今宵はまず、伊勢佐木町で6時から!!
ということだったのだが、我々の遅刻のせいですべての時間が後ろにずれていた。
浄念寺を後にした我々は、まず初めに今宵宿泊するホテルでチェックインしなければならない。
ホテルの場所は伊勢佐木町近く…というか、どんなに酔いつぶれても戻れるくらいの近さという条件で違いのわかる男が選んでくれたホテルは一軒目のお店のすぐそばだったので、お坊様たちには一足早く店に行ってもらい、我々は遅れて参上することになった。
チェックインを済ませ、とるものもとりあえず店に行くと……
ああ!!ごめんッ!!
お坊様たちに混じって、ブクちゃんがすでに到着していた。
え?ブクちゃん??
そうなのである!!
今宵はなんと、お坊様軍団とごっくん隊のコラボレーションという、前代未聞の宴なのだ。
リーダーT沢さんが仕事の都合で少し遅れるために一足早く来たブク嬢は、もちろんお坊様と面識はない。だからこういう場合、僕たちが間をとりもって互いの紹介をしなければならない。
ところが!
彼女が店に到着したときにはまだ僕たちはいなかった。
それどころか、恐る恐る予約席に近づくと………
ヤ、ヤクザがいる!?
先ほどまでの阿弥陀様の使徒姿からすっかり街のあんちゃん姿に変身したお坊様は、どこからどうみてもそのスジの方にしか見えないのだ。
マッチョな体にスキンヘッド、そしてそれっぽい服装……。
そんな人が待ち受けている姿を見た彼女は、一目で判断した。
「あ、店間違えた……」
踵を返して慌てて出て行こうとする彼女に気づいたお坊様が、半ば強引に声をかけ、ようやく両者は互いを認識したのだった。
ゴメンねブクちゃん、コワい思いをさせて……。
そうこうするうちにリーダーも到着。ああ!!働くサラリーマンの格好だ!!
さあ、あらためまして乾杯を!!
いやあ、まさかこういうところで、こういうメンツで飲める日がやってこようとは!!
楽しい!!
例によって鯉になっているごっくん隊
カメラのこちら側にももう一人のお坊様とお連れさんがいらっしゃる。
テーブルには、載せきれないほどのご馳走がずらりと並ぶ。焼き鳥、ステーキ串、刺身、てんぷら………。
昼遅くに中華料理をたらふく食った我が胃袋ではあったが、お坊様すみません、吾、唯、足るをまったく知ることなさそうです……。
このお店は「秋吉(あきよし……こんな字だったっけかな)」といい、かに道楽のそばの道を入ったところにある(横浜にかに道楽があるなんて!!)。
みなさん、2階の奥のほうの席に座ることがありましたら、僕たちがそこで飲んでいたんだなぁ、などと遠い目をしてください(笑)。
まだまだ肴は鬼のように残っていたのだが、ツアーコンダクターのお坊様は、僕たちを次のワンダーランドへと導いてくれるのだった。
2軒目は……なんとカラオケパブ!!
なんだこの懐かしい雰囲気は。
その昔、僕たちが学生だった頃にはまだカラオケボックスなどはなく、カラオケといえばこういうカラオケパブってのが普通だった。
カラオケボックスとの最大の違いは、歌を歌う場が公共の場だってことだ。
つまり聴衆は仲間内だけではないってことである。
歌なんて、人に聴かせてなんぼだという、正しい時代がかつてはあったのだ。聴かせるといっても上手い歌を…とは限らない。ノリや勢いでその場を牛耳ってしまうパワーが必要なのだ。
……という時代を経ているので、僕もこういう場はまんざらではない。
でも……カラオケなんて、水納小中学校での飲み会をのぞけば、いったい何年ぶりだろう??
まぁいいや、僕は人々の歌声を聞かせてもらうとしよう………と思っていたら。
「じゃあ、まずは社長、どうぞ!!」
……うーむ。
仕方がない。ここはひとつ、昔取った杵柄、長い夜のロングバージョン………つまり、長い〜夜を〜の部分を、長〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いぃ……と、何小節分も飛び越えて肺活量の限り引っ張るヤツね………でいくしかない。
あのー、うるさいですよ、騒々しいですよ、後悔しますよ??
「大丈夫です!!」
お坊様たちの力強い言葉に勇気づけられ、僕は思う存分公共の場で大声を張り上げるのだった。
ああ、気持ちよかった。
しかしそれは、単なる露払いでしかなかったのだ。
お坊様の歌声が、僕らにとっては初めてここに披露された。
う、上手い!!
この上手さは、学校の音楽の時間でいうところの「歌が上手い」というのとは違う。そう、こういうお店で場数を踏んで歌い慣れた、言い方を変えるなら…遊びまくっている人の上手さだ!
リーダーT沢さんが、ただでさえつぶらな瞳をさらに大きく見開き、指をさして叫んだ。
「なんなんだこの坊主は!!??」
まったく同感である。
そして、お坊様の友達のお坊様・M山さんも同様に上手かった。
横浜に住む遊びまくっている人というのは、みなそうなのだろうか、サザンの歌が異常に上手い。やっぱりこの地方の人にとってサザンオールスターズというのは、ヒーローなのかなぁ。ひょっとして世代限定??
