全長 25cm
誰しも最初に疑問に思うこの名前。
いったいぜんたいなんでどうして「赤」モンガラなの?
その答えのヒミツは彼らの歯にある。
よく見ると、なるほど確かにドラキュラのように(ドラキュラの歯は赤くないけど)凶暴そうな赤い牙があることに気付く。
そもそも本当は「アカハモンガラ」という名になるはずだったのが、論文記載上の単なる脱字でアカモンガラに決定してしまったそうな。
ホンソメワケベラ同様、にわかには信じがたい命名秘話である。
彼らアカモンガラは、水納島で観られる他の多くのモンガラたちとは異なり、中層でプランクトンを食べる生活をしている。
プランクトンを餌にする魚たちは、餌の奪い合いで争う必要がないから、潮通しのいいところに集まる傾向がある。
餌場で群れているアカモンガラたちときたら、まるでダンスパーティーでもしているかのように、みんながみんな勝手気ままに楽しそうに群泳している。
そのような採餌中は中層にいるために、釣り人に釣られる機会もわりと多いようだ。
カワハギの親戚のようなものだから白身はたいそうおいしく、釣果としても喜ばれているアカモンガラ。
我々ダイバーとしては、そんな上層で群れ泳いでいる彼らは遠くから見守るしかない。
けれど、根の周辺にいるときは、我々人間が近づくと警戒して一斉に下降し、隠れ家である根の付近までやってくる。
そしてさらに本格的に危険を感じると、アカモンガラは穴の中に潜り込む。
と、ここまでは危機管理能力の点で、けっこう優れた反応&行動と思える。
ところが彼らが逃げ込んだ穴を見ると、ほとんど100%の確率で、尾ビレがヒロロ〜と出ているのである。
これぞまさしく、頭隠して尻隠さず。
尾ビレだけならまだマシなほうで、なかには下半身から見えているものもいる。
本人はこれで隠れているつもりらしい。
尾ビレの先がこのように出ていると、つい引っ張ってみたくなるというのが人情というもの。
実際やってみると、アカモンガラは体をプルプル震わせて(背ビレを立てて引っかかるようにしているらしい)、ググググと音を出しながら、全身で「やめてくれ〜」と訴える。
このように逃げるばかりが彼らの姿ではない。
水納島におけるアカモンガラは、灯台近辺のわりと潮通しがいい砂地のポイントではなにげない砂底に、岩場のポイントではリーフの切れ目に溜まった砂底にそれぞれ産卵床をこしらえ、卵を守っている。
卵を直接守っているのはやはりメスだ。
でももともとオス1匹にメスが複数の群れで暮らしている彼らだけに、この産卵床のそばで、別のメスが同じように卵をケアしていることが多い。
産卵床の卵はこんな感じ。
おからのようにモフモフして見えるのは卵に砂をまぶしてあるからで、小さな小さな卵自体は、クラシカルな肉眼では確認できないほどに小さい。
この小さな粒が、ひとつの産卵床に星の数ほど。
朝から夕刻までの1日で終わるシゴトとはいえ、卵のケアをし続けるママも大変である。
おまけに、卵を狙ってかたまたまか、産卵床のそばに、ひっきりなしに他の魚がやってくるから、それらを追い払うのもママの仕事だ。
一方絶倫オスには、そこかしこで卵を守っているメスを守る、という任務がある。
なので繁殖期ともなると、一歩でも彼らの縄張り内に踏み込もうものなら、オスが猛然とこちらに向かって突進してくる。
赤い牙を剥き出し、自分より何倍も大きな相手に向かってくるその姿は、普段の頭隠して尻隠さない逃げっぷりからは想像もできない勇ましさだ。
ところで、アカモンガラのオスメスは、体形的には尾ビレの伸長や背ビレ尻ビレの形に違いが見受けられるけれど、色彩的にはほとんど変わらないと思っていた。
ところが、興奮モードだからなのか、オスはときとしてメスと際立って……というほどではないにしろ、明らかに異なる色をしていることがある。
体の中央部付近の色がかなり薄くなって、普段の「黒い」イメージとはまったく違って見える。
この色のオスはけっこう攻撃的ではあったけれど、この時周りに多数いたメスは誰も卵をケアしていなかった。
ひょっとするとこれは、やがて産卵に至る前の婚姻色モードなのだろうか。
そんな両親の奮闘の果てに、やがて砂底に点在する小さな岩々に、小さな小さなアカモンガラベビーの姿が観られるようになる。
ヒレを目いっぱい使ってピロピロピロピロ〜と泳いでいる様は、遠目にもたいそう可愛い。
毎年夏になると、そんなチビたちが砂底に点在する小さな岩に集まり、他の小魚たちと一緒にピロピロする様子が観られるようになる。
とはいえビビるとすぐさま穴に逃げ込むのはチビターレも同様で、そーっと近寄らないとアッという間に穴に逃げられてしまう。
さすがにこれほど小さいと、全身スッポリ隠れてしまうから、影も形も見えなくなる。
チビターレをじっくり観たければ、そぉーっとそぉーっと近づかなければならないのだ。
秋になるとそれらのチビたちもけっこう成長していて、アカモンガラらしいフォルムになってくる。
そしてひと冬越せば、彼らもまた中層で繰り広げられるアカモンガラ・パーティに仲間入りすることだろう。
※追記(2024年5月)
中層で気高く群れ泳ぎ、動物プランクトンを食べているアカモンガラたちではあるけれど、彼らもやはり御馳走には目が無いらしい。
シロタスキベラほどのサイズになれば産卵・放精する際にはかなり中層まで上昇するのだけれど、ちょうどそのあたりに群れているアカモンガラたちにとって他の魚の卵といえば、高タンパク高エネルギーの願ってもない御馳走だ。
おまけにシロタスキベラは、傘下に多くのメスを抱えているから、産卵・放精を連発する。
アカモンガラたちにとっては、まさにチャンス到来!
自分の卵は鬼の形相で守る一方で、他人の卵は御馳走にする、これがサバイバルの世界なのである。