Nディープ京都

 京都在住の友人がいる。
 当サイト掲示板や当ブログへの書き込みでは「パールヒロ」というハンドル名で登場する彼は、仲間内では通称タウチと呼ばれている。

 かつてこの旅行記に登場した際にはこういう状況だったけれど、その後時を経て、今では烏丸にある鍼灸医院にて副院長などというえらそうな肩書きがつくほどになっている(「院長挨拶」ページの副院長挨拶欄や、ブログなどに登場してます)。

 たまに帰省するときくらいには一席もとうとは思うものの、前回の帰省はなにぶん急だったこともあって、素通りで終わってしまった。

 そこで今回は計画的に事前に連絡を取ったところ、

 「ディープな京都を案内しましょう!」

 ということになった。
 そこに、たまたまタウチ氏と連絡が取れたというダイビングクラブの同級生が緊急参戦。

 通称パパリンコと呼ばれる彼女は、県内有数の優良ダイビングサービスである「ヴィアマーレ」のオーナー夫人で、うちの奥さんを含めて同級生に4名しかいなかった女性部員の一人でもある。
 嘉手納町出身の完全無欠のウチナンチュだ。

 ところが仕事の関係で、だんなと高校生の息子を置いて、昨秋から東京に単身赴任している。
 完全無欠のウチナンチュが、大都会東京で生きていけるのだろうか?

 そんな我々の心配をよそに、とりあえずこの冬の彼女の目標は、

 「ブーツが似合う女になりたい!」

 なのだった。

 そんな面々と、四条烏丸駅改札にて待ち合わせ。
 たった2泊ながら未知の土地・丹後地方を尋ねた旅情も余韻も、学生時代にともに海で過ごした彼らと会うとたちどころに3万光年彼方に吹っ飛び、京都にいるにもかかわらず沖縄沖縄状態になってしまったのは言うまでもない。

 そんな沖縄モードに包まれつつも、タウチ氏によるディープな京都が始まった。
 まずは超有名な錦市場へ。
 ディープというにはあまりにもメジャーな場所ながら、何を隠そう我々は生まれて初めて。

 魅惑的な食材がズラリと並ぶ一本道に、丹後地方全域の人口と同じくらいの人数がいそうなほどの賑わい。雪深い丹後地方も京都なら、ここもまた京都なのだなぁ…。

 その後隣接する新京極などの通りを徘徊してから六角堂を経由し、やってきたのがここ。

 ……って、どこだかさっぱりわからん。
 しかも、お店の名前なんでしたっけ??
 暖簾を見ると「太郎屋」って書いてあるけど……。

 海の幸ランチに未練を残しつつ丹後地方を去った我々としては、宴席会場を待ち合わせ場所にしてもらえれば、もう少し長く木津温泉付近に滞在できたんだけど…と思わなくもなかった。
 しかしどこともわからぬ路地の奥にあるこの店に自力で辿り着くなんて、到底不可能だったことが来てみてわかった。

 さすがディープ京都案内人。

 旧交を温めつつ、アリ乾杯!!

 ……って、もうすでに日本酒に移行しているヒト2名。

 料理は案内人タウチ氏がコースでオーダーしてあったらしく、京のおばんざい盛り合わせから始まって、次から次に出てくるのでもう記憶にない。
 そしてまた、お酒が美味い。
 なにしろタウチ氏が実家にいた頃懇意にしていたという酒屋さんに紹介してもらったというだけあって、選りすぐりの酒がズラリ勢揃い。
 いろいろ味わわせてもらったけど、とりわけ伏見の銘酒・富翁は相当美味しかったなぁ……。

 開店時刻に来たものだから当初は我々だけだった店内は、いつの間にか大盛況状態。
 そのまま根を下ろしてずっと飲み続ける……というのがうちら夫婦の普段のスタイルながら、ディープ京都案内人タウチ氏は、早くも次の店の検討を始めていた。

 そして訪れたのが………

 ……だめだ、店名を思い出せない。
 居心地のよいレトロな雰囲気に包まれた飲み屋さんだった。
 なんでもタウチ氏が15年ほど前に入ったことがある店だそうで、閉店間際にマスターと将棋を打ったことがあるという。
 どんだけ迷惑な酔っ払い客なんだ……。

 するとそのエピソードを、マスターはちゃんと覚えていたのだった。
 客商売の方って素晴らしい……。

 もうすでにみんな酔っているから、話はあっちへ飛びこっちへ戻りしつつも、まだまだお酒を味わえる余力はしっかり残っている。
 しかも飲めるお酒のジャンルも種類も豊富で、綺羅星のごときメニューの数々を見ていたら、そこに燦然と輝く文字が。

