明けて11月7日。
この日出勤していく弟君、通学していくカエデちゃん、通園していくシオリちゃんと彼女を送る若奥さんをそれぞれ見送り、別れを告げた。
この日我々は埼玉をあとにするのだ。
そしてこの日は、迎えがここに到着することになっていた。
わざわざ迎えが?どこから?誰が?
家まで直接だとさすがにわかりづらいので、元加治駅前で待ち合わせることにし、ひとまず我々は朝の散歩に出た。
何度も言うとおりうちの奥さんの実家の周りは散歩にはうってつけのところで、どこに行ったってテクテクテクテク歩ける。
そんな数多ある散歩コースのなかから、僕がいまだ行ったことがない白髭神社に行ってみることにした。
その昔うちの奥さんが小学生だった頃、学校の写生大会でこの神社を描いた作品が、埼玉県のコンテストで銀賞を取ったという。昔は画才に溢れていたらしいのだ。
その懐かしの神社へ。
これが、銀賞作品と同じ構図らしい。
見事なまでのシンメトリーが、逆に新鮮だったのだろうか………。
当初、写生大会のときは、うちの奥さんはこの両サイドの銀杏の木を省いて描いたらしい。それを見た担任の先生が、
「木もちゃんと描きなさい」
それで入賞である。
たしかに左右対称の構図的に、この木がある無しでは全然インパクトが違うよなぁ……。てゆーか、なぜに省こうとする??
このあとテクテクと歩き、入間川の川原に出た。
なんでもそこは、昔理科の授業で化石を取りに来たところだそうで、粘土質の岩をたたいていると、時おり海産の貝の化石などが出てきたという。
場所はこことは違うけど、この近辺にはナウマンゾウの足跡が残っているところもあるらしい。
石といえばリョウ君だ。
化石の一つも出れば、立派なお土産に変身する。
そう思った僕は、一生懸命探してみたのだが………
……ついに化石は発見できなかった。
というか、大の大人が二人、平日の川原で手を泥だらけにして何をやっているのだ………。
再びテクテク歩いていると、迎えの者から電話が入った。
今最寄のインターを降りたので、もうすぐ到着するとのこと。
そうか、では我々も駅に向かおう。
そうして待つことしばし。
ついに迎えと合流!!
ではでは、まずは築地家へご案内〜〜。
もちろん、てっちゃんグランドも見てもらおう。
さあ、その迎えの人とはいったい誰か??
ジャンッ!!
そう、違いのわかる男なのだった。
てっちゃんグランドにて、違いのわかる男と父ちゃんのツーショット!!
ありえな〜い!!
一昨年水納島にやってきたおり、父ちゃんはオチアイと会っている。ただでさえ誰隔てなく親しく話す父ちゃんだから、こうしてわざわざ訪ねてきた彼とも気さくに話をする。
まだしばらく畑仕事をするという父ちゃんとグランドで別れ、我々は茶を一杯飲んだあと、いよいよ今日の目的地を目指すことにした。
いったい、3人揃ってどこへ行くのか。
それは………
再び横浜へ!!
そうなのである。
3日前はいったん横浜を離れただけで、もう一度舞い戻る予定だったのだ。
それも、今度はお坊様のお寺を探訪しに!!
当然ながら夜は飲み会だ。
さんざん僕から麻雀でまきあげた軍資金で、ご馳走を振舞ってくれるという。
そして!
その飲み会には、スペシャルなゲストも参加予定だった。
なんだかますますここがどこだかさっぱりわからないメンツになってきたけれど、ともかく我々はここ入間からスーパーオチアイ号で横浜を目指す。
途中まではその昔伊豆に通っていた頃の道順のはずなのだが、もうすっかり忘れている。そのかわり、父ちゃんはその道のプロなので、国道16号に出る道を教えてもらい、いよいよ出発。
今日の予定のまず第一は………
中華街で中華料理を食べよう!!
なんてこった、せっかく中華街に滞在していたというのに、結局本当の意味での中華料理をまだ微塵も食べてはいなかった。どうやら今宵の宴席も和風っぽいので、このまま帰っては禍根を残してしまいそうだ。
なので、このお昼はどうしても中華料理を食べたかった。3年前の初中華街のときは、なんだかストレートど真ん中的に大通りの大きなお店に行ってしまったけれど、中華街の真の味は裏通りあるという。その道のガイドとしてはうってつけの違いのわかる男がいれば、よもや店の選択を誤まったりはしまい。
混雑の度合いがわからなかったので、いったい何時ごろに到着するのか見当もつかない状態の我々にはタイムリミットがあった。3時にお坊様と待ち合わせしているのだ。
その時間までにはお昼を食べ終わっていなければならないわけである。
しかるに時刻は刻々と……。
途中、わざわざ横浜道中バージョンとして選択してきたという、違いのわかる男セレクトのCDを聴きつつ(間違っても、キノッピーのように松田聖子であったり河合奈保子であったりはしない)、車はようやく八王子を抜け、町田を抜け、相模原を抜け………
横浜だ!!
なんだか懐かしいこの風景………。
そりゃそうだ、3日前までここにいたんだから。
中華街の入り口近くの駐車場に車をあずけ、いざ中華街へ!!
まずは待望の中華料理だ。いよいよ中華料理だ!!
確信に満ちた足取りで、違いのわかる男が歩く。
我々はただ、ついていく。
メインストリートから裏通りに入り、さらに奥へと突き進む。そして……
到着!!
その名も萬来亭。
いかにも場末のお店といった風情のたたずまいである。何度もいうが、シンジツの味とはこういう店にあるのだ。
1時半という、お昼を取るにはちょっと遅い時間が功を奏し、さして広くもない店内には客もまばらで、近所の店の人なのか、調理服を着た人とご婦人がそれぞれ一人ずついる程度だった。
近所の料理人が来るくらいなのだから美味しいに違いない。
いかにも場末の中華料理の店子らしいぶっきらぼうな応対で、おねーさんがお冷とメニューを持ってきてくれた。
おお……中華料理だ!!
ランチメニューから選んだ僕たちに対し、違いのわかる男は、一品料理メニューから、まずは前菜3種セットなるものを選んでいた。
「この前菜で、その店の実力がだいたいわかるんですよ」
なるほど……。
そして、その味に応じて次に頼むものを決めると良いのだという。
たしかに、ランチセットについているご飯でお腹を満たすのがなんだかもったいないような、魅惑のメニューの数々。
そんな魅惑の品々からもいろいろ頼んでみた。
なかでも絶品だったのが、スペアリブの香り揚げ!!
いやあ、これぞ中華って感じじゃないか。
そして、今まで見たことも聞いたこともなかったメニューがこれ、鴨の舌を揚げたヤツ!!(料理名を忘れてしまった…)
これがあなた、美味いのなんの!!
いやあ、これぞ中華料理だ!!食は中華にあり!!だ。
あまりにも美味しいので、生ビールを昼間っからグビグビと何倍も飲んでしまった。
あれ??
違いのわかる男も飲んでいる??
……そりゃあ、このメニューを前にしてお茶ってわけにはいかないよなぁ!!
でも!!
ってことは、このあとお坊様と待ち合わせているところまでは車で行けないってことか。
まいいか、お坊様は車だというから、我々がいるところまで迎えに来てもらおう!!懐の深い阿弥陀様のこと、お坊様をタクシー代わりに使ったからといって仏罰が下るようなことはあるまい……。
が、たとえ仏罰は下らずとも、天罰は下ってしかるべきという失態を我々は…というか僕はしてしまうのであった………。 |