13・横浜・味な店探訪

 夜が明けて11月4日。
 昨夜一瞬降った雨がウソだったかのように、今日もまた快晴の一日だ。

 この日は二晩お世話になったこのホテルを出なきゃいけないのだけれど、チェックアウトが12時というありがたい遅さだったので、この日も午前中はゆっくりできる。

 エンドレスナイトを過ごしたであろうリーダーやブクちゃんは生きているだろうか。
 隊長はどこぞの路上で寝てしまっていないだろうか。

 僕らはといえば、前日に引き続きいたって快調な目覚めであった。
 酒量がどれほど多くとも、寝る時間がたっぷりあると回復が早い。

 目覚めが快調だと、お腹も朝からちゃんと減る。
 昨日は洋食だったから、今日は和食にしてみよう。違いのわかる男によると、このホテルの和食レストランは、たん熊という、けっこう有名な店なのだそうだ。

 だからだろうか、朝食だというのに入り口では順番待ちのお客さんが数人いた。
 とはいえ朝食にそれほど時間をかけて食べる人はいないせいか、それほど待つことなく席に案内された。

 おかゆのセットを注文。すると仲居さんが尋ねてきた。

 「食前酒のシャンパンか、オレンジジュースがつきますけれどいかがなさいますか?」

 迷うことなくオレンジジュース。いくらなんでも朝からシャンパン、しかも和食には……

 「私はシャンパン!」

 こ、この女……!
 さすが頭が年中正月女である。

 やがて料理が運ばれてきた。

 わぉっ!!
 いろんな品がたくさんの小鉢で。
 完璧にうちの奥さんのツボである。
 「これだったら、シャンパンじゃなくて日本酒がいいなぁ!」
 その点に関しては、僕も激しく同意しておこう。

 そうこうするうちに、隊長とオチアイが揃って現れた。彼らも和食を選んだのだ。
 昨日は酒が残っていたために朝食にたどり着けなかった隊長、昨夜はオチアイが部屋に戻ったときにはすでに礼服のままベッドに突っ伏していたそうで、さすがに睡眠時間たっぷりだから今日は絶好調!?

 「いや、酒はしっかり残ってます……」

 あ、そうですか……。
 それでも、朝ちゃんと散歩したというだけあって、今朝はご飯を食べられるのだろう。
 そこへ仲居さんが来て、同じようにドリンクをどちらにするか訊いた。
 お酒がまだ残っている隊長、さすがに今朝は……

 「シャンパンいただきます」

 ………!!
 それでこそ、ごっくん隊・隊長なのである!!

 でも。

 「なんか、中途半端な迎え酒でかえってぶり返したなぁ……」

 隊長的には、どうせ迎え酒をするなら、とことん飲まなきゃダメらしい。
 彼が体を壊す日も近い……。

 彼らよりも一足早く店を出た我々は、今日も朝の散歩をすることにし、再び山下公園をめぐってから街へと入り、中華街をくまなく歩いてみた。
 ずっとメインストリートばっかりだったので、スージィグヮーに入ってみることに。
 これがまた面白い。
 中華街のシンジツは、大店舗が並ぶメインストリートではなく、こういう小さな筋にあるようだ。
 店頭に置いてあった「ウズラのピータン」を目ざとく見つけたうちの奥さんは、安いということもあって衝動買い。自分用のお土産らしい。

 お土産といえば、島の人たちにも買っていかねばならない。
 けれど今回はいったん埼玉に寄って再び横浜に戻ってくる予定なので、後日のための下調べだ。
 そうやってお店をめぐりつつ、帰り際に江戸清の巨大肉まんを購入。部屋に戻って食ってみた。

 うむ、有名なだけあってそれなりに美味い。しかもこのでかさだと充分に一食分となる。

 そんなこんなで、そろそろチェックアウトの時間が迫ってきた。
 ホテルニューグランドともついにお別れだ。
 朝はまだ寝ていたリーダーたちだったが(同じホテルで宿泊中)、オチアイや隊長が連絡をつけてくれて、12時にロビーで集合しようということになっていた。
 昨夜浴びるほど飲んだお酒が、まだまだ抜けきらないのだろう。そういう意味でも12時チェックアウトというのはありがたい。

 ロビーで待っていると、続々とみんな現れた。
 おお、リーダーもブクちゃんも生きていた!!
 そしてこの、二日酔いでグロッキーだったはずのリーダーが、突如横浜案内をかってでてくれたのである。
 再びリーダーの超豪華サルーン・ランクルに乗って、一昨日の晩に行った野毛へ。
 そこに、リーダーやブクちゃん推奨のおいしい食堂があるという。
 その名は……

 センターグリル!!

 なんでも、戦後間もない昭和21年に産声を上げたらしい。
 当時の外食なんてそれこそ庶民には高嶺の花だったのだろうけれど、米軍の町だから客には事欠かなかったに違いない。

 店舗は、奥の厨房は同じながらL字型に曲がる路地双方に別々の入り口があり、最初に入ったほうはいかにも大衆食堂というたたずまいだった。
 席がうまい具合に空いていなかったので、ショバを変えたのが写真のほうの入り口。
 2階席に案内された。
 よく言えば昔懐かしい、悪く言えばB級テイスト感溢れる魅惑のメニューがずらりと並んでいた。なんとなく、移転する前のジャッキーステーキハウスのような雰囲気だ。

 リーダーのお勧めはナポリタンだという。
 でもみんな同じものを頼んでもつまらないので、僕はここの定番メニューでもあるスペシャルオムライスを頼んでみた。

 そういえば、さっき肉まん食ったばかりのような気がするんだけど………大丈夫!!食べられる!!

 出てきたのはこれ!

 このソースが絶妙の味なのだ。
 料理も出揃ったので、さあ、乾杯!!

