雨が降る降るヴィラメンドゥに……
雨であった。
このところ二日続けて夜中にバケツをひっくり返したような豪雨が降っていたのだが、朝になると何事もなかったように晴れている、というパターンだったのに……。
ウワサに聞いていたスコールというよりは、なんともジメジメしたしつこそうな、ちょうど梅雨のような降り方である。
そのうち止むよ、と言い続けつつも、結局傘を差して朝食へ。
雨が降る降る ヴィラメンドゥの森に……
でもこういうときは、グッタリとテンションを下げてしまってはつまんない。
潜るアホウに見るアホウ、同じアホなら潜らにゃ損損……という KINDONの名言もあることだし。
とはいえ、もしボートダイビングの予定にしていなかったら、潜らなかったかもしれない。それほど降っていたのである。
朝食のときに、冗談交じりにシャフィーに雨を止めてくれ、と言うと、雨は止めてくれなかったけれど、雨はワーレというのだ、と教えてくれた。ちなみに雲を含めた雨の時の全体の空模様はウィッサーラと言うそうである。
まぁ、僕らは水を愛しているのだ。水には海も雨も隔たりはないんだから、雨も愛している、ということを言うと、なかなかそのテンションの高さを気に入ったのか同じノリになってくれた。
ところで、朝食の時にはウィンナーと同じく豆料理が毎日出てくる。
大豆のトマト煮だと思う。
大豆の食い方はどうやらこれ一本のようなのだ。
日本に目を転じてみれば、一口に大豆と言っても実に食い方が多種多様である。
納豆、豆腐、枝豆、黄粉、醤油、味噌、煮豆……。こういうことを日本人はもっと誇りに思うべきだろう。田舎は町おこしというとすぐに欧米文化の猿真似をするが、その地にしっかり根付いている自分たちの文化がいかに優れているか、ということにもっと自信を持っていいのだ。
豆をまめまめしく食いながら、どんよりした空を眺めていた。
それにしても水着でダイブセンターに向かうときの寒いこと寒いこと。
よもやこんな寒い目に遭うとは夢にも思っていなかった。
部屋にはこういう時用のパラソルが置いてあったものの、一つは潰れていたので、小さなカサで相合い傘だったから濡れそぼつこと甚だしい。
青空の下、パラオではじけているであろうタコ主任と KINDONの得意満面の顔が雨雲の奥にポッカリと浮かんだ。なぜパラオか、ということについてはのちに触れる。
イレズミはダイバーの証?
水平線の彼方までどんよりと雲が覆っていたものの、ドーニは予定通り出立するようである。これくらいの雨はなんてことないようだ。
出発する頃には雨も止み、午前中は薄曇り、という程度で済んでいた。
ところが午後は、さあ行こうか、と部屋を出た途端凄い雨となり、ドーニに乗っている間も潜っている間も、延々降っていた。
新人スタッフ・ピーターにも、シャフィーに言ったのと同じようなことを言うと、
「おー、そうだそうだ、海も雨もみんな水だ!すでにダイビングしてるようなもんだ!!」
とやたらとノリが良かった。スタッフはいつでもテンション高く維持していないといけないから大変だなぁ、と思ったものの、実は彼は根っからそういう人だったのである。詳しくはダイビングレポートを参照。
2本目の帰りなどは、雨は降るわ白波は立つわ、まるで春先の水納島のようで、ウェットスーツだけで耐えていたら寒くなった。
こういう時も寒さに打ち震えていてはいけない。妙にテンションを高く維持して、雨の中の島々を眺めていたほうがいい。うまい具合に、波を避けるためにドーニはこれまでと違うコース取りをしたから、漁村や別のリゾートのラグーン内に入ったりして風景が行きと違って楽しかった。
というぐらい前向きのほうがいいのである。
僕らが乗った船は昨日今日とずっと同じだったけれど、4本とも微妙にゲストのメンツは違っていて、いろんなダイバーを観察することができた。
ほとんどがドイツ人の老若男女だったが、若い人にイレズミをしている人が多かったのが不思議だった。
スタッフはかなりの確率でイレズミしている。
イレズミがファッションになっているのは知っているけれど、普遍的に流行っているということなのか、ダイビングをする若者はイレズミをするのか。
アッラーの神よ…
今日はどうやら一日中雨模様で、ダイビングから帰ってきてからもシトシトシトシト、時には強く降り続いた。
当然ながら砂浜のビールタイムも夕陽もなく、部屋でのんびり読書となった。もちろんビールは欠かさない。
もともと出発前から、滞在中ず〜っと雨だったりして、ということは少しは覚悟していて、そうなったらそうなったで一日中酒でも飲んで読書しながら過ごそう、と決めていた。だから仮に大荒れになって潜れなくなったとしてもそれは想定されたケースだったのだ。それを考えたら雨が降っているくらいはなんてことはない。
けれども序盤はあまりにも天気が良かった。ああ、あの日々よもう一度、とついつい期待してしまうのは人情というものだ。
ああ、海神様、明日は太陽を見させてください。
あ、モルディブの神様はイスラムの神ではないか。
僕は厳かに西に向かって跪いた。
時折屋根を強く打つ雨音を聞きつつの夕食だった。別に雨だからといってやけ食いしているわけではないのだが、昨夜が八分目ディナーであったこともあって、またしてもたらふく食い、80万回目くらいの「食い過ぎたぁ」を連発する夜となってしまった。
この旅行出発前の渋谷での飲み会で、東日本営業部長からたくさん大正漢方胃腸薬をもらっていて、僕はこれに随分助けられた。
もともと仙一さんのセンロックを持ってきていたのだが、この薬は食前もしくは食間に服用しなければならない。まったく自覚のない僕はそんな事前の準備ができない。
その点、食後服用の大正漢方胃腸薬なら安心である。
東日本営業部長には、このほか抗生物質やそのほか説明は聞いてもよくわからない各種薬を普段からたびたびもらっている。離島民にとっては富山の薬売りなみに貴重な人なのである。
が、薬の力をもってしても、腹の膨れ具合はなかなかおさまらない。
ああ、神様、明日からは自重するのでどうかこの苦しさを抑えてください……。
僕は再び西の空に跪いた。 |