全長 15mm(写真の個体のサイズ)
水納島の主要ダイビングスポットは白い砂底が広がっている。
それを我々は「砂地のポイント」と総称しているのだけど、ひと口に砂地のポイントといっても、砂粒の細かさやサンゴ礫が混じる度合いなどビミョーに環境が違っていて、砂底で観られる生き物たちにも違いがある。
そんな砂地のポイントのひとつに、ついついやたらと砂底を徘徊して回りたくなるところがある。
慣れない方が一見しただけではただ砂底が広がるだけに見える海底には、各種共生ハゼたちがウジャウジャいたり、ウミウシがウヨウヨ這い回っていたり、砂底から生えている海藻やサンゴ・イソギンチャクの仲間に小さなエビ・カニがいたりするから、変態社会にお住いの人々には魅惑の世界でもあるのだ。
それもあって、他の砂地のポイントに比べ、一望砂底の場所を徘徊する際に「目を皿のようにする時間」が長くなる傾向があって、そのせいかこのポイントでは他では観ていない魚をよく見つけることができる。
写真のネズッポの仲間もそのひとつ。
そのサイズ、わずか15mmほど。
一見してミヤケテグリやセソコテグリたちが属するコウワンテグリ属の仲間であろうとは想像がついたものの、はてさて、チビターレのくせにこんなに赤みが強い子なんて観たことがない。
15mmほどといっても実感が湧かない方用に、例によって人差し指対人比をば。
ありゃ?こりゃ15mmもないな……。
この砂底では他にもネズッポ系のチビターレとは会っているのだけれど、他はいずれも体が白くて脇に多少の赤味がある、ミヤケテグリやセソコテグリのチビターレでお馴染みの色合い。
それらと比べるとまったく違う色味で、とにかく観たことがないテグリ系であることはたしかだ。
そこで!
現像が上がってくるとすぐさまスキャンし、例によって瀬能さんに写真を鑑定していただいたところ、これまた例によってすごく丁寧なご返信を頂戴した。
以下、当時(2000年)いただいた瀬能さんからのご回答。
「コウワンテグリ属であることはほぼ間違いないですが、ミヤケやセソコとは明らかに違いますね。
第1背鰭がすでに大きく、雄の幼魚と考えられますが、それ以上のことは不明です。
この仲間で、すでに日本にいることが判っていて、幼魚の知られていないものにアカオビコテグリやサークルド・ドラゴネットがあり、色彩を考慮すると、特に前者の可能性があります。いずれにしても興味深い幼魚です。」
なにぶんギリ前世紀のことだから、その後20年も経てば状況は少なからず変わっているはず。
ためしにネット上でアカオビコテグリの幼魚をサーチしてみると、今ではフィールドで幼魚が確認され、撮影もされていることがわかる。
ただ、ネット上のアカオビコテグリの幼魚の写真を見るかぎりでは、ここで紹介している子とは違うような……。
一方魚類写真検索データベースには、2000年当時には存在が知られていなかったらしい、コウワンテグリ属の1種の写真があった。
標本写真の撮影者は瀬能さんのお名前になっているけれど、伊江島の水深63.5mから採集してきた方は、おそらく伊江島にこのヒトありと知られているあの方だろうと思われる。
ひょっとして、上記リンク先のテグリのチビターレってことはないですかね??
いずれにしてもこのチビターレは、後にも先にも2000年の4月が唯一の出会いだから、どうにもこうにも今さら確認のしようはない。
あー気になる。あなたはいったい何テグリ?