全長 25cm
夜の帝王を代表する知名度を誇るアカマツカサ。
きらびやかなサンゴが彩る世界に潔く背を向けた彼らは、昼なお暗い穴蔵で多数が集まっている。
時には「ひしめき合う」といってもいいほどの密度で群れていることもあり、このサイズの魚が暗いところで思いのほか大きな群れを作っていると、やはりそれなりに迫力がある。
ライトを当ててみると、その真紅の体が暗闇にクッキリと浮かび上がる。
見慣れた方にはおなじみの光景も、体験ダイビングなどでこの魚を初めてご覧になる方をご案内している身には、つかみはOK的ありがたい魚になってくれる。
そんな彼らも夜になると、穴蔵から抜け出して自由自在に夜の海を闊歩する。
涙が零れ落ちそうな大きなお目目は、夜の海でブイブイいわすためにあるのだった……
……という説明で紹介していれば済んでいた、ガイドに優しい時代は終わってしまった。
というのも、今まで「アカマツカサ」と案内してきた魚の中には、実はアカマツカサではないものも含まれていたことに多くのヒトたちが気がついてしまったのである。
ややこしくなるからこれまでなるべく避けて通ってきたのだけれど、事ここに至っては(どこに至ったの?)もはや知らぬフリはできない。
なにしろ、前述の体験ダイビングの際などに「アカマツカサの群れ」と紹介してきた群れひとつとっても…
少なくとも矢印の先の子は、アカマツカサではないと思われる。
このようにアカマツカサの群れに他の種類が混じっている場合や、時にはまったく他の種類だけで群れていることもあるから、とにもかくにも昔馴染みの「アカマツカサ」だけでも区別したいところ。
もっとも、このグループの他の稿でも繰り返し述べているとおり、アカマツカサの仲間たちを写真だけで判別するのは研究者ですら至難のワザだそうだから、ワタシのような凡百のシロウトが100パーセント正しく区別できるはずはなし。
それでもとりあえずは個人的指標で、アカマツカサを他と見比べてみよう。
まずアカマツカサが他の仲間たちと随分違って見えるのは、下顎だ。
ウケグチイットウダイほどではないものの、他のそっくりさんたちに比べ、アカマツカサの下顎は随分前に突き出ている(A)。
それに対し、よくアカマツカサに混じっている「別種」と思われるものは、それほど下顎が突き出ない(B)。
こうして見比べれば、顔つきも随分違っているように見える。
じゃあBは何マツカサなの?という話になるとまた長くなるので、それはまた別の機会に。
それよりもまずは、クロオビマツカサと(個人的に)同定したものとアカマツカサは、何がどう違っているのか。
下顎の突き出具合いなんてのは、上のように同時に見比べなければその場で違いがわかりづらい。
では何を手掛かりにするかといえば、それは鰓ブタあたりの黒い帯の塩梅だ。
↓これがアカマツカサ(だと思っている種類)。
そして↓こちらがクロオビマツカサ(だと思っている種類)。
お気づきのとおり、アカマツカサの黒帯が刀のように上に向かって先細りなのに対し、クロオビマツカサのそれは、上側もほぼ同じ太さになっている。
以上を踏まえれば、↓この群れは……
…クロオビマツカサの群れ、ということになる(あくまでもワタシの個人的見解です)。
では↓こちらの群れは……
一番大きく写っている左の子はアカマツカサっぽいけど、どうやらここには3種類くらいいそうな気配。
となると、アカマツカサでもなく、クロオビマツカサでもない子とはいったい??
※追記(2023年11月)
砂底に点在する小ぶりな根は夜の帝王を団体様でもてなせるほどのスペースがないから、ひと坪ほどの小さな根でアカマツカサのオトナたちを見かけることはまずない。
そのかわり、夏場にはチビチビの姿を見かけるようになる。
根の暗がりから出たり入ったりを繰り返してチョロチョロする姿がとっても可愛らしいチビターレたち。
とはいえオトナでさえ種類を見分けるのが難しいのに、チビターレとなるとシロウトの手に負えるはずがない。
…ということを踏まえつつ、とりあえず上の子はアカマツカサと認定してしまおう。
3cmほどのこのチビターレ、オトナでも体に比して大きなオメメが、これほどのチビとなるととてつもなくでっかい。
そんなオメメの顔を前から見ようものなら…
…けろっ子デメタン級になる。
彼らが潜んでいる根の暗がりには、タテキンベビーやミナミハコフグなどメジャー級のチビチビや魅惑的なエビやカニも観られるから、注目されるケースはほとんどないと思われる夜の帝王のチビターレ。
でも彼らの可愛さに気がついたアナタは、もうスルーしている場合ではない。