4・深夜の借金取り?
我々の那覇での定宿は船員会館。チェックインし、しばし休憩。 日中出ずっぱりのままとなると、飲みに出る前に疲労感が漂ってしまうところだけれど、こうして宿で風呂に入ってベッドで横になれば、さぁ出かけよう!!という、獲れ獲れピチピチのグルクンなみに鮮度の高い気合も入る。 さて、今宵の行く先は? 串焼き竹茂。 もちろん我々は一度も行ったことがないが、今夜そこで一緒に飲むことになっている人の紹介である。
なちゅらる院長だ。<またかいっ!! みなさんに言われるまでもなく、彼とはしょっちゅう飲んでいるような気がしなくもないのだが、うちの奥さんも交えてゆっくりと……というケースは案外ない。 この数々の魅惑のお店というのが、さすが食通院長、那覇市民だけあって情報量が豊富だ。いつでも気軽に行けるお値段というわけではないものの、年に一度と思えばこそできる贅沢を味わうには申し分ない店ばかり。以前行った寿司屋もイタ飯屋も、実に美味しいヨロコビのお店だった。 夕刻、それまでの晴天がウソのように突然降り始めた豪雨は、夜になっておさまりはしたものの、治療院ナチュラルへと向かう患者さんの足を完全に止めてしまったようで、9時頃になるといっていた院長の都合が8時過ぎには大丈夫ということになった。 その知らせを受けた我々は、いつまた降り始めるかわからなかったのでタクシーを拾い、ついでにナチュラルで院長を拾い、今宵のお店へと繰り出した。 串焼き竹茂は、那覇のバスターミナルそばにある、一見さん的にはちょっと敷居が高そうな飲み屋さんだ。店の佇まいからして見るからに高級感漂うお店で、もし我々夫婦だけだったなら畏れ多くて絶対に入りはしないだろう。 やはり、ハイサイおじさんなど一人もいそうにないお店である。 ハイサイおじさんになったのだった。 まずは乾杯!! 石垣牛のステーキ!! ユッケ!! ユッケを前に、こんな顔をしてヨロコビを表現する人が他にいようか(僕に鍼を打った瞬間も、実はこんな顔をしていた………という説もある)。 いちいちメニューが出てくるたびに写真を撮る、というようなはしゃぎ方をしていい店ではないのだろうけれど、なにしろ年に一度のゼータクなのだからそれくらいは許してもらわなきゃ。 美味かったなぁユッケ………。 あ、そうだ、上の写真には写っていないけれど、数々の美味しい串焼きの中で、最も意表をついた味覚で、かつ美味しかったのが、 生麩。 生麩といえば、これまでは実家で食べる茶碗蒸しや鍋の中で、おまけのような品としてフニャッ……………と力なく入っているだけのものと認識していたのだけれど、まさか焼いて食べるとこんな食感だったとは……。 こうして胃袋がシアワセとヨロコビの袋と化したあとは、河岸を変えて飲みつつ、結局いつものように麺類締めで今宵…………というかこの朝の宴は終わった。 せっかく宿を取っているというのに、朝4時半に帰ってきたのでは一泊代がもったいない。 ただし、院長と別れ、船員会館に戻ってきた僕には一抹の不安があった。 ………ではない。 未明の那覇の街を足取りも軽く船員会館まで歩ききった僕は、フロントを通過して部屋の前までやってきた。 息を整え、祈りにも似た気持ちでそおっと、しかし確実に音が出るようノックしてみる。 コンコン。 …………無反応。 ドンドン。 …………無反応。 う………。 ドガンドガンッ!! …………無反応。 このまますごすごと駐車場まで行き、車の中で寝なければならないのか!? グァババン!!グァババン!! もはや「ノック」というレベルを通り越し、声はさすがに発しなかったけどやくざの借金取り立てもかくやというほどに強烈なパンチ&キックをドアに放つ!! ドゥガガガン!!ドゴンッ!!バガガガガァンッ!! しかし!! ……………無反応。 そうだった…………。 そんなとき、僕の前頭葉前部に広がる空間に、スパークが走った。 そうだ、フロントに事情を説明すれば…………!! こうして僕は、みっともなくも恥ずかしい事態を説明すべく、フロントまでスゴスゴと。 こうして、なんとか鍵を開けてもらうことができた。 そして煌々と明かりが灯ったままの部屋には…… 心地良さそうにベッドに横たわるうちの奥さんがいた。 明日はいよいよ沖縄を発つ。 ま、こんなものか。世の中平和なのである。 スーピー、スーピー……… 規則正しい寝息だけが、部屋の中の唯一の物音だった。 |