Nかんじきトレッキング・スタート編

 思わず酒をオーダーしたくなるえびや旅館さんの素敵な朝食をいただいたあと、いよいよかんじきトレッキングに出発だ。

 が。

 昨夕は青空の下で見えていた蔵王連山だったのに、今朝は5合目付近(?)にまで雲が低く垂れ込めている。

 ロープウェー動くのかなぁ??

 集合場所の観光協会事務所へ赴いた。
 はたして今日のツアーは??

 「ロープウェーは動くみたいなんで、大丈夫ですよ♪」

 おねーさんが教えてくれた。
 とりあえず第一関門クリア!

 ここで申し込み用紙に記入。
 当然のように住所を書く欄もあったので、フツーに記入してお渡ししたら、

 「え?沖縄からお越しなんですか???」

 まるで珍獣を見るかのようなオドロキの声をあげるおねーさん。
 スキーのためならいざ知らず、沖縄からわざわざかんじきトレッキングをしに来るってのは、やはり相当もの好きなのだろうか……。

 我々のほかに、ゲストが2名いらっしゃった。
 我々よりはやや上くらいのお年のご夫婦だ。
 その格好がすでにやたらと本格的で、ひょっとして我々って、とんでもないことに参加してしまったんじゃなかろうか……とやや怯んでしまった。

 それよりもなによりも。
 蔵王山岳インストラクター協会から派遣される本日のインストラクターってどんなヒトだろう。
 なりふりかまわず体育系的にガシガシ突き進むようなヒトだったり、八甲田山死の行軍の鬼軍曹だったりしたらどうしよう。

 同じ場所で同じ事をやるにしても、引率するガイドインストラクター次第ですべてが変わるということは、仕事柄とっても身近な話である。

 はたして我々のガイドさんは……

 この方だった。

 その名も会田茂雄さん。
 なんと、蔵王山岳インストラクター協会の理事長さんである。

 例えて言うなら、全盛時代の伊豆海洋公園で体験ダイビングを申し込んだら、引率してくれるガイドは益田一さんだった、というおよそありえないケースといってもいい。

 後刻うかがったお話によれば、一般ツアーの場合、インストラクターさんをスケジュールに合わせて割り振りするお役目で、自らはテレビの取材といった特殊ケースに対応することが多いらしい。
 でもいつもそれじゃあ他のインストラクターさんたちにカドが立つので、こうして自らを振り分けることもあるのだとか。
 そのためご本人いわく、

 「この冬初めての一般ツアーだよぉ」

 あいにくサングラスをはずしておられるときに一緒に写ってもらうのを忘れてしまった。
 そのお姿は、なんだかクロワッサンの超有名ゲストであるイトウさんのような趣きがあって、御歳72歳とは思えぬバイタリティでありながら、温厚篤実を絵に描いたようなたたずまいの方だった。

 鬼軍曹じゃなくてよかったぁ……。

 前日お邪魔した森スポーツでレンタル用品を装備し、さあて、いよいよかんじきトレッキングに出発だ!!

 このかんじきトレッキング、樹氷は山頂付近にあるため、中央ロープウェーとはまた別の場所にある、蔵王ロープウェー山麓線と山頂線を乗り継いで山頂駅まで行き、そこから山を降りていくコースになっている。
 だから会田さんが、

 「今は登山家じゃなくて下山家です」

 なんて冗談をおっしゃっていたように、とりあえず果てなく続く上り坂…なんて苦労はなさそうだ。

 そのロープウェー、朝からこんなに賑わっていた。

 誰も彼もスキー用品を持っていない。
 だからといってこの団体がみんなトレッキングするはずもなく、彼らはロープウェーで上まで行って、レストハウス近辺の樹氷を眺める人たちだ。

 10分間隔で運行しているここのロープウェーには、この一塊が全員乗車できるから、それほど待つことも無く我々も乗れた。

 これがスキー客も大勢来る3連休だと、1時間待ちってのもザラだったらしい…。

 ロープウェーから眺める景色がまた素晴らしい。
 途中の樹氷高原駅に近づくと、あたりは巨大クリスマスツリーの大売出し会場のようになり、さらに先へ行くと…

 〜♪霧氷

 トレッキングツアーには、この霧氷原を散策するコースもある。

 ロープウェーを乗り継ぎ、終点山頂駅に到着。
 そこでいよいよ、各自手にしていたかんじき装着!!

 我らがガイド会田さんが、一人一人に丁寧にかんじきを装着してくれる。
 こんな感じ。

 そして、かんじきを履いて準備を終えたオタマサは……

 ……珍獣になっていた。

 どこの星の生き物ですか??

 ま、見た目はどうあれ準備完了、いよいよこれから、待ってました我らが樹氷!!

 が。

 ……何も見えないんですけど。

 はたして我々は、無事に下山することができるのか!?

 緊迫の次ページに続く。