伊根の舟屋である。 そのほか、寅さんや釣りバカ日誌というかつての松竹黄金コンビでもロケ地になっているという。 僕がこの伊根の舟屋を知ったのは、随分前のナショナルジオグラフィック日本版のグラビアページだ。 へぇー、日本にもこんなところがあるんだぁ!! と、いたく感心しつつ興味深く読んだものだった。 それがまさか、京都だっただなんて!!<読んだんじゃないのか?? いや、読んでから随分経って、いつの間にか遠くのどこか……というイメージが勝手に出来上がってしまい、近畿地方、それも京都の海岸だなんてまったく記憶の片隅にも残っていなかったのである。 それが今回、うちの奥さんの「日本海に行きたい!」というワガママを成就すべくいろいろと行き先を検討していたところ、いきなりこの「伊根の舟屋」の文字が目に飛び込んできた。 今回行かずしていつ行く。 そしてついに、念願の場所に到着。 博覧強記の皆様方に今さら伊根の舟屋について説明する必要も無いだろうけれど、一応伊根町観光協会案内的に紹介しておくと、 「伊根湾に沿って建ち並ぶ約230軒ある舟屋は、1階が船のガレージ、2階が居間となった独特な建物です。海辺ぎりぎりに建ち並んでいるので、海から眺めると、まるで海に浮かんでいるかのように見えます。」 ということになっている。 でもそんな説明なんて、この風景を前にすれば蛇に生えた足のようなもの。 有人離島だというのに満足なスロープひとつない島で船を持つ身としては、究極の理想郷のようにすら見えてしまう集落だ。 しかし台風銀座の沖縄で暮らす我々からすると、とうていありえない立地。いったいぜんたい、波風が立ったらどうなるんだろう?? という素朴な疑問は、丹後半島の地図を見ればひと目で解決する。 丹後半島の東端にある伊根湾は、東西南北を陸地によって完璧にガードされているのだ。 かててくわえて干満の差がほとんどない日本海だ。 いってみればこの伊根の舟屋群もまた、天橋立と同じく何かどこかの条件が一つでも欠けていたら、この世に生まれ出ることはなかったに違いない。 すなわち奇跡の集落といっていい。 そう、舟屋を改装して宿にしているステキな旅館が、ここ伊根の舟屋群に何軒かある。 舟宿 太平荘。 1階、2階それぞれ一組ずつしか泊まれない宿で、我々がお世話になったのはその1階。 いやはや、完璧。 ほんとにもう、すぐそこが海面なんですぜ。 水上コテージのような趣もある縁側に出て隣を見てみると…… 舟屋が並んでいた。 もう少し早い時刻にこの風景を眺めていれば、空と水面と窓のガラスが夕陽で赤く染まっていたろうに、ついつい酒を買いに行くことを優先してしまった。 遠くの対岸にも、「ええにょぼ」の舞台となった耳鼻(にび)地区や亀山地区にずらりと並ぶ舟屋が見えるんだけど、この宿は伊根湾の最奥部あたりになるので、まん前の対岸はとても近く、もちろんそこにも、 舟屋が並んでいる。 さてさて、ひととおり宿の説明を受けた我々は、夕食でこの地の地酒を飲めるかどうかというかなり重要なことを女将さんに伺った。 もちこみOKだなんて!! …と思ったら、あっという間に着いてしまった。 ホントにすぐ近くだったのだ。 ここ向井酒造で最近売り出し中なのが、伊根満開というお酒だ。 が。 我々が今宵求めているのは「飲みやすさ」よりも、海の幸満載であろう夕食に合うもの。 特別純米酒 京の春。 赤い日本酒などという変化球ではなく、直球ど真ん中勝負のお酒である。なんてったって試飲してから選んだのだから間違いない。 ……はずだったんだけど、あれ?なんでだろう。夕食時に飲んだ味と、試飲の時の味が違うような気が……??? ひょっとして、ボトルによって味が違うと言われる「泡波」のような感じ?? このあと酒瓶を抱えつつしばらく散歩したのち、宿に戻ってお風呂に。 けっして温泉ではないものの、窓からすぐ手が届きそうなところに海が見えるお風呂だなんて、なんてステキなんだろう。 が、暮れなずむ静かな海を眺めながら入っていたのはうちの奥さんで、僕が入る頃にはとっぷりと日が暮れていたのだった。 さあて、散歩を終え、ひとっ風呂浴びた後は、いよいよ本日の晩餐!! いざっ!! |