C笑うかさぼう

 再びケーブルカーに乗って下まで降りてきた我々は、「傘松ケーブル下」バス停にたどりついた。
 このあと、丹海バスに乗るのだ。

 同じ京都府とはいえ、京都市民から忘れ去られているかのごとき僻地、丹後地方。その心強い動脈となっているタンテツも、丹後半島の海沿いはまったく守備範囲にない。
 丹後半島を海沿いにもう少し北上する予定の我々は、ここからバスに乗るしかない。

 ただしこの丹海バス、京都市内をめまぐるしく走り回る市バスのようにひっきりなしに来てくれるはずはない。旅行者的には、1本逃すと取り返しのつかない事態になってしまう運行時刻表である。

 で我々は、この傘松ケーブル下のバス停で、15時32分のバスに乗る予定にしていた。ところが思いのほか順調に天橋立探訪が終わったため、バス停にたどり着いたのは14時9分。

 えーと、15時32分の前のバスは、と………

 え??

 14時8分???

 え?え?え?

 1分遅かったの??
 バスもう行っちゃった??

 近くの土産店の広大な駐車場で、通りかかる車相手に呼び込みの旗振りをしていた今にも凍えそうなスタッフの方に尋ねてみた。

 このあたりのバスは時間にピッタリなんでしょうか?

 「今の時期だったら、ほぼ定刻どおりでしょうねぇ」

 やはり沖縄とは違うようだ。
 ってことは………

 なんてことだ、ケーブルカー乗り場から降りてくる道沿いの、実に魅力的な干物屋をあっさりスルーしてさえいれば、計ったかのようなタイミングでバスに乗れたのに!!

 後悔先に立たず。
 仕方がないので近くにあったスーパーを覗いたりしつつ、どこかでお茶でもしつつ休憩しようと店を探してみたところ、なんとまぁ、これがまた図ったようにバス停の目の前にカフェがあった。

 飲み物だけのオーダーで申し訳ないけど入ってみると、店内は天橋立という立地とは無縁の、実にアメリカンな内装に彩られていた。
 内装はアメリカンながら、ステキなことに窓から天橋立が見える(真横だけど)。

 また、食材にはこのあたりで採れるものを積極的に利用しているようで、いわゆる地産地消の営業方針らしい。
 しかも、その立地にかかわらずかなりリーズナブル。

 ランチタイムが過ぎた店内は空いていて、じつにのんびりと暖かい。そして歩き回って疲れた体で味わうキャラメルウィンナコーヒーは、峠でいただく甘酒のように、体の隅々にまでエネルギーを運んでくれた。

 みなさん、傘松公園まできて休憩したくなった場合は、迷うことなくここ、セント・ジョンズ・ベアーをご利用くださいませ。

 そうこうするうちにバスの時間が迫ってきた。
 ひょっとして早めに来るかもしれないから、10分くらい前からバス停周辺をウロウロしておこう。
 ところが5分前になっても定刻になってもバスの姿はいっこうに見えない。

 まさか……運休??

 でも今宵お世話になる宿の女将さんに事前に一応確認したところによれば、今日は通常どおり運行しているとのことだった。

 ってことは、単に遅れているだけか。
 やがてバスは、5分ほど遅れて到着。ホッと一安心する我々。

 ……って、ちょっと待てよ。
 ということは、14時9分の時点で辛抱強く待っていれば、もしかしたら定刻14時8分のバスも遅れて参上ってことだったんじゃね??

 うーむ、なんともビミョーな1時間余をすごしてしまった。
 バス停のかさぼう(ご当地ゆるキャラ)、笑ったような笑わぬような………。

 我々を乗せた丹海バスは、国道178号線を一路北上している。
 丹後半島をグルリと巡るこの国道178号は、丹後半島沿岸部の大動脈だ。
 といっても片側一車線の道で、北上すればするほど、「ここをバスが通っていいんですか?」てなほどの道幅になってきた。

 車窓から見える雪もすっかり深くなっている。
 そして乗車時間30分ほどで、目的地のバス停に到着。

 バスを降りると、あたりはすっかり雪景色だった。
 なにやら道路工事のせいでバス停が臨時の場所になっているとかで、そのままでは沖縄から来た田舎モノが路頭に迷い、危うく八甲田山になってしまうかもしれないと危惧してくださったからだろうか、宿の女将さんがバス停まで車で迎えに来てくれていた。

 挨拶を済ませ、すぐ近くの宿へ。

 我々がこの日滞在する場所とは………

 ここだ!

 どこだ?