全長 30cm
赤味が強いその体色ゆえに、共産党の新聞のような名前になってしまったアカハタ。
温帯域にも適応しており、伊豆あたりで観られるものは、たしかにすべて赤味が強い。
五島列島ではプチ高級魚アカハタを「赤女(アカジョ)」と呼んでいるくらいだから、やはり赤いハタというイメージなのだろう。
ところが昔の図鑑には、「伊豆で見られるものは赤く、沖縄で見られるものは白っぽい」と書かれているものもあった。
たしかに水納島でも、砂底や礫底など海底が白っぽいところでは特に、随分色を薄くしている子もいる。
先にこちらが認識されていたら、名前は「シロハタ」になっていたかもしれない。
初手から降参しているようで情けない名前だけど…。
先述の図鑑でいう「沖縄」とは、おそらく著者本人が当時取材で足繁く訪れていたという座間味あたりのことで、現地の白い海底で観られるアカハタは白っぽいものばかりだったのだろう。
でも実際は、水納島でもちゃんと赤いアカハタも観られる。
岩場だからというわけではなく、海底がたとえ白くとも、赤っぽくなっているものもいる。
ただしチビターレとなると、岩場でも砂地でも、環境を問わず白っぽい体をしている子しか観たことがない(気がする)。
伊豆で観られるアカハタのチビって、どんな色なんだろう??
大瀬崎で潜っていた頃、アカハタのオトナにはしょっちゅう出会っていたけれど、チビを観た記憶が無い。
水納島のアカハタは、砂地のポイントの場合、まれに大きな個体が砂地の根にいたこともあったけれど、出会う機会が多いのは水深10m前後のリーフ際だ。
やはりハタなので縄張りへの闖入者に対する敵対心というか好奇心は旺盛で、大きな目玉をクリクリさせながら、ダイバーの動きをじっと見ている。
カメラを向けてもジッとこのままでいることも多く、しばしにらめっこ状態になる。
でもそこに、不躾なオグロトラギスがいきなりカメラとの間に入ってくると……
アカハタはプーッと膨れて怒る。
無作法は許せないらしい。
アカハタといえばたいていこんな感じで海底に鎮座していることが多く、泳ぐ姿といえば鎮座する場所を変えるための移動のときくらいしかない。
どちらかというとジッとしているほうが好きなようだ。
でも、一朝事あるとその動きは素早い。
ある日のこと、8本足クリーチャーに襲われたので、正当防衛をして処理をしたところ、その残滓(?)に目ざとく気づいたアカハタは猛然とダッシュ、すぐさまかぶりつくや、咥えたままあっという間に物陰に移動した。
どうやらそれがご馳走であることは知っているようで、ここから飲み込むまでがまた早かった…
…んだけど、いかんせん獲物が大きすぎて、一口じゃ飲み込めなかったらしい。
するとそこに、異変(?)に気づいたニジハタもやってきた。
その後2匹で激しく奪い合うこととなり、アカハタ、せっかくのご馳走を独り占めできず…。
でも奪い合ったおかげでいい感じに獲物が引きちぎれ、かえって食べやすくなっていたような気もする。
リーフ際などではニジハタと生息場所がかぶるアカハタは、ときにはこのように食べ物を奪い合うこともあるようだけど、基本的に両者は互いを尊重しており、いがみ合っている様子は見られない……
…けれど、仲がいいというわけではない。
このときも傍らからアカハタが来ると、ニジハタはスッ……と場所を移した。
同じような場所で暮らしながら、ちゃんと住み分けしているようだ。
それでありながら、共通の敵(?)を相手にするときは、両者は手を組む。
例によってサビウツボが、よせばいいのにリーフ際をウロウロしていたものだから、それに気づいたアカハタ&ニジハタコンビが執拗に追いかけていた。
ニジハタも相当ウツボ類を目の敵にするけれど、この時はアカハタのほうが執拗で、このあとさらにしつこくしつこくサビウツボにつきまとっていた。
それにしてもやはりハタ類はかしこい。
観ていると、サビウツボがニョロニョロッと岩の隙間に入り込むと、アカハタはサビウツボが出てくるであろうところを予測し、そこに移動して待ち構えているのだ。
頭がいいのはわかったけれど、サビウツボを待ち構えて、彼にいったいなんの得があるのだろうか。
ひょっとすると、野性味あふれる猫がネズミを見つけたら反射的にハントしたくなるのと同じような、本能的なものなのかもしれない。