44・ガレリア・シャッラ
右も左もわからぬローマは、シチリアの街どころではない都会だった。 明るいうちにホテルに到着して、まずはホテル周辺の地理を感覚的につかむつもりでいたものの、空港での度重なるトラブルのせいで結局果たせず。 パレルモの空港にいた時点で、すでに店の予約はしてあった。 ただその予約の際、7時半から3名でと伝えたら、承知しました、お待ちしております!みたいなことを言ってくれたので電話を切ったのだけど、大事なことを伝え忘れていたことに気がついた。 名前を伝えていなかったのだ。 慌てて掛け直し、すみません、先ほど名乗るのを忘れてしまいました、と言うと、 「あ!よく思い出しましたねー!!よかったよかった!!」 大丈夫なのだろうか、この店……………。 ……という不安は残っていたりする。 ローマに限らず、日曜日にはかなり多くの店が閉まっているイタリア。我々のローマ到着はその日曜日だ。 なので、外食続きで疲れているかもしれない父ちゃんの休憩をかねて、部屋食にするならこの日かな……とオボロゲに思っていた僕だったのだが、パレルモでまさかの2夜連続部屋食。 「出力15パーセント……」 などと力なくつぶやくオタマサ。 一応日曜日でも開いている店は調べてあった。 でも観光地沖縄に住んでいる我々としては、たとえば那覇あたりの店1つとっても、観光客相手の適当商売と、地元のお客さんに愛されているお店と、その違いがとてつもなく大きいことはよく知っているつもりでいる。 なので、そういう評判重視で一生懸命調べてみると、ホテルから歩いて20分くらいの範囲でなら、さすがローマ、日曜日でも開いているそれなりに評判のよいお店がいくつかあった。 ただ、右も左もわからない土地で、しかも到着が夕刻。ホテルを出る頃にはとっぷりと日も暮れているだろうから、迷わず行って20分、迷ったらえらいことになりそうな、あまりややこしい道のりをたどるわけにもいかない。 そんな我々にとって、とっても便利な位置にあったのが、ガレリア・シャッラというお店。 ところが日曜日に関しては選択肢がなかったため、どうしようかなぁ……と思っていたときに、出発間際になってるるぶが微笑みかけてくれたのだった。 そうはいっても、あまりの人の多さに圧倒されたうえに、地図で見るのとはまったく違って見える道の複雑さ。はたして迷うことなくたどり着けるだろうか?? そこで念のために、フロントの親切なオネーサンに「ガレリア・シャッラ」って店をご存知ですか?と訊ねてみた。 「ここですね!ホテルから歩いて3分です♪」 おお、近い! 日が暮れたローマの街には、夕暮れ時ほどの人混みはなかった。 陽が暮れて暖色照明に浮かび上がるローマの街は、ホントにもうなんというか、そこらじゅうが映画セットじゃないの??てな感じの建物ばかり。 そうなると逆に不便なもので、慣れないうちはそこらじゅうの建物が同じように見えるため、いったい何を目印にしてよいやらわからない。 画面よりもさらに左側は、このお店のオープンカフェになっていた。 イタリアで中華料理食ってどうすんの?? ともかく無事にお店に到着。 …通ってた♪ さすが、開いている店が少ない日曜日……だからなのか、店内はけっこうな賑わい。 で、美味しくて安いしそのうえ居心地が良かったものだから、会計をする際に翌日の予約をして、さらに3日目の夜は予約せずにここに来てしまった(やはり異様に混んでいたのは日曜日だけだった)。 混んでいた日曜日は、そのオーダーや会計をこなすカメリエーレやカメリエーラの動きを見ているとまったく無駄がない。 例によってオーダーする量が人数に比すと少ない旨を事前に伝えると、やはり彼も万事心得てくれた。 前菜はいつものように盛り合わせを一皿だけ頼み、3人でとりわけ。
生ハムは当然のことながら、野菜類の炒め物もさらなる食欲を増進させる美味さに満ちている。 プリモは結局3皿お願いして、全種食べたいのでそれを分け合う。 エビ(アカザエビ)のリゾット♪ パレルモで食べたサフランのリゾットが爽やか系だとするなら、こちらはコク、旨みともに濃厚系。 この日頼んだパスタはカルボナーラとボンゴレ。 日本でお馴染みのカルボナーラとは違い、ご当地では生クリームを使わず卵黄だけで勝負するから黄色い。 そのほか、3日目に頼んだアマトリチャーナも美味しかったけれど、なんといっても特筆すべきは、2日目に頼んだカーチョエペーペ。 カルボナーラと並び称される、ローマを代表するパスタだ。 ところが、どういうわけかお店のメニューには載っていなかった。 「もちろんありますよ!」 ということでオーダーした次第。 美味いッ!! 味わいももちろんのことながら。 実際、お店でも自慢のメニューなのかなんなのか、翌日アマトリチャーナを頼んだ際、そのおねーさんカメリエーラは、「昨日のカーチョエペーペはどうでした?」と訊ねてきた。 ところで、このお店は実は「ピッツェリア・トラットリア」という肩書きだということを、2日目にして初めて知った。 トマトソースとモッツァレラチーズだけという、至ってシンプルなピザは、シンプルだからこそ、あたりハズレが際立つとも言える。 