38・冷や水
ほどよく歩いてほどよく飲んだので、父ちゃんはそろそろお昼寝タイム。 トラットリア・プリマヴェーラがある広場からクアットロ・カンティはすぐ近く。 土曜ということもあって、マクエダ通りには車も少なく、こんなふうに遊べたりもする。 たかだか15分の一直線の道、ゆっくりこうして遊びながら行けばそれほどしんどくもないんだけど、ここでもやはり、父ちゃんは休むことなくサクサクスタスタ進んでいく(右前にいる小さい人影)。 どっちにしろ、歩いた時間にしろ距離にしろ、昨日に比べればまったく大したことはない。 ホテルに到着した頃には、父ちゃんはすっかりダウンしていたのだった。 だからゆっくり歩いたほうがいいって言ってたのに!! とりあえずハワイのときとは違って、ここがホテルの部屋であることが不幸中の幸いだ。 「やっぱり、部屋を掃除してもらおうよ」 父ちゃんが言う。 なので、かくかくしかじかなので2時までには掃除を終わらせておいてくれ、と今朝フロントに頼んであった。 でも……… 「だいじょうぶだよ」 ……って、その「だいじょうぶ」にゼンゼン説得力がないんですけど。 しょうがないので、ただちに掃除してくれるようフロントまで言いに行った。 僕は文句を言ったわけではなく、ただお願いしに行っただけなのだが、やはりフロントの対応は通常とはやや違った。 「それはまことに申し訳ございません。てっきりワタクシ、2時以降と勘違いしておりました。ただちに連絡して掃除に行かせます……」 朝お願いしたときと同じ人だったので話は早かった。 「オソクナッテタイヘンモシワケゴザイマセーン。タダチニヤリマス!!」 へ??日本語なんでそんなに上手いの?? 「ハイ、ワタシノオクサンニッポンジンデス。ヒロシマジン!!」 え゛―ッ!? いやあ、開けてビックリ玉手箱。 その後ホントに「タダチニ」ルームキーパーさんが来てくれた。 ルームキーパーさんが心配げだったので、すみません、年甲斐もなく飲みすぎ食べ過ぎのようです、と伝えると、 「ワタシの父も、飲みすぎてしょっちゅう家でこうなってるわよ」 やや安心しつつ笑いながら、作業中も気を遣って小声で話してくれる彼女なのだった。 なんだかこうして書くと、我々がまるで老人虐待しているかのように誤解される向きがあるかもしれない。でも、どう考えても振り回されているのは我々なのだ。 最初にグッタリしていたときに比べると血色も良くなってきたので、もう大丈夫だろう。 「いやあ、あの鰯の脂が効いたんだなぁ…」 などと嘯いていたけれど、同じものをもっと食べた我々はなんともない。 飲みすぎッ!! 本人は認めたがらないけど、どう考えてもそうでしょ?? その疲労をキチンと把握していてくれればいいのに、二言目には「旅行なんだから…」とか「大丈夫だよ」と繰り返し続けた父ちゃん。 年寄りの冷や水。 ついに朝酒禁止令発令。 さてさて。 LIBERTA!! 風の向くまま気の向くまま。散歩の自由がここにある。 旧市街を東西に走るこのメインストリート、家で地図を見ていたときは、もう少し勾配がきついのかと覚悟していたんだけど、海から続く道は緩やかに緩やかに伸びているので、帰りもとても楽ちん。 この道を海まで歩くとたどり着くのが…… フェリーチェ門。 たしかに造作がまったく違う………。 この門がヴィットリオ・エマヌエーレ通りの海側の終点。 海がある。 せっかくだから、ティレニア海初タッチ!! 年寄りの冷や水は懲り懲りだけど、ティレニア海の冷や水は心地いい♪ イオニア海もティレニア海も、水納島の海に比べるとしょっぱくない、とオタマサは言った。 防波堤のほうに行ってみると、岩場にはアオサに良く似た海藻が生えていた。 近くには釣り人の姿が。 「いやあ、釣れないねぇ…」 といいつつ、釣れなくても釣れてもどっちでもいいような感じだ。週末をのんびり過ごしているのだろう。 「うんうん、知ってるよ。日本人は食べるんだよね。君たちは日本人なの?」 はい、日本人です。 その後彼に釣果があったことを祈ろう。 このすぐ近くの波打ち際で、パレルモでの自分たち用お土産を集めてみた。 ビーチグラスと海岸の小石と貝殻。 ちなみに。 後日空港で買った絵葉書(もちろんこの話のために) こんな立派なマリーナだったなんて!! ここでパレルモのプレジャーボート事情も見てみたかったなぁと思う一方で。 長い間ゴッドファーザー的雰囲気がシチリアなのだと勝手に思い込んでいた僕にとっては、このマリーナの裏側のうらびれた感じこそが、かつて思い描いていたシチリアにピッタリのイメージだったりするのだった。 |