 もちろん、運転手のリーダー以外はみんなビールである。
 特に、昨日は食べる暇がなく、3次会以降はいつ潰れてもおかしくないリーダーの介抱係としてちゃんとしていなきゃいけなかったブク嬢にとっては、久しぶりに思いのままに食事ができる瞬間だ。そのため彼女は、エビフライとナポリタンをいっぺんにドドンと注文していた。

 ところで不思議なことに、北海道に行ったときは地元ですら出会うのが難しかったサッポロビールなのに、ここ野毛では店で出されるビールが普通にサッポロ。
 一昨日の三陽もそうだったし、ここもそう。
 どうやらサッポロビールの営業さんがんばっているようなのである。

 がんばれサッポロビール!!
 北海道に旅行した人が普通に飲めるくらいには、地元でも営業してね。

 一昨日の夜はブクちゃんがいなかったし、昨夜は新郎新婦は公共の人だったので、こうして水納島でのようにこのメンツで飲むのは、ようやくこのときが初めてだ。

 こういう席で聞く昨夜の顛末は、舞台裏の事情が聞けたりして面白い。披露宴翌日からすぐさま新婚旅行に行くというパターンもあるけれど、リーダーT沢さんとブク嬢はこの月の中旬から出発するそうで、おかげでこうして結婚式翌日にゆっくりお話ができるのだ。
 そして、リーダーが言った。

 「そういえば、今日は植田さんの誕生日ですよねぇ」

 そうなのである。
 この日11月4日は僕の誕生日なのだった。
 あらためて、乾杯してもらった。どうもありがとうございます……。

 それだけでもとってもうれしかったというのに、この後寄ったリーダー&ブクちゃん御用達の酒屋さんで、思いも寄らないプレゼントをいただいてしまった。
 この酒屋さん、その名を君嶋屋というのだが、その店内がものすごいのだ。
 なんでこんなにお酒が揃うの??と、あの違いのわかる男ですら目を丸くするほどの在庫数。日本酒から各種焼酎、そしてワインなどなど、目にしたことすらないようなものが所狭しと並んでいるではないか。
 先月、きのこ岩キノッピー氏が、いかに現地で手に入れるのが難しいかということを18回くらい力説していた黒糖焼酎朝日飛之流も、現地価格よりも安い値段でなぜかここには3本もストックがあった。
 そのほか、どういうわけか本部町にある山川酒造所の写真が飾られていたりして、このお店が相当なマニアであることをうかがわせる。

 そんなスペシャルワンダーランドで、リーダーは僕にどれか好きなヤツをプレゼントしてくれるというのである!!
 そ、そんな……。
 ただでさえ、包んだご祝儀よりもいただいたお車代のほうが多くて恐縮しているというのに、ここでこんなにしてもらっていいのだろうか……。

 といいつつ、結局選んでしまった。
 それがこれ。

 僕は黒糖焼酎が大好きなので、今まで見たことも聞いたこともないものを選ばせてもらった。なぜか値札がなかったので、いったいいくらなのかわからない。ごっくん隊から、ということで隊長も一口乗っていただいていたんだけれど、お値段は怖くて訊けない……。

 ともかくも、ごっくん隊のみなさん、お祝いに来たのに逆に過分なるお祝いをしていただき、まことにありがとうございます!!

 君嶋屋をあとにし、リーダーのランクルは引き続き横浜を走る。
 途中リーダーの実家を見たりしつつ、お次に案内してもらったのは、またまたハイソな空間・丘の上の山手である。
 そこに、ちょっとしたカフェがあるという。
 ここ。

 その名をドルフィンという。
 僕はまったく知らなかったのだけれど、知っている人は知っているらしい。そう、あのユーミンの歌の中に出てくるのだそうだ。
 その歌の曲名はなんだったっけ??
 もともと知らない僕はスッキリしたものなのだが、喉まで出てきてなかなか答が出てこない他のみなさんは随分心地悪そうだった。
 その答は、お店の中にあった。
 このように。

 お店が紹介されている雑誌に載っていたのだ。
 曲名は、「海を見ていた午後」だった。
 そこに書いてあるとおり、ユーミンファンの巡礼スポットとして一番人気なのだそうである。

 へぇ〜って感じ。
 ちなみに。
 僕ら世代でユーミンを知らない人はまずいないだろうけれど、これが二周りほども年齢が離れると、ユーミンといっても通じないこともある。一昔前ならドライブで聞く歌といえばサザンかユーミンかと言われていた頃もあったのになぁ……。

 そんなお店で、ゆっくりとお茶をした。
 いかにもって感じのオシャレな店内で、もう何度目になるだろう、ハイ、チーズ!!


お店のおね―さん撮影

 いやあ、楽しかったなぁ……。
 やっぱり旅行って、現地に詳しい人がいるとそれだけで何倍も楽しくなる。それがまたごっくん隊のような人たちとなれば、ファニーパワーは百万倍だ。
 このまま夜もまたどこかで飲み明かしましょう!!
 と言いたいところだけれど、我々はそろそろ横浜をあとにしなければならなかった。

 リーダー、ブクちゃん、本当におめでとうございます。そしてありがとうございました!!
 また来年、水納島でお会いしましょう!!

 ……といいつつ、実はこのあと彼らと再会するのであった。
 なぜ??
 数日後に明らかになるだろう。

 なので、ここで来年までのお別れになるのは隊長ただ一人なのである。
 隊長、お疲れさまでした。また来年、一緒に飲みましょう!!<潜りましょう、じゃなくて??<当然です!

 リーダーの車で、我々はみなとみらい線の中華街駅まで、オチアイは横浜駅まで、隊長は新横浜駅までそれぞれ送ってもらった。
 それではみなさん、ごきげんよう!!