ヴィラメンドゥ潜水日記

12月6日

ポンポンドーニでのんびりダイブ 

 今日はいよいよボートダイビングである。
 朝8時45分にはダイブセンター前に行っていなければならない。
 いつものように朝食後ダラダラしていられないのだ。

 朝食時、テーブルになにやらアンケートらしきものがあった。なんと今晩はキャンドル・ディナーということで、コース料理のメインディッシュの選択用紙だった。オプションとしてワインのリストも添えられていた。
 当然、ワインの項目にも印をした。シャフィーはそれを見て、
 「ワインは○○△□×ですね」
 と復唱したけれど、もちろんのことながら自分が頼んだワインが何だったかなんて覚えていないし読み方も知らないので、スペシャル価格で24ドルのヤツ、ときわめて具体的に答えておいた。

 ボートダイビングに出かける人たちはみな一様に9時前にダイブセンターにやって来るので少々にぎわう。出航前には器材を運びセッティングを済ましておかなければならないのだ。
 このあたりはゲストもスタッフも非常にきっちりしている。うちのように、9時30分に船を出します、と言っているのに9時35分くらいに桟橋に来るゲストはいなかった。ドイツ人だからかなぁ

 僕らが選んだ船は期待どおりガラ空きで、せっかくボートダイビングなのだからということで何台もカメラを抱えてきた我々としては非常に便利だった。
 ダイビングに関することはボートダイビングのコーナーに譲るとして、ドーニに乗っていて思ったのだけれど、わりとヨーロピアンダイバーもタバコを吸う。今や喫煙家は野蛮人を見るような目で見られる社会になりつつあるのかと思っていたけれど、案に相違してスタッフもゲストもけっこうみんな吸っていた。

 今回はドーニで50分かかるポイントだった。
 ミスクロワッサンなら15分くらいで行けそうなところである。でも南国モルディブはドーニで充分なのである。
 スピードが遅いから、併走するドーニがあると、船長たちはドーニ同士がぶつかるのではないかというくらいまで接近させる。跨げば船を乗り換えられるくらいまで近づけるのだ。遊んでいるのである。

 ヴィラメンドゥの周りは島が多く、どれもこれもみんな海抜2mほどの小島なので、見渡すとそこかしこに水納島があるようでおもしろかった。なかには地元民の島らしいところもあった。向こう三軒両隣は豪華リゾートだけに、かえってその島が際立って見えた。ちょこっと立ち寄ってみたい。
 ときおり釣りをしている小舟にすれ違った。モルディブは漁業の国ながら網を入れる漁法は無いので、ちょっとやそっと釣ったくらいじゃ全然魚は減らないに違いない。

 ポイントに着くと、スタッフのゴーサインのあとみんなジャイアントストライドで次々にエントリーする。けれど僕らはカメラを持っているのでそういうわけにはいかない。
 エントリーしてドーニスタッフ(黒い文吉さん=写真後方の人))からカメラを受け取る、という方法もあるけれど、流れていたらやっかいだから、水納島でいつものそうしているようにカメラを持ったままだっこちゃんロールでエントリーすることにした。
 ただし、ドーニは船縁が高いので、最後尾のほうから行かねばならない。
 船縁が高いとカメラを持ったままエントリーするのも大変だが、このボート3・ブルーバード号に備え付けのラダーはどう見ても構造的に無理があり、船縁にかけたら垂直どころかオーバーハング気味になってしまうシロモノだった。タンクを背負って登るのがつらいことつらいこと。

 潜水時間60分という制限があるものの、ポイントまでの往復が2時間弱だから、帰ってくるともういい時間になっている。それでいて午後のスタートも2時半と決まっているから、ハウスリーフでのんびりダラダラと潜っているときのようなマイペース感は半減してしまう。
 けれど、午前中のダイビングで今回初めてア・ロット・オブ・スーパー・メニイメニイなハナダイ類の群舞を見てしまったので、もう少しボートダイビングを楽しむことにした。

