6・赤い彗星

 利用するのはこれでまだ2度目なので、関空の中はまったく不案内だったものの、関空オフィシャルサイトにある地図で待ち合わせ場所を決めていた。
 で、出口を出てそこに向かおうと思ったら…………。

 出口で舞ってくれていた。あ、違った、なんだこの誤変換!!「待ってくれていた。」である。でも、舞ってくれていたら笑えたろうなぁ……。

 その舞っていたのではなく待ってくれていた方とは!!

 掲示板でおなじみの芳澤@茨木さんとその奥さんだ。
 この十年間というもの、水納島には毎年お越しになってくださり、なおかつそれが年に1度ならず2度までも、ということが多いから、実家の両親に会うよりも彼らに会っている頻度は高い。なおかつ、メールや当サイト掲示板、それにミクシィでもやりとりをしているために、お会いするのは昨年10月以来だというのに久しぶりという感覚がまったくない。

 ただひとつ違うのは、ここが大阪だということだけだった。
 そして…………

 寒い!!

 これが、気温摂氏ひとけたの威力なのか!!

 北極圏の寒さを耐えることができた上着を持ってきて良かった。

 さて、これからその芳澤@茨木さんの車に乗せもらうわけなのだが。
 その車こそが!!

 かつてルウム戦役で5隻の戦艦をザク一機で沈めたという………赤い彗星だ!!

 に、逃げろぉ!!

 ……って、ここで逃げてどうするのだ。
 その赤い彗星に乗せてもらうことこそが、本日の一大イベントなのである。

 その赤い彗星とは、もちろんMS−06S ZAKUUシャア専用機…………………ではなく、これである。

 三菱 ランサー・エボリューション]!!

 形式名CBA-CZ4A、通称ザクUならぬ”エボ]”。
 国内外における三菱のイメージリーダー的存在であるランサー・エボリューションの最新モデルで、余分な贅肉をいっさい削ぎ落とし、ただひたすら速く走ることのみを追求したスポーツカーだ。
 ……といいつつ、僕はまったく知識がないので、ウィキペディアに掲載されている文章を一部引用してしまおう。

 ギャランフォルティスとシャーシは共有しているものの、エボXの方が前輪を15mm前に出した分ホイールベースが長くなっているほか、ボディは前後オーバーハングを切り詰めて全長を75mm短くして旋回能力を高めている。また全高も10mm低くし、逆にトレッドと全幅を長くして走行安定性を高めている。ボディフレームには最高で980MPa級の高張力鋼を使用し、ねじり剛性や曲げ剛性を高めても重量増を抑えている。

 トランスミッションには、トルクコンバーターを使わない新開発の6速オートマチックトランスミッション「Twin Clutch SST」とオーソドックスな5速マニュアルトランスミッションが搭載される。

 エンジンはかつての4G63ではなく、新開発のオールアルミブロックエンジンの4B11が搭載される。4B114G63より軽量化されており、MIVECと組み合わされて最高出力こそ206kW280馬力)のままだがトルクは増強され422Nm43.0kgm)になりレスポンスが強化されている。自動車馬力規制が解除された後も206kWにとどまった理由として、エボといえど市販車である以上「扱いやすい高性能」を目指し、無駄な出力競争を避けるためと三菱は説明している。

 4WDシステムは新開発の車両運動統合制御システム「S-AWCが搭載される。ジェット戦闘機をモチーフにデザインされた大きく開いたフロントグリルが特徴的である。

 モデルは街乗りに主眼を置いたGSRと、競技ベース車となるRS2モデル。GSRSST搭載6AT5MTRS5MTのみがラインナップされる。 競技ベース車のRSは、GSRには標準装備されている助手席エアバッグやフルオートエアコン、スピーカーと言ったものが搭載されず、ヘッドライトもGSRのディスチャージヘッドランプに対し、安価なハロゲンランプになっているなどして価格と重量を抑えている。また、これまでは装備されていたリアスポイラーなどもオプション化されている。

 僕の豆腐頭ではなにがなにやらさっぱりわからないけれど、とにかく全日空のスキップサービスどころではない未来化ハイテクマシンであることだけはたしかだ。
 まさに「赤い彗星」の名にしおうハイクォリティマシンなのである!!

 ……が。

 あのぉ………人生も半世紀に到達された方が乗るマシーンなのでしょうか………??
 齢五十にしてここまで若い車に乗るのはなぜだッ!!

 坊やだからさ…

 昨年10月から発売開始されたこのマシンを、今年早々ようやく手に入れられた芳澤@茨木さん。その車に乗せてもらえる!!

 と喜んでいた出発前の我々に、事前に彼からメールが届いていた。

 「けっして乗り心地は期待しないでください」

 ??
 どういうことだろう? 

