10・焼きいなり
石川門から出たところにある石川橋の左右にあったお堀は、明治以後すっかり埋め立てられてしまっている。 そもそもお堀だったわけだから、石川門から見ると遥かに眼下ではあるものの、橋を渡った対岸から続く坂道を下ると、道は橋下の県道とともに、国道159号に合流する。 地図で見るとその交差点の名前が「兼六下」となっていたので、なんで「下」なんだろうと不思議に思っていたところ、なんのことはない、ホントに標高差がけっこうある「下」だったのだ。 そこから信号を渡ったところがかつての白鳥堀で、そこで静かに暖かく金沢を見守っているのがこの方。
加賀百万石の祖、前田利家公だ。 「利家とまつ」で主役の座についたこともあるとはいえ、戦国時代から徳川の世に至るまでの間を描いた大河ドラマや歴史もので観るかぎり、基本的に今一つパッとしない感甚だしい戦国武将ではある。 でもこうして金沢城を拝見したあとでは、なるほどたしかに、生き馬の目を抜く戦国時代を生き抜いたヒトならではの何かがあるようなないような……。 その傍らから、さきほどの石川門が見える。
名物の雪吊りをバックに櫓だなんて、絵に描いたような金沢のワンシーン。 が、オタマサが指差しているものは櫓でも雪吊りでもなさそうな??? これだった。
池の鯉。 何もこういうところで鯉を手招きせずともいいだろうに…と言いたいところながら、いいんです、放っておいてやってください。好きなようにさせてやってください……。 我々がこのあたりに来た目的は、もちろん池の鯉でも前田利家像でもない。 兼六園入り口からこのあたりまで続く紺屋坂沿いは、いかにも観光地らしい土産物屋が並んでいる通りなんだけど(やっぱり木刀は欠かせないらしい…)、その並びにある店の一つこそが我々の目的地なのである。 場所が今一つ不明だったので、店探しがてら坂道を下ってきたところ、すでに行きの時点で早くも発見。 「これも気になるんだよねぇ……」 とオタマサが食いついたのがこれ。
兼六園限定! 名物の加賀蓮根を使っているのかどうかは定かならないものの、そもそも蓮根のお饅頭自体がもの珍しい。 このあたりは食べ歩きをしてもいいようだから、迷わず1個購入するオタマサ。
はたしてれんこんまんじゅうのお姿は…… こんなお饅頭。
てっきりお饅頭の餡こそが蓮根で作られたモノなのかと思いきや、中身は餡子で、外側の皮が蓮根風味なのであった。 一方僕のここでの目的は、その名を「焼きいなり」という。 その名の轟きようは、「焼きいなり」でググってみればたちまちご理解いただけることだろう。 そんな焼きいなりを、アツアツでいただけるのがここ、金沢兼六屋。
珍味と和菓子、そしていなり寿司という異業種3社がタッグを組んで営業を始めたお店だそうで、もちろん焼きいなり担当は焼きいなりの本家本元・加賀守岡屋である。
いなり寿司ぃ??といって侮ることなかれ。
そこでおねーさんに最大人気商品をお訊ねすると、キッパリ「鶏ごぼうです」と教えてくれた。 さっそくオーダーすると、油揚げが焼き上がるまで少々お待ちください……と。 ああ、厚厚の油揚げが、どんどん熱熱になっていく……。
お揚げさんが焼き上がると、店内で炊かれている鶏ごぼう飯が中に詰められ…… 食べ歩き用ということでモスバーガーのような包みに覆われた鶏ごぼう焼きいなりが、今ついに目の前に!!
ホント、写真がヘタですみません……。 さっそく一口。 こ………これはッ!! 激ウマッ!! 期待値を遥かに上回る、やる気モード全身漲り系の味。 この香ばしい醤油の味付けと、ほんのり漂う牛蒡の香り。そして存在感がありながらもあくまでも主張しすぎない鶏肉。 お昼前のこのひととき、今ここで焼きいなりに出会っているシアワセを、しみじみつくづく噛みしめているワタシ。 あまりに美味かったので、このあと兼六園を回ってから再訪し、今度は「ほたて」をお願いしてみたところ、これまたしみじみと美味しい。 しかし軍配は圧倒的に鶏ごぼう。 金沢城公園と兼六園という、由緒正しい史跡と国の特別名勝に挟まれた土産物ゾーンで、限りなくA級に近いB級グルメが燦然と輝いていたのであった。 いやホント、時間がない方へは、前田利家像を見るくらいなら是非とも金沢兼六屋へ、と強くお勧めしたい次第。 さあて、エネルギーも補給できたことだし、いよいよ金沢の代名詞、兼六園へいざ!! |