 「伊根満開」。

 伊根で訪れた向井酒造のお酒だ。
 気鋭の若い女性杜氏が生み出した、近頃人気のお酒である。
 試飲はしたもののちゃんと飲んだことはない。

 他の日本酒類にくらべてグラス一杯の価格がやや高めだったけれど、ここはひとつ旅の締めくくりに味わってみることにしよう。

 あ………………………美味しい。

 その日本酒離れした色同様、味も日本酒とは思えないほどなのに、たしかな飲み口にしっかりとした味わい。

 そして飲み進むにつれてほどよくトリップしている頭に浮かんでくるのは、遠い丹後の美しい舟屋群。
 今年もいよいよ押し詰まった師走の夜、京の都で伊根の桜がパッと花開いた。

●   ●   ●   ●   ●

 終電前に長岡天神駅前に場所を移して3次会まで進んだあと(3日ぶりにちゃんと肉を食った)、長岡京市にあるタウチ氏の豪邸に全員でゾロゾロとお邪魔をさせてもらい、雑魚寝。

 夫妻と犬3匹が住まう豪邸(新築当時、建築雑誌に掲載されたこともある)には、他に3人が寝られる布団の装備が無かったことに気がついたタウチ氏、わざわざ京都市内の実家から布団セットを借りてきてくれていたのだった。

 翌朝。

 未明から降り始めた雨がそのまま続いていた。
 奥様とともにあらかじめ用意してくれていた美味しいパンをいただいたあと、我々ディープ京都ツアー一行は、タウチ氏案内のもと、再び京都市内にやってきた。
 河原町だ。

 が、年末だからか雨だからか、いや、年末で雨だからなのか、それほどの人込みはなく、雨の京都もしっぽりとしていてなかなかいい感じ。

 我々田舎モノ的には「いかにも京都!」と思ってしまう、祇園近辺のスージィグヮーを練り歩く。
 このあたりは提灯をぶら下げたお茶屋さんが多かったけど、どこもかしこも年末年始のお休みに入っていた。

 正月からフツーに営業するお店が増えてしまったニッポンでも、さすが京都、こういうお店は昔どおりのスタイルを貫いているようだ。

 その後もいっこうにやむ気配のない雨の中、八坂神社や今宮神社、北野天満宮、それに大徳寺の端っことタウチ氏の母校・京都市立紫野高校などを徘徊。

 いずれにしても、お前らどんだけ拝み倒すんじゃ!!と神様からクレームが来そうなほど回ってしまった。

 そんな神社めぐりの合間にお食事。
 さてさて、ディープ京都案内人、いったい何を食べさせてくれるのだろうか。
 期待に胸をときめかしている我々に、彼は告げた。

 「美味しいラーメン屋があんねんけど……」

 「ヤダッ!!」

 女性陣2人によりソッコーで却下されたタウチ氏。
 まぁそれも当然といえば当然だ。
 沖縄から京都に、それもたびたび来られるわけじゃない人間が、そのうち一人はほぼ初めての京都というヒトが、そのラーメンがどれほど美味しかろうと話題になっていようと、誰が好きこのんで京都でラーメンを食べるというのか。

 そのあたりのピントのずれ方は、学生時代から変わらぬタウチ氏なのであった。

 吟味に吟味を重ねた、彼的に申し分ないコースの中にそのラーメン屋も入っていたのだろう。
 すっかり予定が狂ってしまうに違いない。

 しかし気を取り直した彼が案内してくれたお店がここ。

 ……ダメだ、店の名を思い出せない。

 ここは一見するとフツーのカフェに見えるんだけど、なんと豆腐屋さんが経営している飲食店。
 なのでメニューは当然ながら、豆腐尽くし!!

 京都といえば豆腐である。<そうなのか?
 が、あまりに格式高いお店だと、我々田舎モノとしてはキンチョーのあまり味がわからないまま終わってしまいかねない。

 その点こういうお店なら、リーズナブルかつリラックス。
 ランチタイムのセットメニューのひとつ、丼モノがこれ。

 生湯葉とおぼろ豆腐のハーフ&ハーフ丼。
 副菜もまた気が利いている。

 あわやラーメンを食べさせられるところだった女子2人も、にわかにゴキゲンモードに。

 タウチ、やればできるじゃん。

 雨の京都ではあったけれど、人間、お腹が満ちれば世の中すべて満ち足りて見える。

 その後嵐電に乗ったりした後、河原町駅にて彼らと別れた。
 パパリンコは、翌日沖縄から来るだんなと息子に京都駅で合流。
 我々は、正月を実家で過ごす。

 そして。
 久しぶりの、それも束の間の再会を果たし、市バスの1日乗車券を人数分用意してまで見事ガイドをしてくれたタウチ氏は……

 いつの日か訪れる第2回ディープ京都に備え、今日もまた京の街を徘徊するのであった。
 まぁ、ディープ京都というよりは、ディープタウチという気がしなくもないけれど……。