 という疑問は、乗った途端に判明した。
 シートが人間をしっかりホールドするようになっているのだ。なんだかシートにガシッと抱きかかえられているような気分。
 そして………
 プチトマト号のほうがよっぽど広い。
 居住性を追及したらスポーツカーになどなるわけがないのである。

 そして、駐車場を出た。
 いよいよこの赤い彗星の実力を体験するときが来た。

 見せてもらおうか。三菱の新型マシンの性能とやらを!

 空港から自動車道に入る道は、わりときついカーブになる。
 そこへ!!

 ありえないスピードで突入!! 

 え?え?え”――――――ッ!?

 マジッすか!?

 このオッサン、いきなり無理心中する気か―――ッ!?

 マジでそう思いましたね。
 だって、プチトマト号でこんなスピードで突入したら、あっという間に遠心力で吹っ飛んでまっせ。

 しかし!!

 このランサー・エボリューションXことランエボこと赤い彗星号は、ナニゴトもなかったかのようにものすごい速さでカーブを抜け、直線道路に躍り出た。

 三菱の新型マシンは…化け物か!?

 そのカーブでのありえないスピードには秘密があった。
 上記ウィキペディアから引用している説明書きの青地部分にご注目いただきたい。
 これ、簡単に言うと、カーブを曲がっているときというのは、内側と外側で本来は距離が異なっているのに、従来はそれに対応することができないでいた。しかしこの赤い彗星は、四輪それぞれがひとつずつ独立してコントロールされているため、カーブに応じて内側と外側のタイヤの回転速度をそれぞれ別々に制御しているというのだ(ということですよね??)。

 だから、普通の車だったら楽勝でガードレール突破するようなスピードでも、アスファルトをしっかりグリップしたタイヤはしっかりとコーナーを回りきってしまうのである!!

 マシンの性能の差が戦力の決定的な差であることを…………教えられた!!

 恐るべし、ハイテクマシン。
 そしてそのハイテクマシンは、高速道路に乗った瞬間、その威力をさらに発露させた。

 乗っている感覚は時速80キロくらいなのに、メーターを覗き見ると……

 ●●●キロ!!

 プチトマト号でこんなスピードを出そうものなら、即座に空中分解してしまうことだろう……いや、そもそもこんなスピードは出ない。
 にもかかわらず、、な……なんという安定感!!
 他の車たちが、まるで流星のように瞬く間に後方へ流れていく………。

 こんな高性能ハイテクマシンに、芳澤@茨木さんのご子息は初心者マークをつけながら乗っているのだという。
 ここはランバ・ラル大尉の言葉を借りたい。

 うぬぼれるなよ小僧!マシンの性能のおかげだということを忘れるな!!

 そんなマシンを駆る芳澤@茨木さんは、若い頃は六甲山あたりでイニシャルDだったそうで、まさにこの車はそういう人たちのためにこそあるといえる。

 流星のごとく後方に流れ去る車ばかりではなく、高速にはときおりとんまなドライバーがいて、分をわきまえずに追い越し車線をゆっくり進んでいたりするのだが、そんな車へのあおり方が半端ではない。助手席にいる僕は、何度右足を突っ張りかけたことか。
 しかし芳澤@茨木さん当人にとってはごく当たり前の展開らしく、前方の車に悪口雑言を浴びせつつエンジンブレーキをたくみに駆使し、前方の車にプレッシャーをかけまくる。

 あぁ………あぁ………こんなスピードでこんな接近して大丈夫なのか??

 当たらなければどうということはない!!

 おそらく前方の車のバックミラーを見たドライバーには、死角から飛び出してきて赤い単眼をギラリと光らせる、シャアのザクのような圧力に見えたことだろう………。

 一般に、ハンドルを持つと性格が変わる……という話がよくある。普段温厚な人が、ハンドルを持った途端、突然ガラの悪い言葉を、前の車などに激しく浴びせかけたりすることがままあるのだ。
 が、芳澤@茨木さんにかぎってはそんなことはまったくない。
 なにしろ、彼は普段からガラが悪いのである(爆)。

 「裏表がありまへんねん」

 本人はそうおっしゃるのだが。
 それって……いいこと…………なんですよね………きっと。

 それはともかく。
 この超ハイテクスーパーカーがマイカーである芳澤@茨木さん宅では、彼の通勤に際しての駅への送り迎えを、奥さんがやっている。
 つまり!!
 奥さんも茨木の街中をこのスーパーカーでかっ飛ばしているのである!!
 目が点状態でいる僕らとは対照的に、いかにも極フツー的反応をしておられる奥様K子さん。

 ひょっとして、ハンドル握った途端、「ランエボの女豹」になってるんじゃないでしょうねぇ??

 ともかくこうして、大阪を代表するオッサンが運転する、日本を代表するスポーツカーに乗せてもらって、我々は本日最初の目的地を目指していた。

 そりゃあ、こんなスーパーカーである。
 ランサー・エボリューション]である。
 そんなハイテク車に乗って行くところといえば、ココしかない。

 そのココとは??