4・宿までの長い道
金沢駅の東口を出ると、目の前にドンとそびえたつ鼓門。
金沢のシンボルになって久しい。 地元の方々や観光客のみなさんはそんなカメラ小僧に対してとても優しく、この真ん中のスペースだってフツーに通路であるにもかかわらず、ほとんどの方が左右に分かれて歩いている。 ちなみに鼓門の背後にある、軽量金属の骨組みでできた近代建築のドームは、その名を「おもてなしドーム」というらしい。
景観的に鼓門とのバランスはどうなのよ…という意見もきっとあったろうけれど、明るいし雨はしのげるし、金沢駅を利用する大勢の旅客が、その恩恵に与っているに違いない。 このおもてなしドームを通り、鼓門を抜けると、そこはもう金沢市街だ。 金沢観光のPRでよく目にする風景だけが金沢だと思っていると、思わず面食らうほどの都会である。 さて、右へ行くべきか左へ行くべきか。 近頃の世の中はいつでもどこでもスマホスマホだから、頭の中になんにもなくともその場でなんとかなるようになっている。 実に便利な社会。 だけど。 僕にはスマホが無い。 それで頭の中までカラッポのままだと、駅から出た途端に路頭に迷うことになる。 だからこそ、現地でどこに行くか、何を食べるかということは、あらかじめ入念な検討と検証を重ねたリサーチのうえに成り立っているのである。 金沢滞在中に泊まる宿への道のりもまたしかり。 百万石の城下町とはいえ、観光ということになると実にコンパクトにまとまっている金沢にあっては、2、3日の滞在のためだけならさほど広範囲に渡る地図は必要ない。 輪島や能登まで足を延ばすとか、近隣の温泉に出向くなどしないかぎり、金沢観光はほぼこの範囲に納まるといっていい。
駅前には様々なホテルが軒を連ねているので、手軽に滞在しようと思えばそのあたりのホテルを利用するのがいいのだろう。 が。 どうせだったら、もうちょっと味のある宿に泊まってみたい。 というわけで選んだのが、町屋を宿に改装、いわゆるリノベーションを施した旅館だ。 そんな風情溢れる茶屋街のうち、浅野川沿いの主計町茶屋街にある「木津屋旅館」こそが、今回我々がお世話になる宿だ。 地図で見るかぎり、駅から歩いてだいたい30分ちょいってところだろう。
大した荷物を抱えているわけではないので、そのままテケテケ歩いていくことにした。 冷え込んだ鉛色の空から雪がぱらつくお天気とはいえ、意外に多いと聞いていた雨ではなかったので助かった。 駅から続く道をまっすぐ行くと、有名な近江町市場にたどり着くから、そこから左に曲がればいいと理解していた。 この場合、グーグルマップや観光地図などを観ると、上の地図のように必ずと言っていいほど、国道159号線が他の道とは色を別にして描かれている。 ここに落とし穴が………。
近江町市場までたどり着けば左に曲がってまたまっすぐ、するとほどなく川に出るからその手前を川沿いに左へ… あれ? なんか、通りに見受けられる地名のすべてに見覚えがないんですけど……? そうこうするうちに川にたどり着いた。 意地を張って見ずに済まそうと思っていたガイドブックを慌てて取り出してみると… ここにいた。
黄色く塗られていない道は頭の中から完全に消えていたため、近江町市場に出たら左折と思い込んでいた僕は、V字ターンで彦三町方面へと突き進んでしまっていたのだ。 このまま己を信じてさらにまっすぐ行っていたら、ますます取り返しのつかないことになるところだった……。 すべて頭の中に入っているから安心しなさい、フフフ…などとオタマサに大見得を切っていたというのに、のっけから大幅なロストマイウェイ。 大幅に道を間違えてはいたものの、このまま川沿いを南下すれば、目指す主計町茶屋街にたどり着くのは間違いない。 というわけで仕切り直し、本来通る予定ではなかった川沿いを行く。
茶屋街の風情溢れる川沿いしか目にしないはずだったところ、逆側から来ると実にフツーの川沿いの道。 しかしだんだん茶屋街が近づいてくると……
おお、趣のある橋が!! 道沿いにはガス灯っぽいデザインの外灯が並び、春になれば鮮やかに咲き誇るであろう桜並木。 やがて川沿いの道がいよいよここが主計町茶屋街であることをアピールし始めると…… ついに到着、木津屋旅館!! |