高が増すと、あたりにはブドウ畑が増えてきた。 そうか、この時期のブドウって………… ……丸裸だったのね。 いえ、その………なんとなくブドウ畑って「緑!」ってイメージだったもんで。<バカ そしてワイナリー「パトリア」にいよいよ到着というその寸前! 周囲のブドウ畑に、モノスゴイ数の鳥の大群が。 よく観ると、ムクドリ系の鳥だった。 後日。 ひょっとしてその集団退去の日が、この日我々がムクドリSP.の超大群を観た日と同じだったとしたら…………?? 鳥たちが渡りたくなる地球のサインというものがあるのだろうか。 それはともかく、この大群にちょっと感動。 できることなら、ワイナリーに入ってしまう前に鳥をじっくり……<何しにきたんだよ!! 後ろ髪を引かれつつ、ワイナリーへ。 ワイナリー「パトリア」の、広報担当官(?)マリアさんが、我々を待ってくれていた。 さすが標高700mともなると、低地とは空の色が違う。 ではないのだった。繰り返すけど。 さあ、見学開始だ!! その冒頭で。 「彼は研究職員で、ワインを研究しているのであって、けっして朝っぱらから飲んでいるわけではありません」 たしかに、言われなければ、仕事をサボって酒飲んでる…って図に見えなくもない。 そんなイケメン君が、マリアさんに呼ばれてやってきた。 「けっして遊びで飲んでるんじゃないですよ」 本人もそう言う。 せっかくだから、イケメン君と一緒に写ってもらうことに。 このとき、いかにもイタリアの男性らしくふるまう彼に、その女性は僕の嫁さんだからね、というと、慌てて体を離す素振りを見せるオチャメなイケメン君なのだった。 ま、ホントにイケメンかどうか、細かいことを気にしてはいけない。 その根拠のない自信はともすればやっかいに思えることもあるかもしれないけど、でもそのおかげだろう、この国の町を歩く男性(女性もだけど)たちは、これまた老いも若きもみなカッコイイ。 根拠のない自信がもたらす姿勢の良さ、とでもいうのだろうか。 とある方のブログを読んでなるほどなぁ…と思ったことがあった。 その姿ならたしかに、ブログ著者がおっしゃるとおり自信溢れる男性の姿に見える。 …という話を、旅行出発前にうちの奥さんと笑い話として語り合っていたのだが。 この時まさに、ワイン片手のイケメン君は、その通りのポーズをとっていたのだった。 内心で一人爆笑するうちの奥さん。 ……って、肝心のワイナリーはどうなのよ? もちろんマリアさんは熱心に我々に語って聞かせてくれた。
興味深かったのは、この大量のワインたちを醸造、保存している地下施設が、溶岩台地をくりぬいて作られているところ。 ただでさえ標高700mでひんやりしているのに、そのうえこんな地下ともなると、夏でもさぞかし涼しいことだろう。 Fa cardo!! 暑いらしい……。 そのほか、巨大な樽を貯蔵している部屋も面白かった。 煌々と電気が灯る時間とて短いだろうこういう細部へのこだわりがまた、ブドウやワインにそのまま反映されるに違いない。 いやはやさすが、シチリアに数あるワイナリーのなかでも4番目の規模だというワイナリー、樽の量ひとつとってもハンパではない。 と思っていたら。 「やっぱり大したもんだよなぁ。山梨あたりのワイナリーとは規模が違うわ」 へ?行ったことあるんですか?? 「あるよ、ほれ、同僚たちと一緒に二回くらい」 それを先に言っててくれれば!! 今初めて知る、父ちゃんの秘密。 そしてその後は…… お待ちかね、試飲タイム〜〜〜〜〜 ワイナリーには、我々のような個人手配だけではなくて、団体客などがほうぼうから来るのだろう。 どれもこれもメチャクチャ美味い!! その肝心のワインは、4種類試させてくれるという。 サルート!! 撮影:ヒロセさん …と言うと、 「………サルーテ(乾杯)、です。」 冷静なヒロセさんに訂正していただいたのだった……。 ワインの味など何もわからぬ僕のたわごとなど誰も聞かないだろうけど、初めて飲んでみたエトナ山麓のワインたち、そのイメージは………… なんだか甲州ワインに似てた……。<せっかくシチリアのワイナリーに来て感想はそれかいッ!! いや、でもね、イタリアのワインっていえば、もっとこう、なんというのかモッチリ系というか、赤なら赤で、肉食いてぇ!!って思ってしまうような、白なら白で、ガツンと来る系なのだとばかり思ってたんですよ。 聞くところによると、シチリアのワインがブランド化したのは近年のことだそうで、しかもエトナ山麓産がググンと盛り上がってきたのは最近らしい。 そういえば!! ひょっとして、時代は甲州ワイン系を求めているのか?? ……な〜んちゃって。 「この試飲タイムが2時間くらいあればいいのに………」 シアワセそうな顔をしてうちの奥さんが言う。 試飲って言わないんじゃね?? こうして我々は、すっかりいいコンコロもちになっていたのだった。 せっかくだからと、その後ショップコーナーでお土産を購入。 …って、財布からお金出しただけだけど。 建物を出ると、空は光り輝いていた。 前日の我々は、あの山々の向こう側からこの谷を眺めていたことになるのだろうか。 「月に1度、2度あるかないかってところだと思いますよ」 ってことは、日々の生活は、ほぼこの標高700mで完結しているのか。 海はもちろん捨てられないけど、こんな風景に囲まれた生活も、とてもとても楽しそうに思えた。 ワイナリー見学中、拙いイタリア語でマリアさんと会話していたところ、彼女は 「どれくらいイタリア語勉強したの?」 と訊いてきた。 「ワタシも3ヶ月勉強したら、日本語話せるようになるかしら?」 当然応えは Certo!!(もちろん!!) だって、僕だって日本語を話せるくらいだから! ……とジョークを加えてみたのだけれど、残念ながらちゃんと伝わったかどうかはわからない。 マリアさんは日本の伝統文化にとても興味があるのだとか。 伝統文化といえば! ……渡せばよかったぁ、と後刻悔やむうちの奥さん。 マリアさん、とんぼ玉はまた今度ね! |