端境期はうすら濁り

 午前中は天気が良かったのに、なんだか雲行きがあやしくなってきた。これがウワサのスコールか、という感じの雰囲気もあった。
 けれどメリハリのある雨は降らず、空はどんよりしつづけていたため、透明度の悪い海中は暗くて不気味だった。

 透明度に関しては、この時期に高きを望んではいけない。
 1月、2月くらいがベストだろうと思う。
 なにぶん、安いという時期だったのと、ひょっとしたら作今の異常気象で12月の上旬でも透明度はいいかなぁ、なんて淡い期待を抱いてこの時期に来たのだけれど、ことボートダイビングに関する限りそれは甘かった。
 雨期の間は環礁の西側から東側へと潮が流れるので、環礁の東端に位置する島々は透明度が悪くなり、反対に乾期だと西から東へと流れるので、東端の島々は外洋から水が流れることになって透明度が良くなる、と言われている。
 7年前にバンドスに行ったときは2月で、モルディブは総じて透明は良くない、というウワサに反してすこぶるきれいだった。バンドスといえば北マーレ環礁の真ん中近くにあるのに、それでもきれいだったのだ。やはり透明度を期待するなら乾期に行くのがよろしかろう。

 で、覚悟していたとはいえやっぱり凄く濁っていたので、空が曇っていると海中はうんと暗くなる。台風後2,3日たった頃の水納島のような雰囲気だった。
 それでも不思議なことに、写真になると青く見えるんだから不思議である。生物的な濁りと土砂の濁りとの違いなのだろうか。水納島では一見青く見えるときでも、写真にすると緑がかるときがあるのだ。

キャンドル・ディナーは胃にやさしい

 ダイビング後、いつもならまた砂浜でビールをグビグビといくところであるが、どうも空があやしげで、雨が降りそうだったから部屋でグビグビすることにした。どっちにしてもグビグビするのだ。
 そうやってのんびりしていると、またしてもブゴォォォオオンという強烈なエンジン音とともに殺虫剤おじさんが巡回してきた。
 ガマンする時間はほんの10分程度なんだけれど、なんともはや、こればっかりはやめてもらいたいなぁ。藪の中にたくさんいるチャボたちの体内には随分デンジャラス物質が蓄積していることだろう。

  明日もボートダイビングと決めたので、夕刻ホワイトボードに書き込みに行った。
 なるべくゲストが多くなく、写真を撮りやすそうなところ、で探してみると、今日と同じ船になった。また黒い文吉さんの船である。

 さあて、今宵はキャンドル・ディナーだ。
 およそ僕らに似つかわしくない。それは充分わかっている。 
 でも、望む望まないに関係なくそうなってしまったのだから仕方がない。
 ディナーというとちょっとくらいは正装しなければならないかというとそうでもない。

 他のモルディブのリゾートでは、うるさいところだと夕食時くらいは襟付きのシャツに長ズボン、女性ならワンピースなど、という最低限のドレスコードがある場合が多いのだけれど、ここはドイツ人メインなためか、その方面の断りはまったくうるさくなく、僕らはムーディなライティングが施されたレストランに、いつものように裸足で入っていった。
 もっとも、逆にこういう場でのちょっとしたオシャレも楽しみにしている方からすると拍子抜けするそうである。眺め回したところ、キチンとした格好をしている人たちはきわめてレアであった。

 レストラン内はテーブルの上のロウソクが魅惑的な演出をしていて、早くも心はワインと肉に飛んでいった。
 なかなかロウソクに雰囲気があったので、メインディッシュが出てきたら写真を撮ろう、と思っていたのに、いざコース料理が運ばれてくるとカメラのことなんか3万光年彼方に消し飛んでしまった。テーブルに何もないときに撮った写真しかないのはそのためである。

 コース料理はなかなかであったけれど、残念ながらビュッフェと違っておかわりがない。我が腹的には八分目あたりで終了であった。
 でもよく考えたら、このあたりで小休止したのが良かったのかも知れない。この日は久しぶりに胃薬を飲まずに済んだ。