30・メルカート・ヴッチリア編
ジジマンジャでかなり満足してホテルに戻ったあと。 一方、昼間は誰よりもスヤスヤと寝ている父ちゃんは、酒の勢いでいったんは眠りにつけるものの、夜更けに一度パチッと目が開いたあとはなかなか寝つけないようだった。 もどかしいだけならいい……。 寝られない…という居心地の悪さを、唸り声もしくはうめき声で表すものだから、そばで普通に気分よく寝ている者にとっては耳障りなことこのうえない。 大通りに面しているホテルなので、自動車の音は途切れることなく夜通し聴こえる。 そういうこともあろうと思って!! 僕は秘密兵器を持ってきていたのだった。 安眠安眠。 眠れぬ夜を過ごした父ちゃんは、何を血迷ったか、夜が明ける前からなんと風呂の準備を始めたのだ。 大容量の浴槽でも短時間で湯が溜まる水量だから、その轟音たるやハンパではない。 しかし僕が何も言う前に、真っ先にキレていたのはうちの奥さんなのだった。 いやホントに、今さらながら…… 「貴女はエライ………」 とつぶやいたのだった。 そんなことなどどこ吹く風で、今朝も朝から風呂上りのワインを楽しんでいる父ちゃん。 そして朝。 ところが部屋その他すべてひっくるめて、父ちゃん的にはタオルミーナ、パレルモ、そしてこのあと行くローマで泊まったホテル3ヶ所の中で、ここが最も良かったらしい。 ヨーロッパに来てアメリカンスタイルのホテルってどうなのよ……と思ってはいたものの、立地はもとより父ちゃんの居心地という基準で選んだ手前、そう評価してもらえると選んだ甲斐があったというモノだ。 ま、ここまで傍若無人で過ごせれば、どこに泊まっても本人の居心地は良かったのは間違いない。 さあ朝食後は、いよいよパレルモの街を散歩だ!! ……しかし外は雨なのだった。 ここまでは奇跡のようにお天気に恵まれていたから、このへんで雨になるのはしょうがないか。 春のイタリアで雨具は欠かせないというので、一応折り畳み傘は持ってきていた。 そんな雨のパレルモの路上には、こういう人たちが20m間隔で商いをしていた。 傘売りオジサン。 こうしてビルの陰で傘を並べている人もいれば、腕に何本も傘をぶら下げて歩きながら、路上で売り子をしている人もいた。 雨がぱらつく中、ホテルを出てルッジェーロ・セッティモ通りをテケテケ南下すると、やがて出てくる巨大な構造物。 ご存知マッシモ劇場だ。 このマッシモ劇場を通り過ぎてすぐあたりに、このマクエダ通りに交差するようにして、カーポ市場の小道が続いている。 残念ながら、この天気とまだ時間が早いってこともあってか、カーポ市場はほとんど店舗が出ていなかった。 ローマ通りを渡ったところにある、サン・ドメニコ教会前の広場から始まるヴッチリア市場は……… まさに期待通りの…………… そう、我々はこれを、これを観に来たのだ!! ……そんなこととはツユ知らず、例によって道もわからないくせにとっとと先に行ってしまう父ちゃん。 そんな魅惑のヴッチリア市場の様子をここに!! ヒロセさんが教えてくれたとおり、 タオルミーナでは紫だったカリフラワーが、ここでは黄緑色!! (どう観てもカリフラワーなんだけど、ブロッコリーって書いてあった。) うちの奥さんが気に入っていた、 カルチョーフィ(アーティチョーク)オジサン。 ひたすらここで、カルチョーフィの葉を落とし続けていた。 市場の魚屋といえばこれ、というくらい有名なカジキマグロ。 ドドンッと置いてある。 写真を撮っていいですか、と訊くと、まずノーと言われることはない。 そして彼のようにポーズを撮ってくれる人も多い。 何に使うのか、サメやエイもズラリと並ぶ。 店のニィニィはパスタに使うんだと言っていたけど、ホントか?? シチリアのタコもなかなかやる!! ホント、牧志公設市場みたい……。 オリーブ売りのオジサン。ここでオリーブを2種類ほど購入。 様々なガイドブックに登場している、名物パネッレを売っている店の名物ニィニィ。 禿げていようがどうしようが、 自分がイケメンだと思っているのは全イタリア人の男に共通しているようだ。 写真はすべて、事前に「撮ってもいいですか?」と断りを入れている。 また、一緒に是非!と言ったら、上の写真のようにカウンターの内側に呼び入れてくれたりもする。 このパネッレ売りのお兄さんは、福島にエツコという名のお友達がいるらしい。 ところで、冒頭の八百屋さんではプチトマトも並んでいて、面白いことにこういう状態で売られている。 ボケているのでわかりづらいけど、房ごとに繋がっているのがおわかりいただけるだろうか。 おいしそうなので購入。 カワイイ♪……けど……似合わねぇ〜〜〜。 アメリカ型消費社会への道を一直線に進む日本では、大型ショッピングセンターや巨大スーパーが次々に誕生し、その影で八百屋や魚屋、肉屋や豆屋、豆腐屋といった昔は当たり前にあった個人商店が軒並み姿を消している。 ここパレルモにも、実はそういったスーパーがすでにできているらしいから、こういった市場も実は安穏とはしていられないに違いない。 たとえ不便でも余計な手間がかかっても、手間ひまかけても古き良きものを残すことを選ぶ社会であれば、けっして夢物語ではないと思うのだ。 このヴッチリア市場だけでも相当期待どおりだった。 |