全長 25cm
釣り人にとってはなんとも験の悪い名前のボウズハギ。
テングハギモドキなどわりと大きくなるニザダイの仲間たちと比べると、形は似ていてもそのサイズは3周りほど小さい。
とりたてて特徴的な色形ではないけれど、目全体が黒目に見えるくらい目の周りが黒くなるため、なりは小さくとも遠目に見てもやけに目立つ。
そのフォルムは、幼児がテキトーに一筆書きで描いた魚の絵のよう。
シンプルフォルムに黒目がポチ。
単純すぎて、むしろそれが海中での存在感を持たせている。
かつての水納島ではそんなボウズハギたちが、常時20匹〜30匹くらいの群れを作っていた。
白い砂地のポイントの青く澄んだ海中を行き交う彼らボウズハギの群れは、一服の涼風のように爽やかで心地よいものだった。
ところが。
いつの間にやら、ふと気がついたころには彼らの姿をほとんど観なくなってしまった。
当たり前のようにいつでも観られたあの涼しげな群れも今は昔、近頃ではかろうじて2〜3匹がショボショボと所在なげにウロウロしているばかり。
あの群れはいったいどこに行ってしまったんだろう。
そのかわり。
ヒメテングハギの稿でも触れたとおり、ボウズハギがフツーに群れ泳いでいた当時はまったくといっていいほどいなかったヒメテングハギが、今ではけっこうな群れを見せてくれるようになっている。
魚たちのなかには、幼少期とオトナとで暮らしの場所を異にしているものが多い。
ニザダイの仲間にもそういう傾向があるものがいて、ヒメテングハギなどはどちらかというと内湾的な環境で幼少期を過ごすようだ。
ボウズハギの場合はヒメテングハギともテングハギモドキとも異なる幼少期の過ごし方をしているのかもしれず、ひょっとすると以前までは確保されていたチビたちの安住の地が、すっかり失われてしまったのかもしれない。
ボウズハギ激減の背後に幼少期を過ごせる環境の消失があるのだとすれば、では、ボウズハギのチビターレたちは、本来どういうところで暮らしているのだろう?
ボウズハギ復活のカギが、そこにあるに違いない。
※追記(2023年10月)
ここ数年でボウズハギの数が随分増えてきた。
ただし往年のように群れが群れのまま目の前を通過していく…ということはなく、20匹くらいいてもわりと広範囲に散らばっているし、たとえまとまっていてもまったく近寄らせてはくれない。
でもこの調子で増え続けてくれれば、昔のようにまた「ボウズハギの群れ」を楽しめるようになるかもしれない。
※追記(2023年12月)
…という追記を10月に書いていたのだけど、その2ヵ月後の12月には、ほぼほぼオトナサイズのボウズハギが50匹以上の群れになっていた。
いつもなら近づくとサーッ…と遠のいていくはずのところ、けっこう強めに流れていたおかげでワタシが近寄づいたあともしばらく根の傍にたむろしたままでいてくれたボウズハギたち。
あいにくその場に居た全員を画面内に納めることができなかったけれど、肉眼ではかなり壮観だった。
ボウズハギたち、この調子で昔のように定番シーンになってくれることを期待しよう。