で、このマルゲリータも………… 美味いッ!! 後日他のピザ屋さんで同じものを頼んでみたところ、行司軍配は物言いの余地をまったく残さずこちらに。 ちなみに。 で、そこでもやはりマルゲリータを食べてみたことがあって、それがまたメチャクチャ美味しかった。 と思っていたところ、こうして何度か現地でピザを食べてみて確信した。 そうそう、初日の晩は、一皿だけセコンドに突入した。 見た感じ、脂ギッシュなコッテリ系なのかと思いきや、意外や意外、上品な塩味のワインソース。 酒が進むのもわかるでしょう? ローマといえば白ワイン。 こういうお店では、料理を味わいつつゆっくり飲んで、その日一日をゆったりとふり返りたいところ。 「効いてきた………」 とか言いながら、早くもネムネムモードになって帰りたくなってしまう。 それでもこのヒトは、ローマでの目標をかなえた。
食後にグラッパ♪ これまでの夕食では、腹がくちるとすぐに帰りたくなる父ちゃんに阻害されてなかなか食後酒にまで達せなかったのだが、そろそろ我々もワガママを言わせてもらおうってことで。 で、このグラッパ。 あ、そうそう、父ちゃんといえば。 最後の夜なんて、ついに一皿まるごとぺロリと平らげてしまった。 そして最後の最後にのたまった言葉に、我々はひっくり返った。 「このボンゴレってヤツ、こんなの日本にはないよなぁ!」 ……あのぉ、かなり一般的なんですけど。 「でも、我が家で食べるスパゲッティには貝入ってねぇぞ」 それは別のモンダイのような気が…。 というわけで、父ちゃん的には 「ボンゴレ」=さすがイタリア ということになっているようだ。 イタリアでの食事は父ちゃんは大丈夫なのだろうか、ということについては、旅行出発直前にある程度訊いていた。 そうか……ピザは嫌いなのか…。 ところが、ここで頼んだマルゲリータなんてけっこういけるみたいで、父ちゃんは美味しそうに食べているではないか。 「父さん、ピザは嫌いって言ってなかった?」 うちの奥さんが尋ねると、 「今日生まれて初めて食べたけど、美味いもんだね」 食ったことなかったんかいッ!! まぁ、こうやってゴキゲンで食してくれていれば、それでいいか………。 うちの奥さん的感動料理ナンバーワンは、カルチョーフィだったという。 2日目の晩、隣に座っていたおじさん二人組が、ドンッと出てきたカルチョーフィを貪るようにぺロリと平らげたのを見た彼女は、是非とも同じものを食べてみたくなったらしい。 すまぬ、オジサンたちは撮ったのに肝心のカルチョーフィの写真はない。 で、カルチョーフィ。 イタ飯屋が日本で流行るようになって随分経つというのに、そして自分自身もけっして嫌いではないというのに、イタリア料理って、もっとなんというか、コッテリ系ばっかと思ってたのだ。 ところがサルティンボッカといいこのカルチョーフィといい、特に日本人観光客用に作られているわけではないのに、我々の味覚にぴったりフィットするではないか。 もっとも、「イタリア料理」というジャンルはないといわれるほどに、地域によってまったく異なる料理だそうだから、全土がそうなのかどうかは知らない。 にしても。 ようするにトラットリアってのは、日本で言うなら大衆食堂なのだ。 オジサンたちだけではなく、若い男女もデートする。 平日の午後8時より前だとたいてい空いているみたい。 ちなみに。 イタ飯屋で、オジサマ二人がパフェを食べるの図!! 日本じゃ想像すらできないけど、ここはイタリアなのである。 3晩も通うと、出会える面白いお客さんはパフェオジサマだけではすまない。 2日目の晩だった。 「あの方は日本をよくご存知ですよ」 ん? 「アナタノイタリアゴハスバラスィデスネ!」 に、日本語?? 「ドクガクデスカ??」 そんな熟語までご存知なの?? 「ドチラニオスマイデスカ??」 あ、我々は沖縄に住んでます……。 「オー、ワタシモイゼンナハニスンデマシタ!オキナワイイトコロデスネー!!」 え、え "―ッ!!彼のことを先生というような紹介をしていた気がしたので、シェフカメリエーレに「ドットーレ?」と訊ねると、 「プロフェッソーレ。」 その微妙な違いがわからないものの、その日本語オジサンは我々に名刺をくれた。
「オロカなエビスのコレはオニデス♪」 夷と書いてエビスと読むって知ってる日本人がどれくらいの割合でいるだろう?? これも何かの縁なので、彼には水納島の航空写真が含まれているポストカードセットをプレゼントしつつ、一応島の宣伝をしておいた。 いやあ、まさかこんなところで、沖縄に住んでいたことがあるイタリア人に会うとはなぁ……。 世界は広く、世間は狭い。 どうせ写真を撮るなら、カッコイイおねーさんカメリエーラとも一緒に撮っとけばよかったなぁ……。 そのかわり、シェフカメリエーレ氏と。 ちなみに。 サイトによると、このシェフカメリエーレ氏はシルヴィオさんというらしい。 ウェブページで日本人向けに「お待ちしています!」なんて言っているわりには、特段日本語対応をしているわけではまったくないので、そのあたり誤解のないよう……。 ともかくこうして、ローマでの夜は充実した日々となったのだった。 |