しかし、M山さんが歌う歌はジャンル、世代を問わなかった。
オレンジレンジの「花」すら軽くこなしてしまうのだ。
もう一度言おう。
なんなんだこの坊主は!!
本業で喉を使うといったって、お経はある意味歌のようなものだといったって、世の中のお坊様すべてがこんなに歌が上手いはずはない。
お坊様のお友達M山さんは臨済宗のお寺の住職で、宗派こそ違えどお坊様とは学生の頃からのお友達である。それはもう、共に悪逆の限りを尽くしまくってきたという。
そんな彼らにとって、カラオケなんてものはこなして当たり前の必修科目だったのだ。学生時代、本業のほうで未履修科目はたくさんあっても、こちら方面で漏らしたものはまず何もないのだろう。
こうなればリーダーたちだって負けてはいない。
リーダーとブクちゃんには、こういう場でのいろいろなネタがあるらしい
リーダーのカラオケのノリは、僕にもなじみの深いノリである。
そう、酒のつまみとしての歌なのだ。
火がついたブクちゃんは、その後もハッスル!!
いつの間にかこういうことになっていた。
新ユニット結成か!?
そしてそして、島では絶対に考えられない、この人までが!!
オチアイのカラオケなんて、初めて聴いた……。
ここまでくると……。
カラオケとなると、絶対に聞き役にしか回らず、てこでも動かなくなるうちの奥さんにも白羽の矢が立った。
松田聖子メドレーなら歌えるだろう?助けてあげるから歌ってみろ!!
で、舞台に引きずり出したら、みんなに乗せられてこんなポーズをとらされ……
挙句の果てに、こんなことまでさせられたのだった。
はい、すみません、酔っ払ってます。
ああ、恥ずかしい……。人生の汚点だ。
そんなこんなで、飲みながら食べながら、みんな……というか、もっぱらお坊様たちの独壇場ではあったものの、みんな楽しく過ごしていたこの夜、最も素晴らしかった歌といえば……。
僕には、ここ数日ずっと頭に残っていて離れない歌があった。
旅行出発前に姫と、今と昔のヒット曲を歌って曲名&歌っている人を当てるクイズ合戦をしていたとき、ある程度歌えるものの曲名も歌っているコンビも誰だったか忘れてしまい、出題しようにも僕自身答えがわからなかった歌である。
以来、何かの拍子に頭をよぎるそのメロディ。
この歌を、お坊様たちに是非歌ってもらおう!
えーと、えーと、この歌なんていったっけ?
「夏の夜空のハーモニー!!」
さすがにみんな知っていた。
ではお坊様たち、お願いします!!
そして…。
これぞまさしく和尚がツー!!
それにしても……。
上手い、上手すぎる!!
完璧にハモッているじゃないか。
たしか歌ったことないとおっしゃっていたはずなのに、なにこのハモりぶりは。
もう一度、みなさんと一緒に声を揃えて言おう。
なんなんだこの坊主は!!??
こうして、夜の夜更けのカラオケパブに、素敵なハーモニーが響き渡ったのだった。
カラオケもここまで歌えれば立派な一芸である。
「いやあ、何度か続けて通えば誰でも歌えますよ」
M山さんが謙遜してそうおっしゃるのだが………あのー、普通は続けて通えないんすけど………。
このあと、M山さんとそのお連れさんたちと別れ、ごっくん隊夫婦およびバトルボーズさんと我々クロワッサン隊はまたお坊様のフルコースにのって、河岸を変えて飲んだ。
最初こそ、ヤクザかと思ってたじろいだブク嬢も、このころにはすでに完璧に「完成」されていた。先日の披露宴以降の宴席では、ずっとリーダーのお守り役に徹していなければならなかった分、今宵は完全に立場が逆転しているようである。
うむ、それでこそブクちゃんだ。
さらにこのあとは、お坊様行きつけのラーメン屋へ。
場末チックな、締めにぴったりのラーメン屋さんである。
懲りずにまた、僕はチャーシュー麺を頼んだ。
長きに渡った今宵の宴も、いよいよ終わりが近づいていた。
時刻を見ると、午前3時前。
リーダー、ブクちゃん、明日大丈夫??
そういえば、お坊様も明日は久しぶりに都内に出る仕事があるという。
なんと、仏教系の大学で講演をするのだそうだな。
それも、難しい演題名は忘れたけれど、実践僧侶学というかなんというか、ようするにお坊様を仕事としている人の実際、というものなのだそうな。
もちろんその中には、カラオケをいかに上手く歌うかという方法論も含まれているに違いない……。
というか、こんな時間まで飲んでいて、明日大丈夫ですか??
今宵の我々は、お坊様をはじめとするみなさんに完全無欠に接待していただいてしまった。
彼らはそもそも我々のゲストである。
だから、立場でいうと仕事上の付き合いなのだ、本来は。
でも、なんだか昔からの友人と飲み明かしているような気分になっていた。
シーズン中は、僕たちが生きていくためにやむなく彼らには料金を払ってもらっているものの、もし宝くじでも当たって食っていくのに何不自由なくすごせるようになれば、僕は喜んで友人として彼らを迎えるだろう……。
いやあ、美味しいお酒だった……。
お坊様、ごっくん隊のお二人、ありがとうございました。
間違いなく僕たちはこの夜のことを、
〜♪いつまでも ずーっと 忘れずにぃ〜
いることだろう……。 |