そのまま湯に浸かれば心停止するかもしれなかったから、食事後…もとい、飲酒後の温泉は差し控えた僕だったけど、朝7時から利用可能な大浴場で、朝食前のひとっ風呂。 さすが新館に拵えられた風呂だけあって、大浴場はレトロな大正館の家族風呂とは違い、いかにも今風の温泉的な風情だ。大浴場からドア越しに露天風呂も併設されている。 日替わりで男女の湯が入れ替わるそうで、昨夜も入ったうちの奥さんは、どちらも制覇したことになる。 この朝は女性側はなにやらにぎやかだったけど、男湯の方は親子2人連れの先客がいたのみ。 やっぱ広々としたお風呂って素敵だなぁ……。 そして迎えた朝食。 この鍋は、一方がお味噌汁を、もう一方は干物をそれぞれ温めるためのものだった。 冷めた料理はお出ししない、というわけである。 また、朝の竹の春には、こういった和食系朝食にもかかわらず、うれしいことにサラダバーがあった。 こういう食卓を前にして、しかも風呂上がりである。飲まずにいられるわけがない。 瓶はキリンのラガーでした。 ああ、心地いい……。 ● ● ● ● ● この日の朝はこの界隈を散歩することにしていた。 どうやら今日はいいお天気のようだ。 曇り空の下では厳かに見えた雪景色も、お日様の下で見ると何かが起こりそうな楽しげな気配に満ちている。 チェックアウトを済ませた後、フロントにて荷物を預かってもらい、身軽な装いでお散歩に。 木津の温泉街(…ってほどの規模じゃないけど)から海までは、直線距離で1キロほどという話だった。 それだったら、クネクネ寄り道しても午前中のうちに探索可能だ。 が。 除雪されているのは車道だけなのだった。 ところどころ除雪されている箇所もあったけど、基本的に歩道は雪に埋もれていた。 上の写真のように踏み固められている雪ならまだいい。 車道を歩かざるを得なくなる。 幸い交通量はさほど多くはないので、轢かれることもなく無事に歩き通せた。 そんな国道を歩いていると、どこからか カシャカシャカシャカシャカシャ……… 実にリズミカルかつアップテンポな耳に優しい音が。 丹後ちりめんを織る機織りの音だ。 とはいえ、以前なら通りすがりに覗くことができたであろう広い窓も、なにやらトタンで覆われていて、外から眺めることは不可能だった。 ま、そりゃあ、中で作業をしているヒトにしてみれば、ひっきりなしに観光客に覗かれるのも困るだろうなぁ。 あ、ちなみにご当地ゆるキャラ・コッペちゃんが着ているのは、もちろん丹後ちりめん。 ● ● ● ● ● さらにテケテケゆくと、ほどなくして夕日ヶ浦温泉街になる。 なかでも活気溢れていたのが、夕日ヶ浦にこの名物おばちゃんありと謳われている、「さかなや あおき」というお店。 どれもこれも、伊根漁港で見かけたお魚さんたちだから、きっとここ夕日ヶ浦漁港でも似たような漁をしているのだろう。 このお店では、那覇の牧志公設市場のように、店頭で選んだ魚を調理してもらっていただくことも可能なようで、できることならこのマトウダイを是非お刺身でいただいてみたかった。 後ろ髪を引かれつつ、さらに道を進む。 例年より2ヶ月は早いというこの冬の雪。 温泉街を抜けてさらにテケテケ進むと……… ついに海に到着!! オタマサよ、これが日本海の海だ!! ………って。 ほんの数日前のクリスマス寒波や、我々が去った直後の年末の寒波の際なら、まさに絵に描いたような日本海の海だったことだろう。 それでもやはり、これまで見てきた内湾とは趣が異なっていた(この浜は実は鳴き砂、ということだけど、コツがあるのか、我々には鳴いてくれなかった)。 広い砂浜には、貝殻もたくさん落ちている。 子供の頃、毎年夏の海水浴といえば日本海の海だった僕にとって、ピンクの二枚貝の貝殻はとっても懐かしい。 そしてこれもまた、「京都」なのだ。 京の都にお住まいだったお公家さんたちは、後年丹後の国が「京」と同じ京都府になるだなんて、きっと夢にも思っていなかったろう。 ゑびすやの女将さんの娘さんが、昨秋修学旅行で沖縄を訪れたそうだ。 この地方に限らず、狭い日本とはいえ、沖縄に、それも水納島まで来るとなると、時間的距離にすると気の遠くなるような旅を余儀なくされている方々がたくさんいらっしゃる。 それを思うだけで、我々現地の者としては感謝を捧げなければならない。 ● ● ● ● ● いよいよ丹後地方ともお別れだ。 海の幸満載のこの地でお昼をいただけないのは非常に未練が残るけれど仕方がない。 昼食をとる間もなく昼過ぎに乗車して弁当すらないというんじゃ、車中いささかわびしくなるじゃないか。 が、グラスはない。 ……落ちるところまで落ちたら何でもできるんですね、ヒトって。 我々が至福のご当地海の幸の食事をガマンし、車内で酒をラッパ飲みまでしてこの日昼過ぎ帰路についたのにはわけがある。 3時過ぎに待ち合わせをしていたのだ。 本来であれば旅の余韻に浸りつつ過ごす旅行後のひとときになるはずだったのに、どういうわけか午後4時前には… 錦市場で豆乳ドーナツを食べていたのだった。 |